第3話1日の終わり
昼休み。私は今朝自分で作った弁当を鞄から取り出すと、それを机に広げる。広げ終えると同時に、弁当を持ってきた梓が私の机の上にそれを置く。
「仁美〜さっきはありがとね」
「ううん、別にいいよ。でも今度からはきちんとやってくるんだよ?」
「うん。次こそはちゃんとやるよ!」
「そう言って梓がちゃんとやってきた試しがないんだけど」
「つ、次はやるよ! それよりも早く食べよ」
梓は話を逸らすようにして、目の前の弁当を食べ始める。いつも私は梓に頼られ、それを無条件で助けてしまう。このままじゃ梓が将来ダメ人間になってしまうのではないかと心配なんだけど、私は頼まれると断れない性分なんだ。
私の良くないところだ。ついつい甘やかしてしまう。でもまあ、嬉しそうな梓の顔を見られただけで良しとしよう。
私は梓に続くように弁当の蓋を開けると、それを食べ始める。
「仁美の作るお弁当はいつ見ても美味しそうだね。あずさの唐揚げあげるから、そのコロッケ下さいな」
「え〜ハンバーグもつけてくれるならいいよ」
「えぇ。足元見るな〜。まあ仁美にはいつもお世話になってるし、全然いいよ」
なんてやりとりをしながら、私たちは食事を食べ進める。梓とはいつも他愛のない話をする。中身のない適当な話をしている時が、なんだかんだ言って一番楽しい。だから私は特に意味もなく、今朝テレビでやっていたニュースについて話を振ってみる。
「ねえ梓。最近話題になってるニュースってあるじゃん?」
「ニュース?」
アホっぽい顔で聞き返してくる梓に説明する。
「ほら、例の突然意識を失っちゃうってやつ」
「あー知ってるよ。あずさもツイッターで見て、怖いなーって思ってたんだ」
そんなアホっぽい感想を述べると、梓は手元の携帯を触りながら。
「ねぇ、それよりも見てよこれ! この前話した、あの大人気俳優の吉沢亮くんが主演の映画が明日公開だって! ねぇ仁美。この映画見に行かない?」
グイッとアイフォンの画面を前面に押し出すように、梓はツイッターを見せてきた。正直あまり興味はないけど、まあ暇だし付き合ってあげるか。
「うん、いいよ。じゃあいつ行く?」
「ほんと!? じゃあ来週あたりでどう?」
「うん、わかった」
そんな話をしていると、学校のチャイムが鳴り各々自分の席へと戻って行った。もうそんなに時間が経ったのか。やっぱ人と話していると時間が早く感じる。そんなことを思いつつ、私は次の授業の準備をする。
5時間目の授業が終わると、私は修学旅行についてまとめられたプリントを配る。
私たちの学校は今週の土曜日から修学旅行だ。そのための最終確認やらなんやらの話し合いをしなくてはならない。まあとは言っても、別段話し合うことなんか特にないので、みんな各々喋りたい人と雑談などをする時間になると思うけど……。
そんなことを思っていると、早速梓が私の席にやってきた。
「仁美! 修学旅行いくら持ってく?」
「んーあんまり持っていく予定はないけど。梓はどうするの?」
「あずさ? あずさはとりあえず三万円以上は持ってこうかなって思ってるよ!」
へへんと謎のドヤ顔を梓はしてくる。
「三万って、何に使うの?」
私が首を傾げて質問すると、梓は楽しそうに天井を向きながらお金の使い道を語り出す。
「え? お土産買ったり買い食いしたり、そのほかにも色々あるけど」
「え〜それにしても多くない? 私なんて一万円しか持っていかないつもりだけど」
「ええ! それは少ないよ!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
なんて会話をしていると、同じ班の同級生が美容院で染めたての綺麗な金色の髪をひらひらなびかせながら、話に割って入ってきた。
「仁美たち何話してんの?」
「えーと、修学旅行にいくら持っていくかって話してたの」
そう口にすると、何故だか金髪の同級生は誇り顔をし始めた。
「へーちなみに二人はいくら持ってくの?」
「私は一万で、梓が三万円」
私たちの持っていくお金を聞いた同級生は、その瞬間ニヤリと勝ち誇った笑みを作り。
「へー、そうなんだ。ちなみにうちは五万」
ふふんと自慢気に胸を張る。そんな同級生の言葉に対抗心を燃やした梓が。
「じゃああずさは六万持ってこ」
張り合うように、そんな発言をする。そんな梓にさらに対抗するよう、同級生は。
「じゃあうちは八万にしよ!」
高らかに宣言する。
「ぐぬぬ」
悔しそうな梓の表情を見た同級生は、これでもかというほどのドヤ顔を披露する。
「はい私の勝ち」
「く〜。今月はもうお金がないんだよ」
この二人は何をそんなに熱くなっているのだろう……。くだらない言い争いをしている二人の発言に呆れつつも、どこかおかしくて笑ってしまう。そんなくだらない話をしていると、六時間目はあっという間に終わった。
それから帰りのホームルームが終わると、クラスメイトたちは部活動に行ったり、そのまま帰ったりと、各々別の目的地に向かった。私はと言うと、部活動にも入っていないのでそのまま直帰する。
母親がいないため、家事全般を私が担っているのだ。とてもじゃないが、時間がない。
「じゃあね仁美。また明日」
「うん、じゃあね」
梓に帰りの挨拶をすると、すぐに駐輪場に向かい家へ自転車を走らせる。家に着くと、制服や父の上着など、まだ洗っていない衣類を洗濯機に入れる。それから適当に掃除を済ませると、一時間ほど携帯を見て時間を潰してからご飯の支度をする。ジャージャーと熱したフライパンの上で肉を転がすと、とても香ばしい香りが漂ってくる。今日の料理は生姜焼きだ。私はいつも通りの手順で料理を進め、味噌汁の味付けをする。味噌汁の味付けも終わり、あらかた料理が完成すると、タイミングよくお父さんが帰ってくる。
「ただいま」
「あ。お父さん。ちょうどいいところに! これ持ってって」
台所に置かれているご飯を指差して、お父さんにお願いする。
「わかった。今日は生姜焼きか〜。相変わらず仁美は料理がうまいな」
「まあね」
お父さん料理を褒められ、私は誇らしげに胸を張る。それからはいつも通りだ。普通にテレビをみて、風呂に入り、ベッドに入る。
そうして私は部屋の電気を消すと、そっと瞼を閉じる。
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