第11話 珠美の願い

 クリスマスの告白以降、俺と珠美の関係は特に進展しなかった。

 だけど賢治と沙織は違ったようでね、俺たちと一緒にいる時間がかなり減った。

 俺は今まで二人に気を使わせていたから、出来るだけ二人っきりにしてやりたいと思った。

 必然的に俺と珠美とタマさんの3人だけで過ごす事が多くなった。

 俺は今まで誰かと付き合う事なんて考えてこなかったから、正直どうしたらいいか分からない。

 だから、タマさんも含めて今まで通りでよいと思っている。

 そして、何事もないまま年が明けた。

 初詣も当然の事だが、俺と珠美とタマさんの3人で行く事にした。

 目的地はタマさんオススメの神社。

 だが、問題が発生した……なんで肝心の神社が山頂にあるのだ?

 くそっ、登山は通学時だけで十分なんだよ?

 文句を言っても現実は変わらない。

 目の前にある1610段の試練……

 体力がある高校生男子なら余裕だって?

 疑問に思うなら俺の背中を見てくれや!


「ほれっ、早く登らんか!」


 背中に背負ったタマさんに急かされる。

 タマさん背負ってなきゃ、とっくに登り切ってるよ!

 疲れながらも目的の階段の先を見ると、遙か上方で小柄な影が踊る。

 太陽を背にしている為に影しか見えない。

 それでも不自然な程大げさな、見慣れた動きで理解出来てしまう。

 珠美まで急かさないでくれっ!

 おのれっ、毎日の通学で鍛えた脚力を見せてくれるわ!

 俺はタマさんを背負ったまま、何とか気合いで階段を登り切った。

 足の震えが止まらない……これが生まれたての子鹿ってやつか?!

 そんな俺に、さらなる試練が待ち受けていた。


「ほらほら、次はお辞儀の後に右周りだ」

「他の人の迷惑になるから早く、早く!」


 何で俺はふらつきながら、変な草で出来た輪っかをくぐらされているんだ?

 これで火がついてたら、サーカスの虎じゃねぇか!タマさんがの輪くぐりって言ってたけど何の意味があるの?

 説明ないから分からんが、異世界へのポータルだったりするのか?

 何の説明もなく疑問に思いながらもの輪くぐりを終えて本堂に向かう。

 やっと参拝だ……さて何を願おうか? でも特に願いはないんだよなぁ。

 あえて願うとしたら、高校卒業しても皆と一緒にいられる様にかな?

 俺は賽銭を投げ入れ、手を合わせて願った。

 隣のタマさんを見るとお辞儀したり、色々してるじゃねぇか!

 珠美はタマさんを真似ながら参拝している。

 ぬおっ、俺だけ間違ってた?

 ずるいぞ珠美! 後出しじゃんけんか?

 まぁ、ちょっと間違ったくらい大丈夫だろう?

 参拝休憩した後、山頂のベンチでタマさんと休憩する。

 珠美はスマホで花の写真を撮って回っているけど、俺は流石に疲れたよ。

 ふとベンチの近くの花壇が目に入る。


「あの花が気になるかね?」

「あぁ、こんな山頂に花壇があるのが気になって」

「アレはねぇ、恋愛長寿の花って言うのさ」


 流石タマさん! 物知りだな。恋愛長寿の花なんて初めて聞くぜ。


「恋愛長寿の花? 恋愛が長続きするのか? 花って直ぐ枯れそうなイメージだけど、枯れにくい花なのか?」

「ヒロよ、そんなに質問されても答えられんよ」

「どうしてだいタマさん?」


 俺は思わずタマさんに問いかけた。

 タマさんが教えてくれたのに、何故説明出来ないのだろう?


「嘘だからねぇ。恋愛長寿の花なんて存在しないさ!」


 タマさんが舌を出しながら、サラッと嘘をついた事を暴露する。

 元旦早々に神前で嘘をつくなぁぁぁぁっ!


「元旦早々に、しようもない嘘つかんでくれや」

「しょうもない嘘ではないさ。見てみな? あんな風に恋人同士や夫婦が毎年一緒に眺めてるんだ。今年も、来年も、更に先もね。恋愛長寿の花って言っても可笑しくはないさ。良い名前だろ?」

「良いとは思うよ。ここを勧めたって事は、タマさんは誰かと来たことあるのか?」

「来ておるではないか?」


 タマさんが何故か俺を指差す。

 からかってるのか、照れ隠しなのだろうか?


「はぁ、俺ですか……タマさん嫌いじゃないんで良いですけど」

「ばかもん! そこはハッキリ好きって言うところだろぅ?」

「へいへい、タマさんの事はエリクサーの様に大切に思っておりますよ」

「放置するな!」


 あれっバレた! ゲーム好きじゃなきゃ知らないだろ?

 エリクサーを放置してゲームクリアする病がある事を……


「二人とも楽しそうね」

「あぁ、楽しいさ」

「楽しんでおるよ」


 駆け戻ってきた珠美に、タマさんと二人で返事をした。

 珠美は写真撮影を十分に堪能してきたようだ、沢山の花の写真を眺めてニマニマしている。

 名残惜しいが、俺の体力が戻ったので下山する事にした。

 山の麓で昼食を食べる予定だしな。

 帰り始めて大事な事を忘れていた事に気付く。

 そういえば、珠美は何を願ったんだろう?

 もっと俺と一緒にいたいとか、願ってくれちゃってますかねぇ?

 先行する珠美の背中に声をかける。


「ところで珠美は何を願ったんだ?」

「一切関わらないでだよ。これ以上、干渉しないで欲しいってお願いしたけど」


 予想外の回答に一瞬思考が止まる。

 一切関わらないで? 神様も随分嫌われたもんだな。

 前にも運命って言った俺に怒っていた気がする……

 珠美さんは実力で未来を勝ち取る運命否定派ですか??

 それじゃ、何も願っていないのと同じじゃないのか?

 俺はそんな素朴な疑問を口にした。


「それじゃ何も願ってないのと同じじゃねぇのか?」

「それは違うよっ。自由を願ったんだよ!」


 軽やかに振り返り、俺に笑いかける珠美。

 その笑顔が眩しくて心奪われた俺は、珠美の願いの意味を考える事はなかったーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る