学校でカードゲームをしてたらいつの間にか美少女に囲まれてました。~恋なんてアド損だから俺は絶対にお前のことを好きになったりしない~

taqno(タクノ)

第1話 幼馴染の美少女と休み時間のカードゲーム

 学校の休み時間、俺の教室では激しいバトルが繰り広げられていた。

 バトル・オブ・モンスターズ、通称BOMというTCGカードゲームが絶賛流行中で、俺はクラスのナンバーワンを誇っている。

 その地位が今、幼馴染である城島凛により脅かされている。


「俺のターン!」


 俺は勢いよく山札からカードを引く。


「来たか……!」


 俺の声にカードが答えてくれた。相手の場にはモンスターが二体。セットカードが二枚。

 俺の場はがら空き。ライフも残り2000点(ゲーム開始時は一万点)……絶体絶命のピンチってやつだ。

 だが逆転のピースは揃った! このターンで勝利してみせる!


「諦めなよつよし~。この盤面で逆転は無理だってば。私にはモンスターの効果無効持ちが二体、セットカードも二枚あるんだしさ~」


「バカ、凛。こんなピンチだからこそ燃えるんだろうが。俺は絶対にこのターンで逆転するからな!」


 対戦相手の凛やギャラリーたちはすっかり勝負がついたと思っているようだ。へん、その「勝ち確ですわ」って余裕の表情を崩してやる!

 俺は手札から一枚のカードを発動する。


呪文スペルカード『大台風』発動! 自分の場が空の時に相手のモンスター、またはセットカードをすべて墓地に送る! 当然モンスターを墓地送りだ!」


「うげ! 制限カード(※)をここで引くの~! 仕方ないね、カウンターカード発動、『主の進言』。ライフを半分支払って呪文カードの発動を無効にするよ!」

 ※制限カード:ルール上デッキに一枚しか入れられないカードのこと。


 おお~、と歓声が湧く。だがこれは俺に向けられたものではない。万全の体制を敷いている対戦相手に向けられたものだ。

 俺の行動など誰も注目していない。クラスのナンバーワンの座が交代する瞬間を目の当たりにするのをみんな心待ちにしているのだ。

 ……単純にBOMをやってる女子が凛くらいしかいないから、オタク男子どもが群がってるというのもあるが。

 だが、そんな俺に面白くない光景を見せてやるものか!


「使ったな……貴重なカウンターカードの『主進』を。まぁ使うわなそりゃ。だってそうしないと凛のモンスターは全滅だもんな。せっかく出したエースモンスターを呪文一枚で失いたくないもんなぁ」


「なによぉ、やけに余裕そうだけど。……まさか毅!」


「そう、『大台風』が無効にされるなんて織り込み済みだっての! 俺の目的はお前の厄介なセットカードを使わせることだったんだよ!」


「けどまだもう一枚セットカードがあるもんね、こっちも厄介だよ~?」


 それもわかってる。セットした次のターンからしか使えないカウンターカード、それらはどれも強力な効果ばかりだからな。

 凛が使うカウンターカードはどれもスピードカウンターと呼ばれる特殊なタイミングでしか発動出来ないもの。しかし強力であるため同じスピードカウンターカードでなければ無効化出来ない。

 だがその代償にコストが重いカードが多い。さっき凛が使った『主の進言』のように、ライフをコストにするようにな。

 おそらくもう一枚のセットカードも似たようなものが伏せられているのだろう。


「俺は呪文カード『小台風』を発動! 自分の場が空の時、相手のモンスターかセットカード、どちらか一枚を選んで破壊する!」


「むむむぅ~、今度は準制限カード(※)なの……運良すぎだよ! しかも『選んで』破壊……厄介すぎるよ~!」

 ※デッキに二枚までしか入れられないカードのこと。


 凛が苦悶の表情を浮かべる。ははは、悩め悩め。

 こいつが困っているのは、俺が使った『小台風』の『選んで破壊』という部分に理由がある。

 BOMにはチェーンシステムというルールがある。カードの効果の発動に対して、他のカードを発動するとしよう。その際、効果の処理はあとから発動したカードから順に行っていく。


 今は『小台風』に対して他のカードの発動はあるか? という段階だ。

 仮にあったとして、凛が何らかのカードを発動したとしよう。そうなるとチェーンシステムで逆順処理を行い、凛のカードの効果を処理したあとに俺の『小台風』の効果処理がされる。

 そこで『選んで破壊』という効果が活きてくるのだ!


