第2話 カードゲームが嫌い(?)な甲斐さん
「うおおおすっげ斉藤! これで何連勝だよ!」
「城島さんでも無理とか、これもう勝てるやついないだろ」
さっきまで凛ムードだったギャラリーたちも、俺の華麗な逆転劇に興奮しきっているようだ。
ふふん、どうだ見たか。これが一流のデュエリストの実力よ。四妨害くらい乗り越えてこそデュエリストを名乗れるってもんだぜ。
「うぅぅ~。いけると思ったのに~。やっぱり毅って強いよね。ゲームに関しては毅には勝てないや」
「はっはっは、もっと褒めろ。でも凛も強かったぜ!」
俺たちは勝負のあとの握手をする。これもデュエリストのマナーのひとつだ。
勝負が終わったら後腐れなし、お互いの健闘を祝して握手する。
「斉藤、今度は俺ともやってくれよ!」
「あ、俺も! めっちゃ強いデッキ作ったからさ!」
クラスメイトや他のクラスの面々から続々と決闘の申し出をされる。
なかなかいい気分だ。オタクで帰宅部の俺だが、BOMが流行ってるおかげで休み時間の間だけ一躍ヒーローみたいだぜ。
まぁ本当は学校でカードゲームなんかやっちゃ駄目なんだけどな。そう考えると俺は不良なのか……? 陰キャオタクなのに? 校則違反しているイコール不良……?
いやいや、そんなはずはない。それを言うならクラス中全員校則違反をしている。親との連絡以外でスマホの仕様は禁止されているのに、男子はソシャゲ、女子はTiKT〇Kに動画を投稿している。カードゲームをしている俺だけが怒られるいわれはないはずだ。赤信号、みんなで渡れば怖くないってな。
「こら男子! 学校でカードゲームなんかやってると先生に怒られるわよ!」
俺たちの激闘の熱も冷めやらぬ中、ビシリと強い語気を持った声が発せられる。
「またお前か……甲斐」
「またあなたなのね……斉藤くん」
こいつは甲斐。同じクラスの女子だ。成績優秀、品行方正で学級委員長みたいな性格をしているやつだ。学級委員長は別のやつだけど。
俺たちがBOMをやっていると、毎回こうやって注意してくる。そりゃ校則違反しているのは俺たちの方なのだから怒られるのは当然なのだが、毎回こうも絡まれると段々とやかましく感じてくる。
いくら可愛くてアイドル事務所からスカウトされたって逸話があるからって、俺にとっては敵以外の何者でもない。
繰り返し言うが、校則違反をしているのは俺の方なので一方的に悪いのはこっちなのだが……。
「高校生にもなってこんなのの何が楽しいんだか……。男子ってほんと子供よね、くだらない」
「BOMの楽しさを知らんとか人生損してるやつに言われたくないなぁ。っていうかお前こそなにか趣味あんのかよ。他の女子はみんなSNSやら恋バナやらで盛り上がってるのに、お前そういうの全然やらないじゃん。無趣味なのか? 人生退屈そうだな」
「なんですって」
「なんだよ」
俺たちは正面からにらみ合う。綺麗な眼をしているが、その眼は鋭く俺を見据えていた。
どうにもこいつとは相性が悪い。口を利けばこうしてすぐ喧嘩腰になってしまう。俺オタクで喧嘩苦手なのにね。
いや、女子相手に喧嘩腰って逆にオタクらしいのか? イキリオタクなのか俺は?
まぁとにかくそれはさておいて、一つだけ言えることがある。
俺と甲斐は、絶望的なまでに噛み合わないってことだ。決して相容れぬ俺と甲斐、美少女優等生とオタク。まさに水と油の関係ってわけだ。
「何度注意してもやめないからもう諦めてるけど、そろそろ片付けたほうがいいんじゃない? 先生に見つかったら大事なカードが没収されちゃうわよ」
「おおっといけね! おい凛、カード隠せ! えっと次の授業なんだっけか」
俺と凛は大慌てで机に並べられたカードを片付けてデッキケースに戻す。そしてデッキケースを鞄の奥底、教科書の下という決して見つからない場所に隠す。
それを見た甲斐は呆れたようにため息をつく。こいつからすれば俺たちの姿はさぞや滑稽に見えているのだろう。
「次は数学。遊びもいいけど勉強はしっかりしなさいよね。工藤先生、宿題やってないとすごく怒るんだから」
「わかってるわ。勉強は学生の本分だからな。これでも俺は中間テストの順位は上位30位以内に入ってるんだぞ」
「毅の場合、試験の成績がいいとお小遣いが増えるって理由で頑張ってるだけだけどね」
「凛、余計なことは言わんでいい」
高校生の少ない財政事情でうまく立ち回るコツ。それは親の軍資金にほかならない。テストで成績良かったらアレ買って! というのは学生なら誰しも一度はやったことがあるだろう。
俺はそれでゲームやBOMの資金を貯める。勉強なんて趣味を満喫するための手段に過ぎん。
「さすが斉藤くん。しらなかったー。すごーい。勉強のセンスもあるんだー。そっかー(棒)」
俺の成績自慢を聞いた甲斐はあからさまな棒読みで称賛してきた。
こいつ……興味ない話題への対応さしすせそを……! どこまでも人をコケにしてくるやつだ。
横にいる凛が俺たちのやり取りを見てそわそわしている。
「まぁ遊んでばっかりだとその程度だよね、勉強も遊びも中途半端。何にもなれない駄目人間。斉藤くんって典型的な普通の人って感じよね」
「なぁ!?」
こいつ、クラスナンバーワンデュエリストの俺に向かって普通だと!?
言ってはいけないことを言ってしまったな、いくら美人だからって許されないラインをグラウンドの白線のように踏み込みやがった!
「調子に乗んなよ! いくら成績が学年一位だからって、お前みたいに無趣味な人間なんか誰も相手にしねえよ!」
「ふん、負け惜しみの台詞も悲しいくらいに普通ね。じゃ、先生も来るし私は自分の席に戻るわ」
「あ、おい待て甲斐! 誰が負け惜しみだって!」
俺が甲斐に詰め寄ろうとすると、凛が間に入ってきた。
「ま、まぁまぁ毅落ち着いて。甲斐さんも、別にそこまで怒ることないんじゃないかな~? せっかく同じクラスなんだし、仲良く……ね?」
「っ、凛がそういうなら……わかったよ」
「ふぅ、城島さん。あなたもかわいい女の子なんだから、そんなやつとつるんでると勿体ないわよ。はっきり言って時間の無駄、青春の浪費じゃないかしら」
「そ、そんなことないよ? 毅といると楽しいし、みんなと遊んでるのって青春じゃないかな?」
おお、凛のやつが珍しく甲斐に言い返している。どちらかといえば舌戦は苦手なはずなのに、やけに強く出るな。
凛のやつ、そんなにBOMがバカにされたのが嫌だったのか。流石は俺の幼馴染兼ライバル、お前にもデュエリストの矜持ってやつがあったんだな。
「よかったら甲斐さんもみんなと一緒に遊ばない? きっと楽しいよ? BOMじゃなくても放課後一緒にどこかに行くとかでも……」
「悪いけど、私そこまで暇じゃないの」
凛の言葉をピシャリと断ち切り、甲斐は踵を返す。そのまま自分の席に戻っていく甲斐の姿はなんとも言えぬ威圧感があった。
「つ、毅~……私ひょっとして甲斐さんのこと怒らせちゃったかなぁ~! ど、どうしよう、あとで謝ったほうがいいよね!?」
「凛が気にすることじゃないだろ。ほっとけよあんなヤツ。それよりお前、ちゃんと宿題やってきてるんだろうな? また忘れたら今度は流石に助けてやれないぞ」
「ちゃ、ちゃんとやってきてるよ! ……わかんない問題、結構あったけど」
「今日の日付的にたぶんお前当てられるぞ……」
「わぁ~助けてつよえも~ん!」
「だから昨日の夜わかんないところないか? ってメッセ送っただろうが! たぶん大丈夫って返してきた自信はどこいったんだよ!」
「だって最初の数問は簡単だったんだもん、最後の二問難しすぎるよ~!」
「まぁその、なんだ。簡単な問題の時に当てられるよう祈っておけ」
その後、俺たちの悪い予感は的中し、凛は宿題の回答をするよう先生に言われたのだが、案の定凛の解答は間違っており、先生にこっぴどく叱られるのだった。
教壇から送られる救援の視線に、俺はどうすればいいやら悩みながら、とりあえず親指を立てて答えるのだった。
頑張れ凛、これもデュエリストの乗り越えなければならない壁だ! 数学とBOMに果たしてどんな繋がりがあるのかは不明だが。まぁ、そのうち役に立つさ!
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