目標
午後6時55分、俺は待ち合わせ場所の柏駅中央改札に向かっていた。
千葉県柏市。別名千葉の首都とも呼ばれるここは、対立する千葉市勢力と不毛なマウント合戦が繰り広げられた場所でもある(諸説あり)。尚戦いは某ランドとシーによる認知度のおかげで千葉市側の圧勝である。
改札を通ると、出てすぐの正面の券売機に、合流する予定の六郎木颯は立っていた。
彼女は普段見る学校指定の制服ではなく、丈が長い紺色のスカートと純白のセーターに身を包み、視線はスマートフォンを見るために下に落としている。
なので、いきなり声をかけて驚かせないよう一旦メッセージアプリで通知を送る。見たか全国の男子諸君。
これが気遣いというものだよ。
こういう細かい気配りができる男がモテるんだぜ?まぁ俺振られたんですケド。
「ねぇ」
「うおっ、ビックリした」
どうやらこいつには気遣いのきの字も持ち合わせていないようだ。
「いきなり話しかけるなよ。でも悪い、待たせたか?」
「まぁ30分ぐらいは立ってたかも。というか春馬は逆に遅すぎ」
「『ううん、今来たとこ』みたいな展開を期待してたのになぁ」
「あー、そういうの理解できないからこの話やめよ?」
「……とりあえずサイゼ行くか」
分かっていたことだが、颯に趣や気分、今風にいえばエモい等の言葉は通じない。
要するに、「無くてもいいもの」を排除し、最短かつ最速で目的を遂行することを考える。
この思考回路をもつ人間を、俺は「効率厨」と呼んでいる。
しかし、効率厨が悪いものだとは全く思っていない。むしろ物事を割り切れる態度にすごく惹かれたものだ。
だから六郎木颯という女性に告白してしまう訳で。 振られたけど。振られたけど!
自意識過剰だった自分を頭の中で戒めながら数分ほど歩くと、目的のサイゼへと到着した。
お決まりのセリフ、「何名様ですか?」という質問に2人、と短く颯が返すと、4人掛けの席に案内された。
しかし、サイゼリアというレストランは素晴らしい。広々とした店内に、清潔感のある従業員。壁や天井にペイントされた絵画や、厨房から聞こえてくる調理器具の音といった視覚、聴覚的な要因はもちろん、コスパの良すぎるといっても過言じゃないくらいの料理の数々は、年頃の高校生が利用する理由として十分だろう。
てか、なんでミラノ風ドリアってあんな安いのん?ほかのレストランにうっかり入ったりすると値段の高さに驚愕するまでがテンプレ。値段に格差がありすぎてサイゼだけ他国かと思うレベル。
俺がサイゼのよさに浸っていると、颯が「そのふざけた雰囲気をぶち壊す!」とでもいうかの如く口を開く。
「なによ、『2人ですか~』って。どう見ても2人しかいないでしょ、幻覚みえてんならさっさとお祓い行ったほうがいいんじゃない?」
「悪質なクレーマーかよ。ってそうじゃない、今日は何で呼び出したかまだ聞いてなかったよな」
「そう、今日呼び出したのは、部活勧誘の件について真剣に会議したかったの。」
かしこまった口調で颯が話す。そして、真剣に会議しなければいけないのにはとあるわけがある。
「……お前、また生徒会に歯向かうつもりかよ。」
「負けて引き下がったままでいたくはないの。」
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