第12話 俺が知ってちゃいけねぇのかよ?

 初詣から1ヶ月と2週間。

 俺の待ちに待ったイベントの日を迎えた。

 バレンタインデーだぁぁぁぁっ!

 今までのバレンタインデーと言えば、幼なじみ特典で沙織からチョコを貰うだけだった。

 だけど今年は違う。珠美から貰えるんだよ!

 だから沙織は賢治に専念するがいい。

 俺は妄想を膨らませながら珠美と一緒に登校する。

 まだチョコを手渡されないが焦りは禁物だ。

 ねだってるみたいで恥ずかしいから、自分から話題には出さない。

 まさか忘れてねぇだろうな? 少しだけ不安なまま昼休みを迎えた。


「今年はヒロにチョコあげないから。義理はいらないでしょ」


 沙織が昼食中にチョコの話題を出す。

 冷たく聞こえるけど、コレが沙織流の気の使い方だ。

 話題に挙げてくれただけでグッドでナイスだ!

 それと義理はいらないってのが何だか嬉しいな。

 本命がいるって事だろ?


「大丈夫! 問題ない」


 沙織に堂々と返事を返したが少し不安になる……本当に大丈夫なのか?

 これで珠美がチョコを持ってきてなかったら大爆死だ。


「大丈夫よ、食後に渡すから」


 珠美がカバンを指さすのを見て安心する。

 はやる気持ちを抑えながら食事を終え、いよいよお渡しの時間だ。

 俺は珠美からチョコをサクッと受け取り、沙織が賢治にチョコを渡そうとした、その時ーー

 突然よろけた珠美が沙織の手を払い、沙織のチョコが床に落ちる。


「あっ」


 チョコを受け取り損なった賢治が間抜けな声をあげた。

 珠美が焦って落ちたチョコを拾おうとして、更にふらつきチョコを踏みつけ盛大に転げる。

 床に倒れた珠美と、無惨に吹き飛んだチョコ。

 大惨事じゃねぇか!!

 珠美は出会った時からドジで、よくヨロケていたけど、流石にドジで済まねぇだろ。

 俺も一緒に沙織と賢治に謝らねぇといけないだろうな。

 でも、まずは倒れた珠美の心配をしないとな。


「珠美!」


 ほらっ、流石の沙織様も大声で叫んでらっしゃる。

 あれっ、様子がおかしい?

 沙織は無惨に吹き飛んだチョコに目もくれず珠美に駆け寄る。

 何が起きたか分からない賢治は、俺の隣で狼狽えている。


「怪我はないか?」


 俺もうずくまる珠美のそばに寄り様子を見る。

 膝周りに少しアザが出来ているが、大怪我はしていないな。

 少しだけ安心する。


「ごめんなさい……沙織のチョコが……」

「そんなのどうでもいい! 珠美の方が大事でしょ!! 保健室に行くわよ」


 消え入るようなか細い声で謝る珠美を沙織が制止し抱き起こす。

 こんなに必死な顔をしている沙織を初めてみた。

 賢治も今まで見たことがない沙織の様子に圧倒されて立ち尽くす。

 よく分からねぇが、先に珠美を落ち着かせよう。


「わざとじゃないって、みんな知ってるさ。後で一緒に弁償しようや」


 何故か珠美が何故かうつむく。何かまずい事を言ったのか?

 一緒に責任を取ろうと思っただけなのだが。


「みんな……ねぇ、ヒロもの?」


 えっ、知ってるって何を?

 やっべぇ!

 これ知らないって言ったらまずいよな。

 付き合ってるのに知らないなんて、信じられないとか言われるやつだ。

 この状況で何を知ってなきゃいけないんだ?

 今の気まずい状況で、知らないって言って機嫌を損ねられねぇよな。

 仕方がない! これは全力で誤魔化すしかないさ!


「知ってるに決まってるだろ。珠美の事で知らない事があると思ったか? 皆に知られたくねぇから……今は言えないけどな」


 よし、決まった! 全力のキメ顔も追加だぜ!

