第5話 牢獄の間 /壁に耳あり、牢屋に友あり

ハール この部屋自体はほかに何かありますか?

GM ここは「魔剣の間」です。北に白い大理石製の立派な扉、南には先ほどまでと同じ木製の扉がありますね。大理石の扉には「★★★」と刻まれていて、鍵穴が2つあります。

ベリー 明らかに危険そうな気配がする。

ハール 今は行くことが出来なそうだ。

レク じゃあ、とりあえず南の扉を調べようかな?

ベリー 北の扉も、開かないにしても、一応同時に調べておくよ。(コロコロ)12!

GM 罠はなさそうです。ただ、普通の鍵なら扉ごと押せば動くところ、まったくビクともしないので、魔法の鍵で施錠されていると推察できます。

レク じゃあ、南の扉は……(コロコロ)出目11!(笑)

ハール また極端な(笑)

GM 罠も鍵もないんじゃないかな、とかなり確信できます。

ハール じゃあ、南の扉に聞き耳をしてみます。(コロコロ)9。

GM ふむ……。


ここでGMはちょっとアドリブを入れてみることにしました。気心知れた相手だし、せっかく経歴表を振ってキャラクターの設定を決めてくれたので、盛り上げていきましょう。


GM えーと……じゃあ、ちょっとハールの経歴表を拾ってもいいですか?

ハール いいですよ?

GM 南の扉の向こうから、大いびきが聞こえてきます。なんだか聞いたことのある声です。

ハール おっ?

ベリー (ハールのキャラクターシートを見ながら)経歴表に出てきた人物は1人だけだよね?

ハール 昔の友達だろうか……?みんなには、知り合いの声が聞こえたような気がしたのだけど、と言います。

レク ハールおにいちゃんのおともだち?その人は冒険者なのー?

ハール いや、冒険者じゃないはずだけど……でもいびきが聞こえるんだ……(困惑)。

ベリー こんなところで寝てたら相当肝が太いヤツよね(笑)。気になるので、スカウトのあたしがそーっと開けてみます。

GM はい。廊下が南へ伸びているのですが、その両側の壁の一部に鉄格子がはまっています。平たく言えば、廊下の左右は牢屋になっているようです。西側の牢屋に人影がありますね。

レク (地図を見ながら)ふんふん。

ベリー 反対側には何かありますか?

GM 背負い袋と装飾品が散乱していて……あとは、非金属鎧の〈ハードレザー〉と〈トラドール〉。

ハール 〈トラドール〉?カテゴリ〈ガン〉の武器……銃ってことだよね?

ベリー マギテックシューターの装備品だけが牢屋の中にあるってこと?(困惑)


マギテックシューターとは、魔動機文明時代の魔法マギテックで弾丸に魔力をこめ、シューター技能で狙い撃つキャラクタービルドのこと。銃はマギテックシューターしか扱えないので、彼らの推理は当然のものでした。


ハール えーと……西側の牢屋にいる人に見覚えはあるだろうか?

GM そうですね、ハールは見覚えがあります。イヌ科系の顔をしたリカントの若い男性ですね。パンツ一丁です。

その他一同 えっ!?

ベリー つまり、その人の装備を反対側の牢屋に入れたような感じ?

GM そんな感じに見えますね。そういえば服もあるかも。

ベリー 捕まえても、装備がそのままだと【ノッカー・ボム】で逃げちゃうもんね(マギテックには錠前や扉を爆破して開ける魔法があります)。

レク はわわ……。ハールおにいちゃんの様子を伺います。

ベリー レクちゃんと一緒にハールの様子を伺います(笑)。

ハール え、ええと……(困惑)。その人が本人であるかどうかだいぶ疑っているんですが、それを確かめることはできますか?判定とか。

GM 非常に不思議な状況なので、できると思います(笑)。その男性は、この状況にもかかわらず、まだいびきをかいています。

ハール 静かに近寄って、確かめてみます……。(コロコロ)13です。

GM 困ったことに、ご本人です。

ハール いやー……(大困惑)。

ベリー ご本人かあ~。ハールに、「牢屋に入れられるようなタイプのお友達が……?」という目を向けています(笑)。

ハール うーん(笑)。彼とは疎遠だったんだけど、その前は冒険者ではなかったと思う。とりあえず、「おーい!」と大声で呼びかけてみるよ。

GM 全く起きる様子がないですね。

ハール かなり大声で叫んだつもりだったんだけど……。ということは、ただ寝ているわけではなくて、何かの影響で寝ている?起こす方法はあるかな?

