【十七話】一度ならず二度までも、二度あることは三度ある

 ムニムを連れて木の実採りを始めてから、三日が過ぎた。

 初日は苦戦したムニムだが、そこは魔導騎士団の総隊長と言うべきか。僅か三日でコツを掴み、面白いように木の実を収穫することが出来るようになっていた。

「く、くくっ、これはよいぞ! 魔法の勉強にもなるし一石二鳥というやつじゃ!」

 どうやら寝る間も惜しんで魔法の飛ばし方を研究していたらしく、目の下に隈が出来ている。だが、そのおかげで木の実を自在に採れるようになり、実に嬉しそうだ。

「勢いよく放つからダメじゃったんじゃ。威力など必要ないんじゃから、その分速度を落とせばいいんじゃ! これぞ真理! 木の実採りの神髄じゃー!」

 ドヤ顔で語るムニムには悪いが、俺としては石ころを飛ばした方が速いし効率がいい。

 それに魔法を使えば精神力が消費されるからな。疲れが溜まっていく。

 とはいえ、それを伝えるのは無粋だ。収穫できるようになったのは事実であるから、素直に凄いと思う。

「ところでアルガよ。お主、先ほどから何をしとるんじゃ?」

 魔法で木の実を落とし、見事にキャッチしたムニムは、俺へと視線を向けて尋ねてきた。

「何かいい案は無いかと思ってな」

「いい案? なんじゃなんじゃ、何か作るつもりか」

 かごの中から取り出した道具一式と素材の数々を目にして、あれでもないこれでもないと思考を巡らせる。

 コルンに戻ってきた日、宴会の最中に少しだけ抜け出し、俺は道具屋へと足を運んでいた。

 そこでとある素材と道具一式を購入し、木の実採り用のかごに入れて持ってきていたのだ。

「ああ。可愛い感じの小物を一つな」

 理由は言わずもがな。ルノへのプレゼントだ。

 元々プレゼントする予定だった首飾りは、ムニムのものとなったからな。

 金貨百枚に匹敵するようなものを自作することなど到底不可能だが、それでもせっかくだから自分で何かを作ってみようと考えたわけだ。

 王都やモクンでの厄介ごとも片付き、今の俺は時間だけはあるからな。

 それに、何かに集中することで、ジリュウやエーニャについても何か案が浮かぶかもしれない。

「ほっほう、女子へのプレゼントじゃな? お主も隅に置けないやつじゃのう」

 ニヤニヤと笑みを浮かべ、ムニムが傍による。

 俺が持ってきた道具一式と素材に目をやり、唸り声を上げた。

「しかしのう、これで可愛いもんを作れるかと言うと……無理じゃろ」

「やっぱり無理か?」

「うむ、無理じゃ。もっとよい素材を集めんとな」

「だよな……」

 適当に見繕ったものだからな。

 もっとしっかりと時間をかけて素材を購入すべきだったか。

「よし、決まりじゃ。今日の分の木の実を採り終えたら、道具屋にゆくぞ」

「ムニム、お前も来るつもりか」

「当然じゃ。こんな面白そうな話、見て見ぬふりなど出来んわ」

 興味津々と言った様子だ。

 どう考えても、プレゼントを渡す相手が誰なのか知りたいだけだな。

「……誰にも言うんじゃないぞ」

「わしは口が堅い。安心せい」

 ドンっと平らな胸を自分で叩き、口角を上げる。

 仕方ないな、冒険者組合で木の実の鑑定が終わったら、その後は道具屋で素材探しを始めるとするか。


     ※


「これとかどうじゃ? 雪の結晶をイメージしとるみたいじゃぞ」

「確かにそれもいいな……」

 道具屋に着いた俺達は、数多ある素材の中からいくつもの組み合わせを試し、出来上がるであろう形を想像する。

 やはり女性の意見が入ると違うな。俺一人では不格好なものしか完成しなかっただろうから、ムニムを連れてきて正解だ。

 勿論、実際に選び作るのは俺だ。そこだけは絶対に譲らないようにしよう。

「とりあえず、これは買っておくか……」

 自分で選んだものを手に取り、店員へと渡す。

 別の素材を探すべく、再び店内を探し回り始める。だがここで、思いもよらない人物が入ってきた。

「お? おうおうなんだよアルガ! テメエこんなとこに何の用だー?」

「……ダーシュ、お前こそ何の用だ」

「誰がテメエなんかに話すかよ、バーカ!」

「そうだそうだ! ダーシュが二日酔いの薬を買いに来たなんていうわけねえだろ!」

「そうだそうだ! この前の宴会で飲みすぎてまだ具合が悪いなんて教えるわけねえだろ!」

「バカやろ! テメエら勝手にべらべら喋るんじゃねえっ!」

 取り巻き二人のおかげで道具屋を尋ねた理由が判明した。

 全く持って、有り難くない情報だ。

「お主等は酒が入っとらんでも絡んでくるのか?」

 ダーシュとその取り巻き達の様子を見かねたのか、ムニムが間に割って入ってくる。

 すると、ダーシュは待ってましたとばかりにムニムへと視線を移した。

「おう、ムニム! こんなとこで奇遇じゃねえか! テメエこの前のこと忘れてねえだろうな?」

「この前? ……ああ、お主を吹き飛ばして気絶させたことかのう」

「と、とぼけずにしっかり覚えていやがるとは……」

 歯軋りの音が聞こえるぐらいに食いしばり、ダーシュは気を荒立たせている。

 だが、深呼吸を何度か行い、息を整えたかと思うと、再びムニムへと話し掛ける。

「忘れてねえならちょうどいい。表へ出な、借りは返してもらうぜ」

「断る。お主だけ出とけ」

 ムニムの顔を見るや否や喧嘩を吹っかけたダーシュだが、あっさりと断られた。

 そればかりか、中空にムニムは魔法陣を描き上げ、それをダーシュ達に向けて発動する。

「テメエ、何言って――うおおおぅ!? またこれかよおおおおおっ!!」

「ああっ、ダーシュがまた飛んでるぜ!」

「待ってくれよダーシュ!!」

 空気砲の勢いに押されて、ダーシュが店外へと吹き飛ばされていった。

 取り巻き二人が慌ててその後を追い掛けていく。

「……さて、余計な時間を使ってしもうたの。再開するぞ」

「そ、そうだな」

 何事もなかったかのように、ムニムが素材が並べられた棚を見て回る。

 なんというか、この三日間で、ダーシュの扱い方というかあしらい方を完璧に身に着けたらしい。

 その後、素材を購入し終えた俺達は、一旦冒険者組合へと戻ることにしたのだが、道中でまたしてもダーシュ達に絡まれてしまった。

 がしかし、三度吹き飛ばされるダーシュであった。

 ムニム、お前はもう立派なコルンの住民だよ。

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