「選んで……もう、せめて対象にとる効果だったらチェーンに悩まないのに……!」


「はっはっは。悩ませるために使ったんだよ。さぁどうする? セットカードを発動するか? しないか?」


 BOMでは相手のカードを除去するカードが多数ある。その中でも相手のカードを『対象にとる』ものや『選ぶ』もの、さっきの『大台風』のように『すべてのカード』と様々な範囲に及ぶカードがある。


 対象を取るカードの場合、発動をした時点でどのカードに対して効果を適用するか宣言しなければならない。その場合、対象に取られたカードを相手が何らかの方法で場から取り除いたりすれば効果は不発になってしまう。

 もしくは『対象に取られない』という耐性を持ったモンスターの場合だと、そもそも発動自体出来なかったりする。


 だが選ぶ効果の場合はそういったリスクはない。

 たとえ相手が何らかのカードを使用して場のカードの数を減らしても、その減った場のカードの中から自由に選んで除去できるのだ!


「チェーンすればセットカードが無くなって妨害が減る。チェーンしなければモンスターかセットカード、どちらか一枚が確実に除去されちゃうよぉ……」


「俺ならチェーンするけどね。そっちのモンスターは二体とも、『相手モンスターの効果の発動を無効にする』効果を持ってるし。逆転の芽を摘むならモンスターは残しとかなきゃ駄目だろうな」


「ううぅ……確かに。じゃあ毅の『小台風』にチェーンするね! カウンターカード『主の名言』! ライフを2000点支払って呪文カードの発動を無効にして破壊するもん!」


 よしッッッッ!!!!!!!!

 使った、使ってくれた! これで凛の残りライフは3000点……俺とのライフ差も1000点しかない。

 ありがとよ凛……まんまと俺の策にハマってくれて……。

 今最高に気分がいいぜ。万全の制圧盤面を作ってドヤ顔してるやつが、逆転されそうでヒヤヒヤしてる顔を見るのはもはやオ〇ニーより気持ちいい。


 おっといかんいかん、下品な思考になるな。冷静になれ斉藤毅、デュエルは先に集中力の切れた方が負ける。あくまで平静を装うのだ……。

 駄目だ、まだ笑うな……。堪えるんだ……。逆転できそうだからって笑っちゃ駄目だ……!


「じゃあ俺は『BB-コスモス』を召喚。手札の『BB-アジサイ』を特殊召喚」


「ちょっと待った! 『アジサイ』の特殊召喚の効果発動に対して私の『ガンブレード・S・ドラゴン』で無効にするもん!」


 凛が食い気味に叫ぶ。


「凛よ、俺の幼馴染兼最大のライバルよ。『アジサイ』の特殊召喚効果はね、『発動』しないんだよ。お前のモンスターは『モンスターの効果の発動を無効にする』だよねぇ? 発動してない効果に対してどうやって無効にするのかなぁ??」


「いやおかしいよ! 効果で特殊召喚してるのになんなのそれ!」


「いや~これ召喚ルール効果だからなぁ。チェーンブロックつくらないんすわ。惜しかったねぇ、さっきの『主の名言』だったらモンスターの特殊召喚も潰せたのにねぇ~」


「毅、最初からそれが狙いだったの……! 散々モンスターを残したほうがいいって言っておいてひどい! 下劣! 悪代官! 変態スケベ陰キャオタク!」


「最後のは余計だ! いやだなぁ凛さん、俺ならそうするって言っただけじゃないですか。変な言いがかりやめてくださいよぉ」


「盤外戦術だ~! ずるいずるいず~る~い~!!」


 いやいや、こんなの盤外戦術の内に入らない。

 相手の言動、表情に惑わされて選択ミスをした。それは自分の責任以外のなんでもない。

 要はただのプレミ。もしくは運が悪かっただけ。凛もまさか俺の手札に二枚も妨害カードが揃ってるとは思いもしなかっただろう。


「さてさて、じゃあ俺は呪文カード『BB-コール』を発動するかな。デッキから『BB』モンスター一体を手札に加えるぞ。そして墓地に『BB』モンスターがいる場合、更にそいつを場に特殊召喚。手札に加えた『BB-ヒマワリ』も効果で特殊召喚っと」