レク 【アウェイクン】するー?

ハール はっ!そういうのもあるのか!(笑)


【アウェイクン】はどの宗派のプリーストでも使える神聖魔法のひとつ。戦闘不能になったキャラクターを起こす使用法が多いですが、眠ったキャラクターを目覚めさせる効果もあります。


ベリー そのやりとりの間に、そーっとレイピアを鞘に入れたまま、檻の間から突っ込んでツンツンってしてみます。

GM すると、男性の鼻ちょうちんがパチンと割れて「んがっ!?」って。

その他一同 (笑)

GM リカントの男性は「あれっここは!?ていうかなんで俺はパンイチなんだ!?」と慌てながら、檻の外にいるハールを見て「お前、なんでこんなところにいるんだ!?」。

ハール いや君こそなんでこんなところに!?ていうかあれ(東の檻の中にある装備)は君のなのかい?

GM (食い気味に)「あれは俺の装備!なんで?!まさかお前の仕業か!?」

ハール いや僕じゃないよ!?(笑)

その他一同 (笑)

GM そういわれると彼は「いやー、曲がりなりにも神官のお前がそんなことをするなんて思ってなかったよ。それがさあ……」と檻越しに身の上を話し出します。

ベリー (渋く)カツ丼食うか?

GM 「食わしてくれよ、腹減ってんだ」。

ベリー (即座に)ごめん、ない。

GM 「ないのかよ!(笑)ないもんをあるっていうんじゃないよ!期待しちゃうだろ!」。

ハール じゃあ保存食をあげます(笑)。

GM はい(笑)。彼はムシャムシャしながら話をします。



▼リカントの男の話


彼の名前はラング。ハールとは気心知れた友人同士でした。

しかし、ある時期を境に疎遠になっていました。というのも、下町生まれのハールはラングや貧民街の人たちの境遇を気の毒に思い、「庇護」したいと考えていた時期があったのですが、当事者のラングはその言動を傲慢に感じて反発、仲たがいしてしまったのです。

その後、一時は悪い仲間との付き合いもあったものの、ラング自身このままではいけないと考え、独学で冒険者としての技能を取得し、腕試しのつもりで迷宮〈欠片喰らい〉へとやってきました。しかし――……。


—————————————————————————————————


GM ラングいわく、「それが『茨に囲まれた庭園のような場所』で金色の彫像に触ったら、ふっと意識がなくなって、気が付いたらそこのねーちゃんに脇腹つつかれてよぅ。一体全体世の中どうなっちまったんだ?」と首をかしげています。

レク そのお庭はどこにあるのー?

GM 「ここがどこかわからないから何とも言えねぇ」。

ベリー 手元の地図を見せるけど。

GM 「うーん、俺の来た道とは違うな……」。

ハール まずは服を着せてあげよう(笑)。

GM ラングは「そいつぁありがてえ!」と言ってますね(笑)。まだパンイチなので。

ハール 東の檻の荷物は取れそうですか?

GM うーん、推定魔法の鍵がかかっていると思われますね。

レク 魔法の鍵……。


そう、このパーティーは魔法の鍵を開けられるソーサラーも、魔法の鍵を開けることができるアイテム〈アンロックキー〉もないのです!ということで……。


レク ラングおにいちゃんに〈マギスフィア〉を返して、自分で【ノッカー・ボム】で出てきてもらったらどうかなー?

ベリー レイピアでつついて取り戻せませんか?銃とか。

ハール 服より先に!?(笑)

GM 「ズボンを先にしてくれ!(笑)」

一同 (笑)

GM 檻の隙間からなので、荷物のすべてを取り戻すのは難しいです。鎧や背負い袋は無理でしょう。小さなマギスフィアと銃と服くらいは回収できそうな気がします。

ベリー つついたお詫びにそれを渡します(笑)。

GM ラングは「ありがとなねーちゃん!」って言いながら服を着ていますよ(笑)。

ベリー ねーちゃんじゃないよ、ベリーだよ、なんて軽口を叩きます(笑)。

GM じゃあ、「へへっ、ありがとよベリー」と言いなおしながら……【ノッカー・ボム】!爆発音がして、檻の扉が吹き飛びますね。ドゴーン!

ハール わ、ワイルドだなあ……。

GM 「だってお前ら、魔法の錠前を開ける手段ないだろ?」って。

レク 買おうと思ってわすれたのー!

