記憶のかけら

バブみ道日丿宮組

お題:記憶の勝利 制限時間:15分

記憶のかけら

「ねぇ、ボクの勝ちでいいんだよね?」

「負けてない、負けてないわ!」

 彼女はひざまずきながらもボクを下から睨みつける。元気あるなぁ。半脱ぎだけど。

「ボクとしてはいい加減諦めてほしいのだけど」

 かれこれ100回ぐらいは戦ってるだろうか。記憶にあるのは勝利だけで、敗北という二文字はなかった。

 彼女が吹き飛んでたり、半裸になったり、全裸であったり、転がってたり、泣いてたり、いろんな彼女がいた。それをボクは見続けた。

「私が勝つまで続けるわ。そうしなきゃ意味がないもの」

 意味か。

 ボクが勝ち続ける意味も、負ける意味もない。

 勝利という二文字のために個性がなくなるというのなら、ボクという存在は生まれた時に敗北してる。満足のいく身体、全てを見通せる知性、何事にも屈しない精神。そんなものがボクにあっても使い方が見つからない。

 こうして彼女が外に連れ出してくれなければ、一生を部屋の隅っこで過ごしてただろう。そういう意味では感謝という言葉が適切なのかもしれない。

 本当のボクを見ててくれる。

「じゃぁ、ボクの負けでいいよ」

「それはダメ。あなたがコテンパンになってなきゃ勝ちとはいえない」

 難しいものだな。

「うーん、ハンデとかつける?」

 もっともハンデという言葉は知っていても、出せるとは思ってない。

 いつだってボクのカラダは本気モードという不具合が発生してる。そのせいで子供時代は酷かった。友だちを壊すということを何度もしてしまった。それもまぁ……1人になれば、減った。部屋に閉じこもればさらに減った。

 そんな数年を過ごしてると、彼女がボクの家にやってきた。

 新しい家族と言われた。家族というのはそんな簡単に増えていいものかと一瞬悩み、どうでもいいとその後部屋に戻ると、

『私がお姉ちゃんよ』

 彼女はボクの手を引っ張り、外へと連れ出した。

 長い間引きこもってたせいか、陽の光が痛かったな。

「ハンデなんてもっとダメよ。全力のあなたがみたいの」

 熱意が羨ましい。

 ボクにもそういったーー純粋な想いがあれば、人生は変わったかもしれない。何かを作れたのかもしれない。

「どうしたの? 悲しそうな顔をして」

 彼女は立ち上がり、ボクの手を握りしめる。

 あの時と変わらない熱がそこにあった。

「生きるのって難しいんだなって」

「そうよ。だから尊いの」

 優しく抱きしめられた。懐かしい匂いとともにボクは生まれてはじめて涙を零した。

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記憶のかけら バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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