「あぁ、そうそう! このお客さん、金曜日の閉店間際にいつも来るのよね……多分仕事帰りなんだと思うけど」


 このスーパーのレジシフトは、基本的に曜日ごとにメンバーが決まっている。

 店長の言った通り、レジ締めをする他のスタッフや、品出しを担当しているスタッフも佐藤のことは知っていた。

 いつも閉店の間際にスーツ姿で来て、残っている弁当や惣菜を買っていくらしい。


「閉店間際で一人で来てるから、てっきり独身なのかと思ってたけど……スーツじゃないと全然違う人みたいね。言われなきゃわからなかったわ」


 夫婦で買い物に来ているときは、レジに並ぶのは妻の方で、そのせいもあるだろうし、シフト的に金曜日の夜に入っていない人が担当しているようだ。


「それじゃぁ、こちらの男性の方は、見覚えありますか?」


 友野が三件目の目撃者である青年の写真を見せたが、それは皆知らないと言っていた。

 基本的に愛里がいないのは、火曜日と金曜日。

 火曜日の出勤してるスタッフに聞いても、答えは同じ。

 店長も知らないと首を横に振った。


「何度か買い物に来ていただいていて、何かしら特徴がないと……さすがに全員の顔を覚えてなんていられないよ。一日に何百人ものお客さんが来るんだから……」

「そうですか……わかりました」


 そうなると、やはり目撃者三人に接点が見つからない。


「やっぱり、怪奇現象にこのスーパーは関係ないのかもしれない。たまたまの偶然だったのかも……動画の方を探って見たほうがいいかな?」


 友野は目撃者三人に、怪奇現象が起きる前までに見ていた動画の視聴履歴を見せてもらおうと、スーパーを後にしようとした。


 しかしその時、怒鳴り声が店内に響き渡る。


「だから!! ここで買ったんだって言ってるだろ!? あの時の店員をだせ!!」


 高齢の男性が、声を荒げてサービスカウンターにいる店員に何か怒っている。


「お客様、レシートはお持ちですか?」

「そんなものはとっくに捨てた!! あの店員が覚えてるはずだ!!」

「あの店員と言われましても……対応した店員の名前は覚えていらっしゃいますか?」


 店長が駆け寄り、事情を聞くが、男性の怒りはピークに達しているようで、店内にいた客もスタッフも全員がその大きな声に注目をする。

 友野も、じっと男性を見つめた。


「名前……!? 覚えているわけがないだろう!! とにかく、俺は先月の……あれは確か金曜日だった!! 金曜日の夜にここで買ったんだ!!」


 ここまでのクレームに遭遇することはあまりないため、隼人は友野もきっと珍しがって男性を見ているのだと思った。

 だが、友野は怒り狂う男性の方の方へ急に歩き出し、ポンと肩に手を置いた。


「な、なんだ!? お前は!!」

「まぁ、落ち着いてください。店長、先月の十五日です。この男性がここへ来たのは……」

「え、どうして?」

「まぁ、いいから。防犯カメラを確認してみてください」


 店長は友野がそうはっきりと言ったため、戸惑いながらも、男性を事務所に連れて行き、一緒に防犯カメラの映像を確認すると、確かに男性が買い物をしている姿が映っている。


「どうして……わかったんですか?」


 隼人が小声で友野に聞くと、なぜか代わりに渚が答える。


「先生、守護霊に聞きましたね?」

「あぁ、あの男性がいつも癇癪を起こすから、守護霊が心配していたよ。これ以上怒って血圧が上がると、命に関わるかもしれないって……日付を訴えてた」


 占い師として活動するときに使う手口で、友野は人物についている霊の声を聞き、怒りで興奮している男性をすんなりとなだめた。

 クレームも大ごとにはならず、はっきりとカメラに映っていたおかげで、レジにいる時間からレシートのデータも見ることができ、男性は納得して帰って行った。


「いやぁ、助かった。ありがとう。あの男性のレジを担当していたスタッフ、辞めてしまったスタッフだったから……」

「そうなんですか? この眼鏡の女性ですよね?」


 眼鏡をかけた細身の女性店員の斜め後ろ姿が、一時停止したままのモニターに映っている。


「あの子、うちと掛け持ちで仕事をしていたようでね……そっちの方で人手が足りないから一本にするって、辞めてしまったんだ。いつも入ってくれるスタッフが少ない締めの時間帯までいてくれて、助かっていたんだけど……」

「へぇ……」


 友野は、じっとその画面を見つめる。

 金曜日のレジ締めを先月まで担当していた、あの子の姿を。



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