GM ラングは「小さいのに偉いなあ~」と言いながら東の扉もぶち開けて装備を回収します。見たところ、皆さんと同じくらいのレベルのようですね。また、ラングは皆さんに助けてもらったお礼として剣の欠片を4つ差し出します。

ベリー こんなにいいの?

GM 「いやー、だって、仮に起きたはいいけど、牢から出してやるから金を出せとか言われたら困るだろ?これくらい、むしろ安いと思うぜ」

レク そんな悪いことしないよー!

ベリー 仮にもパーティーメンバーの友達だよ!?

GM 「方法としてはハールを『友達を助けてほしければ……』と脅すこともできるしな……はっ、もしかしてふつうはそんなことしないのか!?(←貧民街育ち)」

ハール アルフレイム大陸の冒険者はいい子だからそんなことはしない!(笑)


アルフレイム大陸の冒険者は、基本的に、不文律として「弱い人を守る」という意識を持っています。


ハール それはそれとして聞きたいことがあるんだ。……ラング、君は1人で来たのかい?

GM そのようです。「ここの迷宮の浅い階層はキノコを採って帰るだけでも黒字になるんだ」。

ハール (顔を覆う仕草)もうちょっと……もうちょっと……もうちょっと……備えなさい!

その他一同 (爆笑)!

ベリー 〈アンロックキー〉買ってこなかった人に説教されてる!(笑)

ハール いや、僕は仲間と一緒に来た!(笑)

GM ラングは「俺だって仲間は欲しかったけど、お前に『いっしょに冒険者になってビッグになろうぜ』っていう前に仲たがいしちまったから!」って抗議しています(笑)。

ハール ちょっとした喧嘩になるんでしょうね(笑)。

ベリー そんな場合じゃないでしょ!って横からいさめます。

ハール はい(笑)。改めて聞くけど、触ってしまった「黄金の彫像」とはどんな彫像なんだい?

GM ラングは「大理石みたいな立派な台座の上に、羽を広げて飛び立とうとしている少女の像が乗ってたんだ。相当の値打ちものに見えたね。なんかの罠だったのかもしれねえなあ、ガッハッハ」って豪快に笑っています。

ハール ハッハッハじゃないよ……(頭を抱える)。

GM 「助かったからいいじゃねえか!」

ベリー あたしも、ラング君が心配になってきた(笑)。

ハール では改めて、未探索の場所がまだあるからついてきてほしい、と言います。心配だし……。(ボソッ)

GM ラングも「キノコもロクに取ってないのに帰るわけにはいかねえぜ!」と快諾します。

ハール (ふと)……これって、ラングのぶんも入場料を払うのかな?

GM いえ、彼は先払いしてきていますよ。「迷宮から一生出られないとかになったらどうするんだよ!迷宮刑(グランゼールの街特有の刑罰。嘘つきは帰還できない迷宮に放り込まれる)はごめんだぜハッハッハ」

その他一同 …………。

ベリー ……目をそらしています(笑)。

レク アハハハ……ハ……(感情のない笑い声)。

GM まあ、ラングは皆さんが困っていそうなのもあって、「助けてもらったからには相応に働いて恩返しするぜ」と言ってついていきます。

ベリー ペロッ!これはフェロー!

GM はい、その通りです(笑)。



フェローとは、PCを手助けしてともに行動する助っ人です。NPCとは違い、キャラクターから必要なデータを抜粋してフェローとして連れていくこともできます。フェローに行動してほしいときは代表者がサイコロを振り、フェロー行動表を参照して決めます。思った通りの行動をしてくれない時もありますが、行動表を振った後で対象を決定できるのがフェローの強みです。



▼フェローとしてのラング


名前:ラング

種族:リカント 性別:男 年齢:20歳

技能:シューター3 マギテック2 セージ1

自己紹介:俺はラングってんだ。ハールとはケンカもした仲だが、助けてもらったからには気にせず恩を返すぜ!

経験点:あり 報酬:要望


フェロー行動表は掲載しませんが、セージ技能で知識を問う判定に参加したり、マギテックシューターとして攻撃・回復できるキャラクターです。

ハールの縁者なので、フェロー行動表はハールが振ることになりました。


—————————————————————————————————



少々強すぎるかもしれませんが、今回は初めてのソードワールド2.5。

新しい戦闘特技や種族に積極的にチャレンジしてほしかったので、よりプレイヤー有利にセッティングしています。

なお、ハールのプレイヤーには逐一、ラングとの関係や性格などに問題ないか聞きながらプレイしています。冒頭ではなぜけんか別れしたのか設定がありませんでしたが、ここでぐっとキャラクターの解像度が上がったようです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る