第20話突然現れたラーナ第三王妃

「どうしてクロロが占いに…?」

「カァーカァー、カァカァ!」


 アウラの言葉に、自分が呼ばれたと分かった烏のクロロは、バサバサと飛んで来てアウラの頭にちょこんと座る。


「カァ?カァ?」


 クロロが頭をかしげて「何?何?」と聞いてる。


「私とルシオラの恋占いに…クロロが出て来て、クロロはどうしてか分かる?」

「………カァー…」

「そっか、分からないよね」


 ルシオラはアウラの上に居るクロロの頭を優しく撫でる。


「クロロは『家族』だからかな?

 赤い糸と…紅蓮の炎…黒百合は…フィリア?」

「…え」

「顔色が悪いけど大丈夫?

【栄養ドリンク】飲みますか?」

「え、あ、ああ、ルシオラ、大丈夫よ。

 少し……驚いてしまっただけで…」


 ルシオラは占いの結果の意味を考えていると、フィリアの顔色が青白くなっている事に気付く。


「フィリア」

「ラピドゥス様…」

「…少し外に行くぞ。

 カナリア、フィリオあとは頼む」

「「…………」」


 カナリアとフィリオは無言で頷いて、ラピドゥスとフィリアを見送る。


「…フィリア、大丈夫かな」

「………フィリアさんは。

 恐らく『』のが持って生まれる“”のせいだと思います」


 アウラの心配にカナリアが淡々と答える。


「『双子の奇跡』って、フィリアとフィリオの「通り名」じゃないの?」

「僕もずっとそう思っていたけど……」

「ルシオラ、どうしたの?」

「また、水音が聞こえて。

 気のせいかな」


 アウラの疑問にルシオラも同意して、後ろを、教室の入り口を振り向いたが、すぐ話の続きに戻る。

「通り名」は特定の魔女や魔法使いをさす「別名」だ。

 アウラやルシオラは、まだ「通り名」は持っていないが、現在いまは亡きルクル・アニムスには、称号の“アルカヌム”以外にも『大薬師』や『東の大薬師』と呼ばれていた。


「『双子の奇跡』の呼び名は…」

「本家ディアトロ家をはじめ、数ある分家に生まれた“”をさす名だな」


 フィリオの説明の続きを、教室の入り口に立っている学園長が説明する。

 学園長の後ろに、黒いローブを目深く被った人が佇んでいる。


「「「学園長」」」

「…………」


 アウラ、フィリオ、カナリアは学園長の存在に驚き、ルシオラは無言で目線を学園長から反らしながら、


「……何かご用ですか?」

「…ーもしかして、ルシオラくんとアウラちゃん?」

「「え?」」

「「っ!」」


 ルシオラの質問に学園長が答えるより先に、凛とした女性の声が響く。

 アウラとルシオラは戸惑い、カナリアとフィリオは驚きで息を飲む。

 学園長の後ろに佇んでいた黒いローブを被った人、いや女性が屈んでアウラとルシオラを見つめる。


「…そうですか。

 ちょ、ちょっと眼鏡取らないで」

「あ、やっぱり。

 6年前に会った時も思っていたけど、ルシオラくんはカエルラそっくりね」

「「え?お母様を知っているの?」」

「…おい、ラナ」


 学園長が黒いローブを被った女性を「ラナ」を嗜めようとした時、ガラッと教室のドアが開きラピドゥスとフィリアが戻ってきた。

 ラピドゥスはルシオラをまじまじと見つめる黒いローブの女性を見て顔を青ざめる。


「なにやってんだ」

「あら、ラピドゥス。

 フィリアちゃん、久しぶりね」

「なにやってんだよ!

 第三王妃おふくろ!?」


 ラピドゥスの小声で叫ぶ。


「あ、安心して国王陛下には伝えてあるから。

 ロイザも護衛してくれるし」

「それは当然だ!

 お忍びにロイザ学園長を巻き込むな‼︎」


 アウラとルシオラがポカンとしてふたりを見てると、


「「ラーナ第三王妃様。

 ご挨拶が遅れて申し訳ございません。

 ディアルナ家のフィリアとフィリオでございます」」


 ラーナ第三王妃に、フィリアとフィリオが魔法使い魔女の最敬礼をする。

 この魔法使い魔女の最敬礼は、レリルール王家と、王家の血を引くレリルーナ公爵家の人間対してのみ行う、この国独自の挨拶になる。


「いいの、いいの。

 公式の場ではないから気にしないで」

「「承知致しました」」


 ラーナ第三王妃は目深く被ったフードを脱ぐ。

 サラサラな胸元まで伸びた緑色の艶髪を、レリルール王国では見たことない、銀色の棒が束ねた髪に綺麗に刺さり、棒の先っぽに白い花の模様が入った空色の丸い石と、透明な小粒の石が連なって揺れている。

