第15話 モノローグ

 私が私でいられるのは残り半年程度。

 既に体に異変を感じる。何も無い所でつまずく事が増えた。

 私は最後の高校生活を送る為に、親戚の沙織が通っている高校に転校する事になった。

 大好きな親戚の沙織。

 長く生きられない私の代わりに、沙織には幸せになって欲しかった。

 去年の夏休みに会った時に見せて貰った一枚の写真。

 沙織と一緒に写る二人の男子。大事な人の写真だと言っていた。

 茶髪の方はチャラそうだから、沙織が好きなのは黒髪の方ーー斉藤博樹だと思った。

 転校して早速失敗した。

 体の自由が利かなくなって、沙織が大事にしている斉藤博樹に転んで激突してしまった。

 病気の事は言えないし、恥ずかしいから素直に謝れず誤魔化した。

 嫌われたかも知れないけど、何とか4人で一緒に過ごせる事になった。

 斉藤博樹……ヒロは口は悪いが、いい奴だった。

 クラスの皆は沙織とチャバネ男がお似合いって思っているけど、私はヒロの方が良いと思った。

 だから、なんとか沙織とヒロを付き合わせようとした。

 だけど沙織は喜んでくれなかった。


がよい』


 それは沙織の思いではなかったから。

 それが自分の気持ちだって気づかされた……駅で出会ったタマさんに。

 私と違うタイプの大人の女性。直ぐに好きになった。

 私だけでなくヒロも懐いていた。

 ある日の帰り、タマさんに病気の事を気づかれてしまった。

 まさかタマさんが医者で脳外科を専門としていたなんて。

 有名な医者だったみたいだけど、それでも私の病気は直せないらしい。

 そんなタマさんが私の病気を知ってるのにヒロと付き合わせようとした。

 当然だけど私は反発した。

 半年以内で確実に植物状態になる私が付き合っても迷惑でしょ?

 でも、タマさんの後悔を聞いて渋々受け入れた。

 タマさんのサポートのお陰で、ヒロが私を受け入れてくれた。

 でも、私は何も知らないヒロを騙しているような気分を引きずっていた。

 だから病気の事を知られたくなかった。

 そして初詣で願った……これ以上私たちの人生を邪魔しないで欲しい……不治の病なんて運命に邪魔されたくない。

 だけど続かなかった……続けられなかった。

 沙織のバレンタインチョコを踏んづける大失敗をしてしまった。

 そんな私をヒロは慰めてくれた。

 わざとじゃない、って。

 なんだ……私の病気を知った上で付き合ってくれていたんだ。

 悲しみが抑えられなかった。

 もう会えない……これ以上迷惑をかけれない……これ以上私を押しつけられない!

 そう思った……だから別れを言わずヒロの前から去る事にした。

 だから後はタマさんにお任せします。

 ヒロと一緒に生きられない私の代わりに、タマさんにヒロの隣にいて欲しい。

 ヒロが私より素敵な人を見つけられるまで、どうか側で見守っていて下さい。

 私はタマさんがヒロの隣で生きる事を願って……17年の短い人生を終える事を決断したーー


 *


 私は子供の頃から負けず嫌いだった。

 クラスの男子は私にとって敵だった。

 勉強では負けないけどスポーツでは敵わない。

 だから常にライバル意識を燃やしていた。

 男子に勝つために偏差値が高い医学部を受験して医者になった。

 私は誰にも負けなかった。

 気がついたら脳外科の世界的権威だって呼ばれていた。

 大人になって初めたモータースポーツで、スポーツ分野でも男に勝った。

 実に痛快な人生だったよ。

 そんな人生があっさり終わる時が来るとは思っていなかった。

 70才を迎えて引退させられたのだ。

 お疲れさまでした? 今までありがとう?

 なんだそれは!

 皆が私を気遣ってくれていたのは分かる。

 だけどな、今更何をして生きればよいのか?

 引退して1年過ごしたが、生きる意味は見つからなかった。

 最後に綺麗な風景を見て死のうと思った。

 昔みたドラマの舞台の駅……そこでヒロ達と出会った。

 自分と違う未来がある高校生。

 嫉妬でからかってやろうと思った。

 だけど思いのほか楽しかった。

 勝手に男子相手に敵意を持って接していたけど、普通に交流したら楽しいものなのだな。

 もう一度話したと思ったから、引っ越してきたと嘘をついてしまった。

 もう一度、もう一度……そう思って何度も駅に通った。

 ヒロと珠美と仲良くなった……二人が好きになった。

 今まで人生に後悔を感じる事はなかった……だけど二人と出会って少しだけ後悔した。

 肩肘張らずに、恋人とか友達がいる人生を送っても良かったのではないかと……

 そんなある日、珠美の病気に気づいた。

 私の専門の脳の病。

 だが、直す事は出来なかった。

 私の71年の努力は何の為にあったのだと憤慨した。

 だけど、珠美を救う手段が全くない訳ではない。

 直ぐに弟子の田崎の説得に取りかかった。


使珠美を救え』


 田崎にとっては残酷な事かも知れない。

 だけど、私の終わった命で救えるなら……ヒロを救えるなら……

 私が生き残っても、ヒロと同じ時間は過ごせない。

 だから後は珠美に任せる。

 ヒロと一緒に生きられない私の代わりに、珠美にヒロの隣にいて欲しい。

 ヒロが幸せに生きられるように、どうか側で支えて下さい。

 私は珠美がヒロの隣で生きる事を願って……71年の長き人生を終える事を決断したーー

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