第8話 平等の愛
無事にブラックダイヤを身請けすることが決まり、孤児院を出てエメラルドと一緒に泊まっている宿に戻る道中。
その間、俺のテンションは最高潮!
俺の歩く右にはエメラルドティアーズ、そして左にはブラックダイヤモンド。
あの不本意な事件から五年、ようやく精霊ハーレムへの第一歩を踏み出せたのだ!
やったぞ! いつか精霊ハーレムを作るんだと意気込んでいた十年前の俺!
ごめんな、こんなに待たせちゃって。でもその分、最高に可愛い彼女たちと存分にいちゃいちゃするから許しておくれ!
「マスターさん! ふつつか者ですけど、よろしくお願いします!」
「……」
元々金に糸目を付けずに借りたこの部屋は、エメラルドと二人で泊まっていても全然余裕のあるくらいに広い。
宿の店主には十分な額を払っているので、今更一人増えたところでなにも言うことはなく、今は三人で部屋に戻ってきた。
そして部屋に入るなりブラックダイヤモンドが「不束者ですが、よろしくお願いします」って言ったんだけど、これってつまりそういうことだよな?
お嫁に来る的なそんな意味だよな⁉
いやーいいね。とてもいい!
ブラックダイヤモンドは見た目はまだ少し幼さを残しているが、その身体はもう十分成熟しているし、俺を受け入れる準備も出来ている。
さっき抱き寄せたときも超柔らかかったし……あ、思い出しただけで滾ってきた。
うん、ヤバいな。俺まだ童貞なんだけど上手く出来るかな? 超不安になってきた。
こういうときエメラルドなら優しく抱き寄せながら「いいんですよ。マスターのすべてを受け入れますから」とか言ってくれるんだろうけど、ブラックダイヤモンドはどうだろう?
「マスターさんにはがっかりです」とか言われたら俺、立ち直れる気がしないんだが……。
いや待て。どっちかというと「ボクと一緒に頑張ろ、マスターさん?」とかの方が彼女っぽい。
頑張る頑張る! めっちゃ頑張るしハッスルするぞー!
「あの……マスターさん?」
「……すまない、少し考え事をしていた」
不安そうに見上げてくるブラックダイヤモンドを見て、俺は冷静になる。
よく考えれば、これは安易に選んでいいことではない。
そう、ここにはブラックダイヤモンドだけではない。エメラルドもいるのだ。
長年共に過ごしてきた彼女を置いて先に、新しい子とすぐ致すというのは、その、良くない気がするのだ。
やはり十年以上一緒に過ごしてきた彼女こそ俺の初めての相手に……いやしかしこの十年でなにも進展がないのだぞ?
冷静になれ俺。ここはブラックダイヤモンドと勢いでイケルところまでイク方が正解なんじゃないか?
「改めて考えると、とても難しいことだ」
「っ――⁉ そ、そうだよね……やっぱりボクみたいな弱い精霊と契約するなんて……」
「全員に受け入れてもらうというのは、とても難しい」
「……え?」
ふと、俺は天啓を得た。
どちらが先とか考えるから難しいんじゃないか!
最初は両方、これが正解に違いない!
そもそも俺の夢は精霊ハーレムを作ることだ。当然にして当たり前の話だが、ここからさらに精霊たちは増えていく。
その度に序列がなどと考えてしまえば、いずれその関係は崩壊してしまうかもしれない。
だったら最初からマイルールを決めてしまえばいいのだ。
――俺は、全員を平等に同時に愛すると。誰一人、序列をつけることなく深い愛を注ぐと、そう決めた。
「それがとても困難な道のりだと言うことは百も承知。だがしかし、やらねばならない。そうでなければ、私はお前たちと契約をする資格などないのだから」
「マスターさん……そこまで考えて」
「マスターはすべてを見通しています。この人がこう言うなら、大丈夫」
「エメラルドさん……」
「……ん?」
なんだかいつの間にかエメラルドとブラックダイヤモンドが二人で話し合っていた。
どうやらエメラルドが俺の言葉の意図を伝えているようだが、なにか違うことを言っているような気がして仕方がない。
まあいいか。この子が俺の不利益なことを言うとは思えないし。
とりあえずこうして個室で美少女精霊二人と一緒にいられる俺、間違いなく世界一の勝ち組!
今から意図も容易く行われるエチィ行為に俺のテンション爆上げイエェーイ!
さあ二人とも、俺の腕の中にカモン!
「それじゃあマスター。とりあえずブラックダイヤモンドと一緒に物資の補給をしてまいりますので、ゆっくり休んでいてください」
「行ってきます!」
そうして二人は笑顔をこちらに向けながら、俺を置いて部屋から出て行った。
「……?」
……何故? 今から俺と彼女たちでまだ太陽は明るいけどフィーバーでハッスルなタイムが発動するところだったんじゃないの? ねえ、どうして? なんでこうなった? 誰か教えて……。
そう思っていると、控えめなノックが聞こえてくる。どうやら戻ってきてくれたらしい。
なんだ良かった。しかしなんでわざわざノックする必要が……?
ま、まあいい! 一緒にお買い物ならつまりデート!
そう、そもそもいきなりエチィことから始めようするなんて方が間違っていたのだ。
まずは交流を深めるためにデートを繰り返して、愛を育むところからするのが当然だろう!
やっぱり過程って大事だよね! 両手を握りながら三人で並んで歩いて、周りから嫉妬の視線が超気持ちいいー!
「おいアンタ、邪魔するぜ」
扉を開けるとそこにいたのはハゲた筋肉だった。
「……なんの用だ禿げ頭殺すぞ?」
「急になんだよ怖ぇよアンタ⁉」
「すまない気が動転した。ところでどうやって死にたい?」
「言ってること変わってねぇからな!」
冷静に考えて欲しい。可愛い精霊かと思って開いた扉の先にいたのがハゲた筋肉だったら誰だって殺したくなるだろう? ならない? 俺はなる。
だからこれは、決して八つ当たりではないのだ。
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