 そして淡いがアウラとルシオラを優しく見つめる。

 現在いまの名はラーナ・レリルーナ・レリルール。かつての名はラーナ・レリルーナ。

 レリルール王家の血をひくレリルーナ公爵家出身の女性。


「こうして、お話しするのははじめてね。

 私が…ルシオラくんと出会ったのは6年前の…カエルラの御葬式の時で、姿を変えていたから分からないかもしれないけど」

「「ラーナ第三王妃様は、お母様と会ったことが…?」」

「大薬師様ったら、何も教えてないのね。…まぁ、当然だけど」

「「あ、あの?」」

「まだ学生だった、私…ラーナ・レリルーナと、ロイザ・ディアトロ、カエルラ・アニムス。

 ……そして、東の果ての…第四王妃の故郷『中ノ皇国』とは海を隔てた隣国にあたる『日ノ島国』出身の“特待生”サラ・ツクモとは、レリルール学園の同級生よ」

「「え!

 サラ・ツクモって…15年前に亡くなられた第五王妃様ですか?」」

(私の…お母様…)

(…アウラのお母様)

「ええ、そうね」


 ラーナ第三王妃はどこか懐かしそうに目を細めて呟く。


「ラナ。

 ……本題に入ったらどうだ」

「…別に余計なことは言わないのに。

 ラピドゥス、カナリア、国王陛下がお呼びです。今すぐ王宮へ戻りなさい」

「承知しました」

「承知しました。

 フィリア、親父に報告しとくから、またな」

「はい。ラピドゥス様もお気をつけて」


 カナリアはアウラとルシオラに、


「そろそろ“アルカヌム”選定試験がはじまるから頑張ってね」

「「え、試験が。

 早くて1ヶ月後って聞いていたけど…」」


 まだレリルール学園に来て1週間しか経ってない。


「僕達もそう聞いていたけど、国王陛下に呼ばれた以上早まると思う。

 ……またね」

第三王妃おふくろは…」

「私は、まだ学園でやる事があるの」

「分かった。

 すぐ戻れよ」

「分かってるわ」


 カナリアとラピドゥスは急いで王宮へ向かう。


「さてと、まだ話していたいけど、私も行かないと……あら、フィリアちゃん、もしかしてアウラちゃんとルシオラくんを占った?」

「え、ええ。そうです」

「何が見えたの?」

「それが赤い糸とクロロ、紅蓮の炎、黒百合で」

「赤い糸…」

「ラーナ第三王妃様、何か?」

「……いえ、偶然かしら。

 ねぇ、ロイザどう思う?」

「……確かめようがないが、関係してると思うぞ」

「…やっぱり、そうよね。

 それに黒百合ね」


 ラーナ第三王妃は考え込む。


「くろゆり、クロユリ、黒百合、…?まさかね」


 ラーナ第三王妃は浮かんだ人物を、ふるふると否定する。

 その人物名にルシオラは頭を傾げる。


「クピディタースって?」

「…んー、何て言ったらいいのかな。

 本名や出自は不明で『執着クピディタース』の通り名で呼ばれていた魔法使いで、6年前にルイン亡国を滅ばしたと言われてる人間ひとよ」

「「滅ばした…?」」

「ええ、そう噂されてるの。

 現在いまでは使用を禁じられた“禁魔法”洗脳で、人々を操ってルイン亡国の宰相まで上り詰めた魔法使いで、赤い瞳に黒百合の瞳孔をしてるって聞いたことがあって、まさかと思ったけど考えすぎね」


 ラーナ第三王妃はまた頭を振る。


「きっと黒百合の花言葉に『恋』があるから、それが占いの意味じゃないかしら」


 自分の言葉で不安がらせてしまったアウラとルシオラを、ラーナ第三王妃は安心させるために明るい声で話す。


「ラナ、そろそろ時間だ」

「もう行かなくちゃ。

 フィリアちゃん、また『ウィルデ宮』に来てね」

「はい。

 必ず伺います」

「ルシオラくん、ちょっといいかしら」

「え」


 ラーナ第三王妃はルシオラの耳元で何かを呟いている。


「…っ!」

「…まだ16歳だし、考えてみてね」

「………でも」

「今すぐ答えを出さなくてもいいから」

「ラナ」

「ロイザ、今行くわ。

 次会うのは“アルカヌム”試験開会式だと思うから、その時に答えを聞かせて」

「……はい」

「授業頑張ってね」


 ラーナ第三王妃と学園長は教室を出ていく。


「ルシ、何て言われたの?」

「…いや、うん」

「ルシ?」

「…ーあとで話す」


 ルシオラはチラッとフィリアとフィリオを見つめる。


(ふたりは何も言わないけど、僕達がルームメートになったのは学園長が決めたことだから、多分、僕の父親が誰か知ってる気がする)


 ルシオラの脳裏にラーナ第三王妃の言葉と、


『大薬師様の“アルカヌム”を継いで、今までと変わらずにヘルバの森で暮らしたい気持ちも分かるの。

 だけどアウラちゃんと一緒にロイザの所へ、ディアトロ家へ行くのも、だと思うわ。

 …まだ16歳だし、考えてみてね』


 ちゃぽんと水音が、また聞こえる。

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