「一気に四体のモンスター……。でもどいつも攻撃力が100の雑魚モンスターじゃない!」


「そういう台詞は負けフラグになるからやめたほうがいいぞ凛。俺は四体の『BB』モンスターを重ねてX進化。進化デッキ(※)から『BB-フラワー・ジャンヌ・ダルク』を特殊召喚」

(※)進化デッキ:通常のモンスターとは別に特殊な方法でしか出せないモンスターが入っている場所。


「四体も重ねて進化するなんて……。でもその子も攻撃力0じゃない! 私の場にはモンスター効果を無効にする攻撃力4050の『ガンブレード・S・ドラゴン』と『神の召使いオリオン』が……!」


「だからぁ……」


 俺は進化したモンスターに手を置き、バトルフェイズに入る準備をする。


「そういうのは負けるやつの言う台詞なんだよなぁ! バトルフェイズ! 『ジャンヌ』で攻撃!」


「正気!? 攻撃力0のモンスターで!?」


 凛は頭にはてなマークを浮かべたような顔をする。こいつは幼稚園の頃から予想外の事態に出くわすとすぐこういう顔をするんだよな。

 そこが小動物っぽくて少しかわいいなんて思ったりするけど、本人には言わないでおこう。


 まぁ凛が驚くのも当然だろう、こちらの残りライフは2000。攻撃力0のモンスターで攻撃してしまったらこちらの負けになる。だがもちろん、そんな心配は無用だ。


「ジャンヌは進化素材の数×200ポイント攻撃力がアップする! もちろんこれも『発動』する効果じゃない! 永続効果だ!」


「それでも攻撃力800、毅のライフが0になっちゃうよ?」


「『ジャンヌ』の効果その2! こいつは相手の場にモンスターがいてもプレイヤーに直接攻撃ができる! もちろんこれも発動しない効果だ!」


 凛のライフ:3000→2200


「うっ、けどこれくらいのダメージ……!」


「さらにもう一度、『ジャンヌ』で直接攻撃!」


「何でっ!?」


「ジャンヌの効果その3! 進化素材の数だけ攻撃ができる! つまり四回攻撃ってことだなぁ!」


「……攻撃力800で、四回攻撃……!」


 凛もようやく状況を理解したらしい。

 そう、俺が『ジャンヌ』の召喚に成功した時点で凛の敗北は決定していたのだ!


 カウンターカードのコストによる大幅なライフロス。一万点もあったライフが3000点に減ったことで、一気に俺のキルライン圏内に入っていたのだ。


「さぁトドメだ! ジャンヌで攻撃!」


「私の……負けか~」


 凛のライフ:0


 悔しそうに笑いながら凛は手札を机の上に投げ捨てた。

 こら、そういうのは行儀が悪いからやめなさいって。花も恥じらう15歳の乙女のやることか。

 まぁ普通の15歳の女子は男子に混じってカードゲームなんかやらないだろうが……。こいつ、昔から俺の好きなゲームや漫画とかを追っかけてハマるんだよなぁ。

 もしかしたら凛の感性は少年ハートなのかもしれない。見た目はかわいいのにそこは勿体ないところだ。……いや、オタク男子からすればむしろ共通の趣味がある方がいいのか?

 ひょっとしたら凛のやつ、オタサーの姫になる素質があるかもしれない。そんな無法地帯に突入しようとすれば俺が絶対死守するが。


「はぁ~。今回は毅に勝てると思ったのに~。またやろうね、毅!」


「ああ、結構いい線いってたぜ凛。次の休み時間は先行と後攻入れ替えてやるか」


「うん!」



 こうして俺たちの休み時間の決闘は決着がついたのだった。

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