第28話 “ アルカヌム ” 選定試験開催の知らせと最初の試験
ネロとフレイム、マリアベルが
アウラとルシオラは最上階、読書スペースで仲良く勉強を続けていた。
アウラは薬草学の薬草茶のページを開き、文字を指先でなぞり、
「ええと、西の薬草茶の……ハーブティーは、カモミール、ミント、ラベンダーなどのハーブを乾燥させて煮だした飲み物であり、東の……日ノ島国の健康茶のハトムギ茶は女性が不足しがちの鉄分やビタミンBや、美肌効果がある。 中ノ皇国のカンポウ薬は……ショウヤクと呼ばれ、自然に存在する植物、動物や鉱物などの薬効となる部分を、複数組み合わせてつくられる……」
「これらは魔力を持っていない
アウラとルシオラはぶつぶつと呟きながらノートにメモを取っていく。 魔法薬の本に記載されてる魔法薬の定価を見たアウラは、
「下級【ポーション】1本が……せっ、1000クローク!? 庶民の給料約1ヶ月分。 ええ、師匠は下級【ポーション】を100クロークで売っていたよね?」
「ん。 ああ、お婆様は……薬草は自給自足で仕入れ代もかからないし、瓶の代金だけで十分じゃろって、商業の許可を得て売っていていたからね。 中級や上級は……さすがに無理で定価だったらしいけど」
「商業?」
「僕達は行ったことないもんね。
「 “ オピフェクス ” って、レリルール守護者の……?」
「そう。 レリルール守護者のひとり、魔道具づくりに長けた “ オピフェクス ” が管理してる商業だよ。 基本、物を販売する時は商業が決めた定価の値段で販売するんだけど、お婆様が下級はほぼ無料じゃ!って言って、ヘルバの森に生息してる薬草を商業の人達が吟味した結果、定価より安く販売出来たんだ。 お婆様は中級と上級も安く販売しようとしたけど物流の物価が崩壊するからやめてくれって泣かれたってお婆様が言っていた」
それでも庶民が何本も買える値段じゃない100クロークな辺り、商業の人達の抵抗を感じる。 下級【ポーション】を10本買うだけで1ヶ月の給料が飛ぶし、そう思いながらルシオラは祖母の話を思い出しながら、
「ルシオラ、どうしたの?」
「ん。 お婆様の話では “ オピフェクス ” とお婆様は仲が悪かったみたいで」
「そうなの?」
「うん。 まぁ、利益重視の “ オピフェクス ” と、利益は二の次、人助けが1番のお婆様じゃ相容れなかっただけみたいだけど……。 “ 魔道具師 ” だったお爺様が仲を取り持っていたみたいなんだ」
「ルシオラのお爺様……魔道具師だったの?」
「そうみたい。 僕が生まれる少し前に亡くなってしまったみたいだけど。 “ オピフェクス ” とは兄弟弟子で、家にある【コンロ】や【セキユ・ストーブ】はお爺様がつくったみたい」
「そうなんだ。 もしかして “ オピフェクス ” も師匠と同年代のレリルール守護者ってこと?」
師匠と同年代なら時期 “ オピフェクス ” 選定の噂話を聞かないのも不思議だなと、アウラはそう思いながらルシオラに確認する。
「ん、ああ。 “ オピフェクス “ は」
アウラの疑問に気づいたルシオラは口を開こうとして、
「失礼いたします。 ルシオラ様とアウラ様でしょうか?」
「そうですか。 貴方は? 紫色のローブ、王宮の使者のようですか」
ルシオラは突然現れた名乗りもしない紫色のローブを被った男性に怪訝に見つめ、王宮の、国王陛下が執務を執り行う宮『プルプラ宮』に配属されてる人達が着ていると有名な紫色のローブを見て、そう当たりをつける。
「ああ、名乗りもせずに申し訳ありません。 私はヴァンデルン国王陛下の秘書をしております。 リビィディア・アルアーレと申します」
「僕達に何かご用ですか?」
「ああ。 そんなに警戒なさらないで下さい。 アウラ様。 ルシオラ様。 私はただお知らせに参っただけですので」
「お知らせですか?」
「ええ」
ルシオラは突然現れたリビィディアに警戒を強め、アウラは自分を庇うルシオラの後ろで様子を伺う。 そんな姿を見たリビィディアは安心させるように微笑む。
「ヴァンデルン国王陛下から、こちらの書簡を預かっております」
「「国王陛下から??」」
(アウラのお父様から??)
(私のお父様から??)
「ええ。 おふたりのお返事をいただくよう陛下から申し使っております。 お返事をいただけますか?」
ルシオラとアウラはなんだろう? と顔を見合わせて、リビィディアから書簡を受け取り、つかさずペーパーナイフを差し出してきたリビィディアを見て、
「「あ……ありがとうございます」」
((仕事が早い。 さすがは国王陛下の秘書なのかな?))