 皆に知られたくないから言えないって、我ながらセンスある言い訳だ!


「そうなんだ……ヒロはたんだ……」


 そう言って顔を上げた珠美。

 そして見てしまった。止めどなく流れ落ちる涙を……俺が泣かせたのか?!

 何でそんな悲しそうな顔をするんだよ!

 何の事か分からないけど、俺は知ってちゃいけなかったのかよ!

 俺が知ってる振りをしたのがバレたのか?

 呆然としている間に沙織が珠美に肩を貸し保健室に向かった。

 そして、二人が教室に戻る事はなかったーー


 *


 放課後に保健室に確認に行って、珠美と沙織が早退していた事を知った。

 仕方なく俺は一人で下校し、いつもの様に駅でタマさんと会う。

 俺は乱暴にベンチに座る。

 タマさんに当たる気はないけど苛立ちが押さえられねぇ。


「今日は荒れてるねぇ。珠美がいないけど喧嘩したかい? コレでも食べて落ち着きな」


 タマさんから、見るからに高級なチョコを渡される。

 流石タマさん。財力が違うな。

 俺はさっそく一口食べながら、学校での出来事をタマさんに話した。


「ばかもん! 今すぐ珠美と連絡をとれ! 私が説明する!!」

「えっ、あっ、タマさん?」


 タマさんに大声で怒鳴られて焦る。

 連絡? 説明?

 息切れして、ぜぇ、ぜぇ、してるけど大丈夫か?

 タマさんの鬼のような形相に焦り、珠美と連絡を取ろうとするが全くつながらない。

 どうしてなんだよ!

 ちょっと学校でトラブったくらいで全ブロックかよ!?


「連絡できねぇ……」


 俺は力なく呟いた。

 珠美にとって、俺は何だったんだろうな……


「心配するでない。私が何とかする」


 タマさんが何とかする?

 付き合っている俺が何も出来ないのに?

 タマさんは俺の知らない珠美の事情を知っているのか?


「何の事だか分からないけど、タマさんは知ってたのか?」

「知ってたさ……」


 やはり、タマさんは知っていたのか。

 俺は知らないのに……


「どうして! 俺は教えてもらっていない!」

「私も打ち明けてもらってはいない……自分で気づいただけさ」

「いつ気づいていた?」

「文化祭の少し前にね……」


 そんな前から知っていたのか?

 知っていながら俺には黙っていたのか。

 タマさんは悪くない……だけど疎外感を感じて底知れぬ怒りがこみ上げる。

 どうして、俺だけ知らなかったんだ!

 でも悔やんでも仕方がない、今は早く理由を知りたい。


「タマさん、教えてくれないか?」

「済まないねぇ。私の一存では言えないのさ」


 タマさんが言えないなら諦めるしかないな。

 嫌がらせする人じゃないからな。そう思って気づいた。

 俺は黙って信じられる程に、タマさんを信頼していたんだな……


「そうか……分かった」


 俺はそう言って立ち上がる。明日、沙織に聞けばいいさ。

 珠美の親戚の沙織なら全部知ってるだろうからな。


「なぁ、ヒロ。もしも、もしもだけどねぇ、私がいなくなったらどう思うかねぇ?」


 帰ろうとした俺にタマさんが声をかける。

 タマさんがいなくなったら? 引っ越しでもするのか?


「寂しくなるだろうな。珠美に避けられてるのに、タマさんまでいなくなったら……俺、独りぼっち」

「それは珠美が戻れば、私がいなくなっても大丈夫って意味かね?」

「そーんな訳ねぇだろ! タマさんは珠美とは違うんだから!」

「そうか……十分だねぇ。あと少しだから気合いで耐えなよヒロ」


 まったく、タマさんまでいじけたのかい?

 何でいきなり俺の前からいなくなろうとするんだ?

 俺、嫌われ者? まぁ、そんなのどうでもいいや!

 とっくに珠美もタマさんも俺の生活の一部なんだよ。

 今更さよならなんて言わせねぇよ!

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