第10話 保護者同伴の告白
文化祭も終わり、今年の残りの重大イベントといえばクリスマス……そう、あの恐怖のクリスマスだ。
毎年、賢治と沙織が一緒だから、恋人がいない俺でもクリぼっちの称号は受け取らないですんでいる。
ありがたい事だが気が引けているのも事実だ。
子供の頃とは違う、本当は二人っきりにしてやりたい。
だから俺はクリスマスに賢治と沙織を二人っきりにする計画を立てた。
計画と言っても単純に途中で俺がはぐれるだけだ。
今までだったら、一人はぐれた俺に気を使って俺を探し回るだろう。
だけど今回は違う……珠美とタマさんがいるからだ。
早速、珠美とタマさんに計画を持ちかけようとしたら逆に同じ提案をされた。
なんだ、珠美とタマさんも同じ思いだったんだな。
でも不思議に思う事もある。
珠美が俺と沙織を付き合わせるのを諦めた事だ。
まぁ、別に真剣に考える事でもないんだがな。
元々、沙織は賢治が好きなんだ。
ひがみなんて全くない、むしろ嬉しいさ。
二人とも俺の大事な親友なんだから。
*
クリスマス当日、俺たちは電車で遠出した。
目的地はクリスマスイベントが開催されるお洒落な観光名所。
元々、レトロ感満載の幻想的な外観だが、今日は素敵なイルミネーションで彩られ、更に異世界の様な幻想的な雰囲気を味わえるだろう。
恋人達が過ごすには最適だな。だが、今回は俺にとって関係ない場所だ。
俺は予定通り珠美とタマさんを連れて、人混みに紛れて賢治と沙織からはぐれた。
後は賢治に俺たちを探さなくて良いって連絡するだけだったが、タマさんに止められる。
賢治と沙織の二人の邪魔になるって言ってるけど、連絡しないで本当に大丈夫なんだろううか?
俺は心配だったが、はぐれてから10分を過ぎても二人から連絡はなかった。
まぁ、二人で楽しんでるなら良いか。
賢治達から意図的にはぐれた俺達は、近場の遊園地で過ごす事にした。
人目をはばからずはしゃぐ珠美とタマさんを見て思う……遊園地の方に来て良かったなと……
一通りアトラクションを堪能した後、最後に観覧車に乗ることにした。
恋人達を祝福するかのようなイルミネーションに彩られた観覧車。
眼下には二人セットの男女が沢山見える。
別に恋人が欲しいと思ってはいなかったが、少し寂しい気分になる。
こんな恋人だらけの場所にいるからだろうな。
「すまないねぇ、一緒に乗ってるのが、こんな婆さんで」
タマさんが陽気に謝る。済まないと思ってないだろ?
しかし、タマさんに心配をかけてしまった事には違いないな。
知らない内に寂しそうな顔を見せてしまったか……
「気にする事ないよタマさん! こんな素敵な美女二人に囲まれてるのに、しけた顔してるヒロが悪い」
悔しいけど珠美の指摘は正しいな。
周りの雰囲気に飲まれて感傷的になってるのかな。本当に俺らしくない。
「すまねぇ、なんか周りの人達が羨ましくなってな」
「だったら、珠美と付き合えば良いではないか? 流石に私は選ばんだろ?」
思わず本音をこぼした俺に、タマさんが予想外の提案をした。
俺が珠美と? あり得ないだろ?
「半年だけ……半年なら大丈夫だと思うから」
どうしたんだい珠美さん?
まるで示し合わせた様にタマさんの提案に乗っかるのは何故だ?
しかも半年かよ……まぁ、来年は受験があるから大変といえば大変だけどさ。
最初から期限決めて付き合うか?
半年なら大丈夫って……まるで半年しか耐えられないって言ってるようなもんだろ?
俺、そんなに、付き合い辛いの?
「どうするのかいヒロ? 返答の時間はあまりないよ」
何故か当事者じゃないタマさんにせかされる。
時間がない事くらい分かっているさ。
観覧車が1周するのに15分だから、残りは大体7分くらい。
刻々と時間は過ぎていく。6分、5分、4分……
タイムセールスみたいなプレッシャーを俺にかけるなよ!
いきなり言われて戸惑ったが、半年の付き合いと思えば気は楽だ。
どうせ学校でも夫婦扱いされてんだ。
「あまりカッコイイ事は言えないないけど……よろしくな珠美」
「うん……」
「ロマンティックな事を言えないのは残念だけどねぇ。まぁ合格にしといたるよ」
残念なのはタマさんの目の前で告白させられてる事だろうがぁぁぁぁっ!
保護者同伴で交際決定? 黒歴史更新したじゃねぇか!
声には出せないが心の中で叫んだ。
それでも俺は苛立ちを表に出す事はない。
返事をした珠美がとても儚く、可愛らしく見えたからだった……
そろそろ帰りの時間だ。俺たちは観覧車を降りて、賢治達と合流する事になった。
合流した賢治は沙織とデートに夢中ではぐれたのに気づかなかったなんて、わざとらしい言い訳を始めた。
胡散臭せぇな。賢治は普段デートで夢中なんて言うキャラじゃねぇだろ?
なんだか俺と珠美を付き合わせる為に、わざとはぐれた見たいじゃねぇか?
はめられたのは俺の方だったか? まぁ、いいかな。
俺が珠美と正式に付き合えば、賢治と沙織の二人が気兼ねなくつき合えるだろう。
それだけでも意味があるってもんだ。
*
帰りの電車の中で今までの事を思い返す。
何となく流されて珠美と付き合う事になって、本当に良かったのだろうか?
お互い、他に良い相手がいるかもしれないとの思いが無い訳ではないからだ。
だが、俺だって現実って奴を理解している。
世界の何処かに俺の事を好きになってくれる人が他にいるのかも知れない。
それでも、学校と自宅の間が俺の世界の全てだ。
俺の生きている
賢治と沙織を除けば、俺の側には珠美しかいなかった。
最初は不愉快でしかたなかった……ハッキリ言えば嫌いだったさ。
それでも学校って狭い世界では、毎日顔を合わせるしかなかった。
だから否応なく、半ば強制的に珠美を理解する事になった。
何事にも一生懸命だけど、いつも感覚がズレてるから失敗続きの珠美。
気がついたら巻き込まれて一緒に笑っていた。
いつも珠美の隣で……
「これも運命ってやつなのかな……」
思わずつぶやいた俺に向かって珠美が大声で叫んだ。
「運命なんてないよ!!」
俺、何かやっちゃった?
周囲の冷たい視線に晒されて気まずい思いをする。
俺には珠美が何故怒り出したのか分からない。
これから先が思いやられるな……
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