第三章 ひとり


「こんなにあるの?」

「はい、こんなにあります……」


 防犯カメラを見せてもらってから二日後、三人の目撃者の家族たちに遡れるだけ視聴履歴をリストアップして、送ってもらった。

 だがあまりの多さに友野は目がチカチカして来た。

 特に、愛里はやはり一番若いだけあって、いろいろなアプリでいろいろな動画を見ている。


「目撃した日は姉さん、休日だったので……ほとんどスマホで動画を見ていたそうです」


 大学の講義が終わって、占いの館に来た隼人は申し訳なさそうにしている。

 目は大丈夫なのかと心配したくなるくらいの数だった。


 ジャンルは様々。

 メイク動画や話題の商品紹介のほか、アニメやドラマ、ホラー映画の予告、カップルチャンネルの日常動画などなど……。


「他の二人と同じものがあればいいんだけど……」


 ランキングに入っているものは、共通して視聴されていたりもした。

 しかし、その場合二人は見ているが、一人は見ていないというパターンが多い。


「……心霊スポット好きだなぁ……この動画配信者。いつか何かに取り憑かれるぞ?」


 謎の音声が入っていたとか、データが飛んだ……なんて動画を次々に再生して確認していく。


「こういうのも、やっぱり偽物なんですよね?」

「そうだね……本当にいる場所で撮られているものも中にはあるけど、ほとんどが嘘だよ。本物は、めったに————って、あれ、ほとりの森公園だね」


 三人に共通している動画の中に、ほとりの森公園で撮影されたものがあった。

 夜の公園で、一人がスマホで撮影し、もう二人が歩いている。

 ただの風の音に驚いたり、それっぽいBGMが流れ、テロップもホラーだ。

 最後は三人とも画面に映って、次回の動画でお会いしましょう!と言って終わった。


「龍雲斎が取り上げたせいで、以前よりほとりの森公園での動画を撮る人が増えたらしいですからね……それにあの事件も重なって……——」


 池で見つかった遺体の身元はいまだに判明していない。

 友野はホワイトボードに貼られた、遺体の顔写真をちらりとみて、ため息をつく。


「せめて、あの池に残っていてくれたら、何かわかったかもしれないのに……————」

「成仏しちゃったんでしょうかね?」

「うーん……それならいいんだけど……この世に未練とかなかったなら————って、ナギちゃんいつの間に来たの?」

「今です!」

「今って……あ!!」


 隼人より遅く来ると言っていた渚がいつの間にか店に来ていて、友野は時間を確認した。


「やば……!! もうこんな時間!!」


 動画調査に夢中になっていたら、いつの間にか午後4時を過ぎている。

 急に立ち上がって、慌てだした友野に、来たばかりの渚は何がそんなにまずいのかわからずに首を傾げた。


「先生、なにか予定でもあったんですか?」

「あるよ!! これからテレビの収録があるんだ……!!」

「えっ? 例の龍雲斎とのやつですか!?」


 キラキラと瞳を輝かせ、渚は自分も一緒に連れて行けという顔をしている。


「いや、残念ながらそれはまだもう少し先。今日のは深夜のバラエティ……若手芸人の確か、サイレンスってコンビを占うんだ。だから、もうこの調査は一旦中止して、続きは明日に——……」


 渚の好きなオカルト系番組ではない。

 普通のバラエティの占い企画。

 当然、渚には興味がないと思っていた友野。


 しかし、渚はまだキラキラと瞳を輝かせる。


「サイレンス!? 先生!! 私も一緒に行きたいです!! マネージャーとして同行させてください!!!」

「えっ!? いや、なんで!?」


 友野は知らなかった。

 サイレンスは心霊系の番組のMCをしているコンビだということを。

 そして、その番組こそが、あのほとりの森公園を心霊スポットとして紹介した一番最初の番組であることを。



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