1日目

第2話始まりの朝

「東京都世田谷区に住んでいる大津菜々子さんが、突如として意識不明の重体に陥りました。尚、原因などは分かっておらず、医者も手のつくしようないとのことです」

「へー怖いなぁ。仁美も気をつけてな」

「気をつけるって、原因も何も分かってないんでしょ? だったら気をつけるも何もなくない?」

 私とお父さんは、居間で朝ごはんを食べがら最近話題のニュースを見ている。なんでも、突如として意識に陥ってしまい、原因なども解明されてないらしい。

 怖いなーと他人事のように思いつつも。

「それよりもお父さんは、こんな呑気にテレビなんか見てていいの? もう八時すぎるけど」

 私は壁にかかっている時計に目を向けてお父さんに時間を教えると、お父さんは立ち上がり。

「それじゃあ行ってくるわ。後片付けよろしく」と言い、ネクタイをキュッと締める。それからお母さんの遺影の前に立ち、手を数秒だけ合わせ。

「行ってくるよ、凛」

 と言って居間を出て行った。そんなお父さんの背中を見送ると、私はテーブルに並べられている食器を台所に持っていく。まだ学校に行く時間には余裕がある。のんびりと最近流行りのJ-POPをスピカーで流しながら、食器を洗い始める。

 ゴシゴシゴシゴシと皿についた汚れを隈無く落としきると、お母さんの遺影から目を背けるようにして居間を出て行き、学校へ向かう支度を始める。自室に掛かっている制服を着ると、洗面所に向かって歯を磨き、校則に引っかからない程度の軽いナチュラルメイクを施すと学校へ向かう。

 自転車のカゴに学校の鞄を乗せると、私は勢いよく自転車を漕ぎ出す。夏は終わりを迎え、秋から冬に移りかわろうとしているこの時期のそよ風が、肌を露出している部分を撫でてきて気持ちがいい。

 スーと学校に向けて自転車を走らせると、あっという間に学校に着く。校門を抜け、登校してきてるたくさんの生徒たちの横を通り抜けて、駐輪場に自転車を止める。ガチャンと勢いよくスタンドを立てると、そこから教室に向かう。

 教室に向かう途中で私は多くの同級生と挨拶を交わす。

「あ、仁美おはよー」

「お、七瀬じゃん。おはよう!」

「仁美〜おはよ」

 そんな多くの同級生と挨拶を交わすと気分がよくなる。そんな気持ちのまま教室に入ると、親友の紗倉梓がいきなり抱きついてくる。

「仁美助けて〜。今日の課題まだ終わってないんだよ。だから写さして〜」

 ボブヘアーに目立つ茶髪。スカートの裾を折り曲げ大胆に太ももを露出させ、制服を着崩し、校則を破りまくっている親友に、私は嫌な顔一つせず微笑を浮かべる。

「えーまた? まあいいけど」

 私は泣き顔を晒して頼み込んでくる梓の頭に、課題のプリントをポンと乗っける。

「あ、ありがとう! 本当に仁美がいなかったら、あずさはここまで生きてこれなかったよ」

「あはは。大げさすぎだって。それじゃあもうすぐ授業始まるし、早いとこ写しちゃいな」

「うん。速攻で終わらせてくる!」

 なんてやりとりをした後、私は自分の席に座る。座ると同時に、また別の同級生から声をかけられる。

「仁美。今日の科学の課題終わった?」

「うん。終わってるよ」

 私がそう言い終えると同時に、目の前の同級生は手の平を合わせて。

「お願い、見せて。すぐ返すから!」頼み込んできた。

 頼まれた私は、梓の方に顔を向けて。

「今ちょうど梓に見せてるんだよね。だから梓が写し終えたらいいよ」

 なんてことを言うと、目の前の同級生は梓の方に走っていき、強引に奪い取るようにして梓から私のプリントを抜き取る。

「梓! うちにもそのプリント見せて」

「え、まだ写し終わってないんだけど!? 返してよ。あずさが先に仁美から借りたの」

 そんな二人のやりとりを微笑ましそうにして見ていると、男子の学級委員長が声をかけてきた。

「七瀬。今週の修学旅行についてのプリントまとめておいたから。今日の6時間目にそのことについて話し合うから、忘れずにな」

「うん。分かった。ありがとね!」

「いや、別に……」

 男子の学級委員長は、顔を赤らめ自分の席に戻って行った。そんな様子を見ていた梓が。

「いやー流石。ほんと仁美ってモテるよね」

 ニヤニヤと笑みを浮かべ、からかってくる。

「別にモテてないよ。私よりも梓の方が可愛らしいし」

「あ〜それ嫌味だよ。過度な謙遜は他人を傷つけるんだからね」

「謙遜って……。梓、どこでそんな難しい言葉覚えたの?」

 くくくっと、からかうように梓を小バカにすると。

「あーバカにした! もう許さないから」

 怒ったような表情で私の横腹をくすぐってきた。

「あははは! やめ、やめて! 本当に、息ができないから!」

「ごめんなさいって謝るまで、一生やめてあげない」

「ご、ごめんなさい! もうゆるして〜」

 なんてやりとりをしていると、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが音を鳴らす。

「あ、もう時間だ。続きは昼休みにね」

 そんな台詞を言い残し、梓は自分の席に戻って行った。私はと言うと、梓に脇腹をくすぐられすぎて、だいぶ疲れ切っていた。

 そんなこんなで、いつも通りの1日が幕を開けた。

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