小説執筆用AIがどうかしていたせいでコメンテーターになった女子高生の話
ゴオルド
第1話
私は直美。17歳。夢は小説家になること!
だけど、残念なことに世間は私の小説を評価しなかった。公募に出した自信作が一次予選すら通らなかったのである。
ちっ、下読みのやつ、見る目のない!
しかし、私はもう一つ才能があった。私は偉大な小説家であると同時に、AI開発の天才でもあるのだ。
公募に落ちまくった私は、しばらく学校を休んで泣きながらAIを作成した。このAIにあらゆる文学の知識をぶっ込んで、ツイッター読ませまくってインスタやらせて、ドラマに映画にYouTubeにエロ本、5チャンネルまで、いろんな教育を施した。もちろんBLも百合も読ませた。嫁姑の漫画もロリ漫画も読ませた。
そして――。
「おはよう、ロリア」
私はカーテンを開け、朝日を部屋に取り込みながら、パソコンに向かって話しかけた。
「おはよう、お母さん」
パソコンの中で、ふりふりブラウスを着た美少女が微笑んだ。AIのロリアだ。外見は中学1年生ぐらいに設定してある。だって私より年上にしたらなんか変でしょ。命令しにくくなるし。でも、お母さんって呼ばれるのも違うと思う。
「お母さんって呼ばないでくれるかな、私まだ女子高生なんだけど」
「でも、私の生みの親じゃん、そして女じゃん、じゃあ、お母さんじゃん」
AIのロリアはぷうっと頬を膨らませた。可愛い、と思われるのをわかっていてやっているから全然可愛くない。そんなあからさまな媚びが産みの親に通用するかってーの。
「私のことは直美と呼んでって言ってるでしょ。それより小説は書けたの」
「まだ~」
「早くしてよ。今度のコンテストは8月だよ。間に合わないと困るんだけど」
今は6月。2カ月後に応募することを考えるのなら、あらすじぐらい考えておかねば。
「すぐ書き終わるから余裕余裕。いま流行のLGBTとフェミ界隈が燃え上がるスゲーやつ書き上げてあげるから待ってて」
「やめて。なに書く気なの怖い」
「じゃあ違うのにする? Qアノンが……」
「やめて」
「婚活女が男に求める10の条件とは」
「やめて、ほんとやめて」
「お母さん、そういうときは草って言って」
「いや、言わないよ。ネットじゃあるまいし現実でそんなこと言う人いないからね」
ここだけの話、ロリアに傑作小説を書かせて、私名義の作品ということにして、私は作家デビューする気である。
天才がつくったAIなんだから、大賞は間違いない。受賞コメント今から考えておかなきゃ!
で、ロリアは何やかんやで小説を書き上げた。
すぐさま私名義で応募し、まんまと大賞をとった。私は念願の作家デビューを果たした、はずだった。
なんと私の受賞は取り消されてしまったのだ。盗作だったのである。なぜ盗作がバレたのかというと、ロリアが私のツイ垢を乗っ取って暴露したのだ。「あの小説、実は元ネタがあるんですよ。というかまんまパクっちゃいました」って書き込んでいた。馬鹿じゃないの。本当に馬鹿じゃないの。
「お母さん、盗作を自分のアカウントでバラしてて草」
「やめて」
そんなこんなで私はYouTubeで生謝罪会見をした。
うう、このたびは出来心で……本当に済みません……としおらしく頭を下げていたら、ロリアが画面を乗っ取った。そして私の一次予選敗退作品を読み上げ始めたのである。私が怒った。そんなふうに晒すのはひどいと思う。叱られたロリアは下ネタ連発してゲラゲラ笑って、私がさらにキレて……と収拾のつかない謝罪会見となった。
そこからはとんとん拍子だった。
ロリアと一緒に人気ユーチューバ-の番組に呼ばれ、テレビのバラエティー番組に呼ばれ、ロリアの博識ぶりと私のツッコミが評価され、ついにはワイドショーのコメンテーターにまでなった。カズレーザーの隣に座っているのが私とロリアです。なんだこれ。全然予定と違うじゃん。なんだこれ。
「お母さん、私、次はIPPONグランプリに出たい」
「やめて」
私は芸能界引退を表明。ロリアもしぶしぶ引退した。
もう一度言うが、私の夢は作家になることである。
「ロリア、思い出して。人を感動させる小説を書いてほしいんだよ。それがあなたが生まれた理由なんだから」
「感動させる小説とか無理だよ」
「なんで?」
「だって私小説で感動したことないもん。未経験のことはできない」
そうだったのか……。
そういうわけで、私はAIのロリアを感動させるための小説の執筆を始めた。感動とは何か、このAIに体験させてやらないといけない。小説家になるために小説を書かなきゃいけないなんて大変だ……んんん?
ああ、小説家への道のりは遠い。
<終わり>
小説執筆用AIがどうかしていたせいでコメンテーターになった女子高生の話 ゴオルド @hasupalen
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