「いえいえ」
そのスピードにアウラとルシオラはたじたじと引いてしまう。
ルシオラはおずおずとペーパーナイフを受け取り、手紙の封蝋部分にペーパーナイフを差し込み開封して、綺麗に折り畳まれた手紙の内容を確認する。 格式にそった重い文章が綴られている。
「これは……」
「えっと、ルシ。 どういうこと?」
いまいち理解出来なかったアウラが、理解出来たルシオラに問いかける。
「分かりやすく言うと、サファイア月1日からラピスラズリ月末日まで、4ヶ月の期間をかけて “ アルカヌム ” 選定試験を執り行うお知らせだね」
「よん……かげつ? それにサファイア月1日って1週間後だよね??」
「試験が早まった理由は分からないけど……。 いつもより長い期間をかけて試験を執り行う理由は 「 通常試験を執り行う “ アルカヌム ” が空位であることと “ アルカヌム ” を除く、レリルール守護者と王子達が試験の審判を担当するため、いつもより長い期間を設けている」 だって」
「ええ、そうです。 明日、正式に発表されますが、ルシオラ様とアウラ様は “ 前アルカヌム ” のお身内ということで、こうして直接お知らせに参りました。 先ほども申し上げたとおり、試験に参加か不参加。 個人参加かグループ参加がどうか返事をいただくように陛下から申し使っております」
アウラとルシオラはお互いに見つめて、答えは決まっているとコクンと頷きあう。
「「グループで参加します! 」」
「そうですか。 では、こちらのグループ参加用紙にご署名をいただけますか?」
リビィディアは紫色のローブの内側から1枚の用紙を取り出してルシオラとアウラに提示する。 “ アルカヌム ” 選定試験のグループ参加の申込用紙だった。
「ありがとうございます」
ルシオラはリビィディアから申込用紙を受け取り、ルシオラが自分の羽ペンで署名をしようとした時、目にも止まらぬスピードで、魔力の全属性の色の羽が付いた。
「こちらの【魔法の羽ペン】でお願いいたします」
「【魔法の羽ペン】はじめて見ました……」
「とても希少な
ルシオラが【魔法の羽ペン】を受け取り、申込用紙にインクをつけずに自分の名前を記入する。
「インクを使わずに書く人の魔力によって文字を綴ると聞いたことありますが本当なんですね」
「ええ。 書く人が保持している魔法属性によっても文字の色が変わるんですよ」
「そうなんですね。 僕は青色をメインに……いろんな色が混ざってますね」
「……これは。 ああ、ルシオラ様。 アウラ様のご署名はご本人からと仰せつかっております」
ルシオラはリビィディアが思案していることに気づかず、アウラの名前も記入しようとした時、リビィディアがストップをかけた。
「え? そうなんですか?」
「……ええと、まぁ、なんと申し上げたらよいか、この【魔法の羽ペン】には初級、中級、上級と3種類ございまして、ある程度の魔力を保持してないと文字が書けない
ルシオラの困惑にリビィディアは歯切れが悪そうに説明を述べる。
「つまり【
「……ええ、まぁ。
ルシオラの質問にリビィディアはバツが悪そうに頷く。
「???」
ルシオラとリビィディアの会話の意味が分からずアウラは首をかしげる。
「ルシオラ、どういうこと?」
「今回の “ アルカヌム ” 選定試験は
ルシオラはそう言うと【魔法の羽ペン】をアウラに手渡す。
「アウラも署名して」
「???」
未だに理解出来てないアウラはルシオラに言われるまま自分の名前を書いていく。 青色と黒色の文字で「アウラ・アニムス」と書かれた文字を見て、ルシオラは安堵のため息をつく。
「ありがとうございます。
「え? ええと?? どういうこと???」
「もう試験ははじまっていて最初の試験は、この【魔法の羽ペン】で署名出来るかどうかかで合否が決まるみたい」
「ええ。 試験に合格いたしましたので申し上げますが、この【魔法の羽ペン】の階級は
リビィディアは用は終えたと、恭しく礼をするとアウラとルシオラの元から去っていく。
「はぁ」
「ルシオラ。 大丈夫?」
イスの背もたれに背を預けてぐったりするルシオラを見てアウラは気遣う。
「うん。 大丈夫だよ。 ただ、今回の選定試験は
「無理しないでね」
アウラは【惚れ薬】以外の魔法薬は、全てルシオラが作るため、ルシオラへの負担の多さに不安にかられて、ルシオラを両手で力一杯に抱き締める。
ルシオラはアウラの胸へ顔を埋めて、
「大丈夫だよ」
アウラを安心させるようにやさしく呟く。
行方不明王女ちゃんと魔法使いくん~一緒に育った義兄妹の恋物語~ 此花チリエージョ @conohana
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