第4話夢の世界
目を覚ますと、ぐっと背伸びをする。いつもはジリリリとうるさい目覚まし時計の音で目を覚ますのだけど、今日は自然と目が覚めた。なんだか全く寝た気がしないけど、そういう日もたまにはある。
ただ一つ不自然なのは、やけに頭が冴えていること。寝起きとは思えないほどスッキリとしている。あと、なぜかやたらとベッドが硬い。まるで地面に寝ているかと錯覚するほど硬い気がする。そんな違和感を感じながらも、私はパチッと目を開けると。
「……何これ?」
思わずそんな言葉が漏れ出る。目に映った光景は、まるで現実のものとは思えないような場所だった。地面は赤茶色のタイルで、建物は日本のものとは思えないような形をしている。空は薄暗い色で覆われていて、ここが現実世界じゃないことを教えてくれる。
つまりは夢だ。うん、そうに違いない。だってどう考えてもおかしいもん。目を覚ましたらいきなりこんな場所にいるなんて、とても非現実的だ。
だからここは夢の世界だ。そうとしか考えられない。夢なのに夢を見ているとハッキリ認識できるけど、きっとそう言う夢だ。不思議なこともあるもんだな〜。なんてことを呑気に思いながら、私は適当にこの街を散策する。
本当によくできた夢だ。家の細部まで細かく作り込まれている。私はこんな場所、行ったことも見たこともないのに。キョロキョロと不思議な街を見渡し、私は試しにほっぺをつねってみる。
痛い。え? なんで? 夢のはずなのに、なんで痛覚があるの? ……まあいっか。きっとそう言う夢なんだ。そう決めつけると、途端に楽しくなってきた。夢なのに夢だとしっかり認識できるなんて、ものすごく貴重な体験だ。
だったら目が覚めるまでに、少しでもこの世界を探検してみよう!
そう考え、適当にアテもなく歩いてみる。見れば見るほど不思議な世界で、少し奇妙だけどどこか幻想的で。とても不気味なのに美しい世界だ。そんなことを思っていると、一人の人間を発見する。
どうやらこの世界にもちゃんと人がいるらしい。つまりあの人は、私が作り出した幻影ということだろうか? 試しに話しかけてみよう。興味本位で、私は目の前を歩いている男性の肩をポンと叩いてみる。叩かれた男性はビクッと肩を震わせると、恐る恐るといった感じで私の方を振り向いた。髪型は短髪で、身長は私よりも頭一個分ほど高く、男らしい男という感じの外見をしている。私はそんな彼に。
「こんにちは!」
元気よく挨拶してみると、その人は私の全身を見るように目線を動かした後に。
「こんにちは……」
おどおどと怯えた様子で挨拶を返してくる。
どうやら私の作る幻影は礼儀がいいらしい。まあ私が礼儀正しいから当たり前のことだけど。それにしても、見た目と性格のギャップがすごいなこの人。こんな形相をしているくせに、やけに気弱というかなんというか……。そんなことを思っていると、彼は不思議そうな顔をして私に質問をしてくる。
「あの、誰ですか?」
私が誰だか全く見当の付いてない様子に、少しだけ驚く。私が作り出した幻影なのに、私のことがわからないのか? まあだったら自己紹介をしよう。私が作り出した夢ということは、つまり私はこの世界の神様ということになるのだろう。ごほんとわざとらしい咳払いをすると、意気揚々に。
「私は七瀬仁美。この世界の神様だよ!」
なんてことを言ってみる。言われた目の前の男の子は、「何言ってんだコイツ」というような表情を作り上げ、訝しむ眼差しを向けてくる。
「えーと、七瀬さんは神様ってこと?」
「うん、そうだよ」
「へ、へぇ〜」
なんだこのやり取り? なんだか面白いな。私はこの意味不明なやり取りを思い返してみて、笑みをこぼす。突然笑い出した私をみて、目の前の彼はさらに不審な目を私に向けてくる。
「あの……」
そして、さらに追加で質問をしてこようとする。その言葉を私は無理やり遮り。
「ちょっと待って。私も自己紹介したんだから、君も自己紹介をしてよ」
次は君のターンだと言わんばかりにそう言うと、私の言葉に彼も納得した様子で、確かにそうですねと言い、改まって自己の紹介を始めようとする。そんな彼の言葉を、私はワクワクしながら待ち望む。一体自分の作り出した幻影が、どんな自己紹介をするのかとても気になる。キラキラした眼差しを向けて彼の自己紹介を待っていると、彼は無難に。
「八田峻輝です」
とだけ答えた。
「え、それだけ? もっとなんかないの?」
あまりにも短い自己紹介に拍子抜けした私は、もっと彼の情報を求める。
「なんかと言われても。えーと、好きな食べ物は焼肉で、嫌いな食べ物は煮干しです」
「違うよ、そんなことじゃなくて! もっとこうなんだろうな……」
頭をひねり、私の求めている回答が返ってくるような質問を考える。
そうだ! 彼の生い立ちを聞いてみよう。果たしてどんな答えが返ってくるのか。
「ねえ、それじゃあ峻輝の生い立ちを聞かせてよ」
「お、生い立ち……」
「うん。どこで生まれてどうやって育ったか」
一体なんて答えるのか気になり、ワクワクした視線を向ける。
「生い立ちですか。神奈川県で生まれて、その後に親の都合で東京に引っ越して、普通に学生として過ごして……」
……え? 私は頭がこんがらがる。東京? なんでこの世界の人間が東京とか言ってるの? しかもやたら具体的だし。この人は私が夢で作り出した幻影じゃないの?
様々な疑問に襲われ、私の脳みそはパンクしそうになる。とりあえず詳しい話を聞きたい。私は近くの大きな家のようなものを指差すと。
「ねえ。とりあえずここじゃなんだしさ、一旦この家に入らない?」
状況を整理するため、そう提案する。
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