第21話おっちょこちょいなアモル先生といやな予感
アウラとルシオラは、フィリアとフィリオと別れて、地理の授業の教室へ急いでやって来た。
「地理のマリナ先生、まだ来ないね」
「いつも10分前に来ているのに」
他生徒がざわめく中、アウラとルシオラはくたくたになりながら席へ座る。
「「間に合ったぁ~」」
今は授業開始2分前。
占いの教室で、急に現れたラーナ第三王妃と話している時に、授業開始30分前を知らせるチャイムが鳴ったことに気付かず、時間がないことに気付いたのは授業開始10分前だった。
「はぁ。 近くに【
「そうだね、アウラ。 なかったら遅刻だったけど、目的の場所を言うだけで、一瞬で移動できるのも不思議だな」
(普段はアウラと歩いて移動するのが多いから、はじめて使ったけど、学園と城下町の間にある
「移動できない場所は、学園長室や図書館、城下町と王宮ぐらいだっけ?」
「あとは寮と先生達の研究室だよ」
アウラとルシオラは話ながら、授業の準備をはじめる。
アウラは教科書をパラパラとめくり、
「今日の授業ってレリルール王国と『
「そうだけど……先生まだ来ないね。 マリナ先生だから、魔法薬のバニア先生や、魔法研究のフォルマ先生みたいに研究に没頭して、授業を忘れている訳じゃないと思うけど」
既に授業が開始して10分が過ぎた。
レリルール学園の教師達は学園内に自分の研究室を与えられており、研究に没頭して授業を忘れたり中止にする教師が多い。
生徒達もなれているのか、教師が来ない時点で自習室や図書館に行ったり、魔法練習場で魔法の練習したり自由に過ごすことが多いが、
「マリナ先生は授業の変更の知らせはしてくれるし、こんなこと初めてだね」
「どうしよう、自習室行く?」
「もう少し待ってみるか」
元々ざわめいていた他生徒達が、さらにざわめき出す。 そんな中、
「すっ、すみませぇ~ん! 遅れましたぁ!!」
教室のドアが勢いよく開き、不思議と透き通る
アウラとルシオラがはじめて見る
黒髪のくせっ毛がひとつに結われているんだろうか、フードの右側から纏まって胸上辺りまで長い。
「いたた……」
(((( 誰!!?? ))))
「ああ、すみません。 僕は今日から産休に入るマリナ先生のかわりに地理の授業を担当するアモル、26歳です」
生徒達の困惑に気付いたアモルと名のる男性は慌てて立ち上がり、ローブについた埃を両手でパンパンと払いながら挨拶をする。
動く度にジャラジャラと音が聞こえる、何かアクセサリーを身に付けているんだろうか。
「え、産休?」
「聞いていた?」
「いや、聞いてねぇ」
アウラとルシオラは中途編入で聞いていないだけかと思ったが、他生徒達も寝耳に水だったらしく戸惑う。
「いやだな、みなさん、忘れないで下さいよ。
先月末の授業でマリナ先生が説明して、僕を紹介して下さったじゃないですかぁ。 ……ね」
「あれ、そうだっけ?」
「……うん。 そうだった」
「どうして忘れてたんだろう」
「お祝いしたのに……」
「そうだったんだね」
アウラの中で朗らかに微笑むアモル先生の言葉が不思議なほど、ストンとおちて他生徒同様に納得してルシオラに声をかけるが、口元をおさえて前屈みになっているルシオラに気付く。
「……っ」
「具合悪いの? 大丈夫?」
「……大丈夫。 一瞬だけ変な感じかして、アウラは何も感じなかった?」
ルシオラの問いかけに、アウラはふるふると頭を横に振る。
「どうかしましたか?」
「「アモル先生」」
「ええと、君はルシオラさんですね。 顔色がよくありませんが、もしかして具合が悪いんじゃ、今から保健室に行きましょう!」
「……」
アモル先生は、オロオロと焦ったように心配してる。
「ルシ、保健室に行こう」
「アウラ……」
アウラはアモル先生に同調するように、ルシオラに寄り添い保健室へ促す。
「……そうです! アウラさんの言うとおりに保健室へ行かれたほうが」
「いえ、僕は大丈夫です。 このまま授業を受けます」
「……そうですか……あまり無理なさらないで下さいね」
ほんの一瞬アモル先生が驚いたように見えたが、口元に優しい笑みを浮かべて教壇へ戻る途中、
「うっわぁ!」
長すぎるローブの裾を踏んづけて盛大に転んでしまった。
「先生、大丈夫ー? 怪我してない?」
「だっせぇ」
「もう、みなさん笑わないで下さいよ。 初日から醜態をさらしてしまって恥ずかしいんですから……」
フードは頭に被ったままだったが、恥ずかしさで両手でフードの端を掴んで深く引っ張り、今まで見えていた口元さえも隠れてしまった。
「ふぅ」
やっと教壇へたどり着き、アモル先生はひと安心して教科書を開こうとした時、今度は教科書や名簿、指示棒を盛大に床へぶちまけてしまう。
「わっ、わわ」
「もう先生ったら、おっちょこちょいだねー」
「うう、よく言われます~」
「風魔法で拾わないんですか?」
「……僕は魔法使いですが未熟者で、得意な魔法以外は全部失敗してしまうんです。 うぅ」
アモル先生は両手で散らばった教科書や名簿を拾いながら、ぐすんと涙ぐむ。
「先生、泣かないでー」
「得意な魔法ってなんすか?」
「えっ! ええと、は、恥ずかしいので、ひっ、秘密です」
きゃーと、ローブで見えない顔を乙女らしく両手で覆って、ブンブンと身体を左右に揺らす。
「ごほん。 だいぶ時間が経ってしまいましたが、授業をはじめましょう。 今日は……」
「アモル先生?」
「どうしたのー?」
「あー、えーと、実はですね。 マリナ先生から引き継ぎを受けていたんですが、緊張で今日の授業をどこからやるのか忘れてしまって……」
「レリルール王国と『
「モランさん、ありがとうございます。 ではみなさん、教科書の15ページを開いて下さい」
「「「はーい」」」
アモル先生は白いチョークを持つと、生徒達に背を向けて黒板に “ レリルール王国と
(
そんなアモル先生の視線と思惑に気付く者は教室の中には誰もいなかった。
アウラとルシオラがアモル先生の授業を受けている時、王宮の通路をコルはひとりで歩いていた。
「……っ」
コルは頭を右手で抑え、ふらっと壁に身体を寄りかかる。
(なんだこれは……学園の方からだ。 誰の
少し落ち着いたコルは兄弟達がいる国王陛下の元へ静かに歩き出す。
(制御アイテムを身に付けてから、こんな感情が流れてくるのははじめてだ。 いやな予感がする、父上やフレイム達に報告しないと)
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