六郎木颯は少しズレている。

前回のオレライブっ!


告白に失敗して勘違い野郎と化した。



翌日、学校に行く足取りは重かった。


周りの笑い声が全て陰口に聞こえ、知り合いに話しかけられようものなら、昨日の告白の噂が知れ渡っているのではないかと根拠のない憶測を立ててしまう。というか俺の顔みて笑うのやめてくんない?故意的じゃなくても人間傷つくものだよ?


颯とは丸一年以上の付き合いだから分かるが、あいつは人が言われて嫌なことを広めるようなクズではない。まぁ仮に皆に知られたとしても彼女のせいではないから、詮索されたら煙に巻いて自然消滅を……


「おはよー春馬!!いや〜昨日の告白にはびっくりしちゃったよねっ!まぁ私に振られたことなんか一旦忘れて、今日はサイゼいこ、サイz」


「神経通ってねーのか貴様ァァァァ!!!」


「え?だって昨日私が告白されたのは事実でしょ?」


「てめーは声のボリュームってもんを考えたことねーのか」


そう、今俺たちが話しているのは通学路。

颯は常人の2倍くらいの声を張るため、周辺の人々にも話の内容が聞こえてしまう。

今なら弁明の余地があると思ったが、周りの同級生が目をそらし始めているのでもう手遅れだろう。


「でもさでもさ、私嘘ついてないよね?春馬は付きあってって言ったよね?」


「あのな、普通俺たちの年頃の奴らは告白は勇気を出すもの、あるいは恥ずかしいものって考えるんだ…よ…」


俺が言い終わるやいなや、颯の表情が変わる。先程の笑顔とは打って変わり、怒っているような、あるいは何か悩んでいるような、苦虫を噛み潰したような表情だ。



「……何それ。意味分かんない。」


さっきまで饒舌だった颯が、突如として口籠ってしまう。

が、そこは同じ部活で過ごしてきた身だ。

こういう時は話を逸らすに限る。


「……あー、それで飯食いに行くって話だっけか。いいぜ、どうせいつも暇してるしな」


「……今夜七時に柏駅集合ね」


「了解。」


六郎木颯は、少しズレている。

それが何を持って、どういう基準で定められているのかは俺にも彼女にも分からない。


だが、本人が常識と思っていることが世間一般には浸透しておらず、大多数の意見に押しつぶされるようにして否定されるのだから、「ズレている」根拠としては十分だろう。


「あとお前さ、気まずさとかないの?俺は覚悟の準備をして、なんなら訴えられることまで想定してたんだけど。」


「どこのワザップよそれ。だから昨日言わなかったっけ?『友達のまま』じゃだめかって」


「そうか。…とりあえず絶縁されなくて良かったとだけ言っておこう。」


「するわけないじゃん。だって仲良しだもんね、私達」


「そういやそうだったな」


いくら仲が良い友達でも、自分たちがそうであると言質を取るのはしないはずだ。

昨日の「友達じゃダメか」なんてセリフも、

西田春馬のように断り文句の一つとして受け取るだろう。


でも、何故そのように理解するのか。

根拠なく「常識」や「当たり前」ということが彼女は許せないのだろう。


改めて言わせてもらうが、六郎木颯はどこか人とズレている。

そして、それを更生するのは容易いことでないのは彼女も理解しているだろう。


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