4
* * *
ほとりの森公園には、大きな池がある。
最近、その池で死体が上がった。
死因は溺死であったが、ひどい外傷があり、司法解剖を担当した医師によると、車に轢かれた後、この池に捨てられたという結果が出た。
犯人は見つかっておらず、この被害にあった女性の身元も不明のままである。
わかっているのは、女性が二十代前半で、左目の下に大きな泣きぼくろがあるということのみ。
警察は身元の特定を急いでいるが、なかなか成果を上げられずにいた。
あの池は、夜になると幽霊が出ると心霊スポットとして密かに近所では有名であったため、死体が発見される数日前にも、自称霊能力者を名乗る男が霊視をした番組が放送られたような場所だった。
そんな場所に、身元不明の女性の死体。
メディアは面白おかしく煽り、ほとりの森公園に近づく人間は今ほとんどいない。
夕方、ジョギング中にこの公園の前を通りかかった青年は、急な便意にどうしても耐えられず、公衆トイレに入った。
しかし、ここは最近メディアを騒がせているほとりの森公園。
なんとなく不気味な雰囲気に耐えきれず、怖さを紛らわすためにスマホで適当に動画を見ながら用を足した。
洗面台で手を洗っていると、自分が流している蛇口の水とは違う、屋根に叩きつけるような大雨の音が聞こえてくる。
「なんだよ、雨かよ……」
もちろん傘なんて持っていなくて、少し雨脚が弱くなってから外に出るべきか迷っていると、高い位置にある窓から見えたすりガラスの向こう側で、何か音がした。
ぼとり
「なんだ……?」
ぼとり
ぼとり
雨の音とは違う音が聞こえて、青年はトイレのドアを開けて一歩前へ出る。
その瞬間、屋根の上からごろりと白い物体が転げ落ちて、目の前を通り過ぎた。
「は?」
地面に、白い二十日鼠が数匹、落ちている。
「なんだ……これは……」
男は足元に落ちている鼠を目を見開いて見つめる。
頭が潰れているもの、まだ生きているものの尻尾は、まるで蚯蚓のように見えて、気持ちが悪い。
アルビノの赤い瞳と目があった。
「なんで……鼠が————」
ぼとり
青年がそう呟いた直後、また新たに一匹鼠が空から落ちて、目があった鼠の上に乗った。
ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと
まるで雨のように、とめどなく鼠が降ってきて、青年の足元に転がる。
「うわあああああああっ!!」
その異様な光景に叫んだが、誰も近寄らないこの公園に人が来るはずもない。
青年の悲鳴は誰の耳にも届かなかった。
恐ろしさに耐えながら、なんとかトイレの中へ戻ると、ドアを閉めて助けを求め、震える手でスマートフォンの緊急ボタンを押して警察に連絡した。
パニックに陥りながら、表現のしようがないほどの圧迫感。
息苦しさに耐えて、耐えて耐えて。
「た……たすけてくれ…………鼠が……鼠が…………」
しかし今目の前で起きたことを、冷静に伝えられるはずがない。
いたずら電話を疑われたが、数分後、近くにいる交番から派遣された警官が公衆トイレのドアを開けると、青年は倒れていた。
緊急搬送された病院で、青年は鼠の話をしたが、誰も信じてはくれない。
彼もまた、雨の音を怖がるようになり、外に出ることが困難になってしまった。
それから数日後、SNSで情報を募っているのを知った彼の恋人は、まるで別人のように怯えている彼をどうにかしたいと、隼人に連絡をしてきたのである。
そして、時を同じくして、二件目の目撃者である人物の家族からも、連絡があった。
そうして隼人は、渚にこの怪奇現象の真相を突き止めて欲しいと、依頼をしてきたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます