軽音部が消えた日

ホームルームで配られた一枚のプリント。生徒会よりと書いてあるそのプリントには当日のスケジュールや予算のルールといった生徒全員に向けた内容で、ほとんどの内容は既知のものだった。

しかし、俺と颯にとっては、見過ごせない、見過ごせるわけがない項目が掲示されていた。

その内容はこのようなものだった。



「部活動として文化祭でイベント及び企画をする場合、部は以下の条件を満たしていなければならない。」


・過去に暴動又は学校の品位を落とすような行動をしていない・・・etc




正直一番上の項目以外はどうでもいい。なんだ?生徒5人いないと出場すらできないだと?そんなルールは入学当初から今に至るまで全く聞いたことがない。


案の定颯は疑問に感じたようで、使命に駆られたかのように彼女の手が空へと突き上げられる。


「先生、部活単位での文化祭出場に今まで条件なんてありましたか?」


その疑問に俺たちの担任である高林先生は平然とした口調で答える。


「ああ、追加された項目もいくつかあるそうだ。私も詳しくは知らないから、気になるのなら生徒会に聞いてみなさい。」



高林が放った今回から、というフレーズでやっとピンときた。

まだ確信というわけではないが、おそらくあの生徒会長が自分の面目を守るために急遽追加したのだろう。


あの会長、自分の怠慢のためにそこまでするか。


今すぐにでも会長に抗議を、と考えていたのだが、そうしようとする俺を制したのは意外にも颯だった。


「今から部員をあと3人集めるわよ、春馬も手伝って」


「待て、そうじゃないだろ?生徒会のところに行かないのか?どう考えてもあの会長が…」


「分かってるわよ。でも、これ以上言ってもは聞く耳を持たないでしょうね。だから私達はルールの範疇で応戦するしかない。悔しいけど今は臨時部員を集める他ないの」


颯の発言はとても納得のいくようなものではなかった。しかし、彼女の言うとおりあの生徒会長が意見を曲げるはずがないのも事実。だから明らかに不可能に見える方法しか取れなくなってしまった。


「今年はできないと思うなぁ…」


誰にかけた言葉なのだろう。苦肉の策を取らざるを得なくなった颯への意見か?はたまた心の奥底へ押し付けていた西田春馬の本音か?いずれにせよ無理という二文字が頭によぎったのは確かだ。


当時は10月。学年の殆どが部活に所属しており、唯一望みがありそうな帰宅部の奴らもそんな急な話に乗るはずがなく。







結果、誰一人集まらないまま当日を迎えることになった。

それは軽音部の名前が文化祭から無くなることを意味していた。

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る