第9話 文化祭……それは黒歴史の祭典!
文化祭当日になって、俺はクラスメイト達の陰謀に気づいてしまった。
今更遅いか……それでも無抵抗でやられるのはプライドが許さない。
「何で俺の相手が珠美なんだよ!」
「ヒロの身長なら沙織の方が丁度良いでしょ!」
俺と珠美は教壇に立ちクラスメイトを非難する。
文化祭の出し物で女装・男装カフェをやる以上、制服を交換すること自体は仕方がない。
だが何故交換する相手が珠美なのだ! 身長差考えたのか?
俺が珠美の制服着た姿を想像してみろよ!
「ほらっ、珠美も斉藤以外の男に制服着られたくないだろ?」
「そっ、それは……でも沙織は交換してないよね?」
珠美の話を聞いてて気づく。確かに沙織は余っているよな。
賢治は伊藤が持ってきたアサガオの柄の浴衣を着ているから制服を交換する必要がない。
「別に男装が嫌だから参加しない訳じゃないわよ。生徒会の仕事があるから外してもらったの」
はぁ、そういう事ですか沙織様。
俺は諦めて珠美の顔をのぞき込むと、珠美も諦めたような目をしている。
あらかじめジャージに着替え、交換用に制服を脱いでいた俺と珠美は、お互いに制服を差しだし着替えに向かうのだった。
着替えが終わり鏡を見て奇妙な姿に身悶える。
俺はこんな姿をタマさんに見せるのか……ただの変態じゃないかぁぁぁぁっ!
担任の山口先生にも斉藤は似合っていないなって言われたけどさ……女装が似合ってたまるか!
でも、「頑張ってるヒロをからかわないでくださいよ」って言って俺を庇った賢治を見て、「コイツも男だった!」って言ったのは酷いぞ。
山口先生は
ちゃんと気付よ……いやっ、俺も知らなかったら気づけんな。
賢治は美人過ぎるんだよ!
あれこれ問題はあるが準備が整いカフェをオープンした。
*
周囲で笑いが起きる中、俺は無心で接客していた。
心頭滅却すれば『恥』もまた涼し。
恥ずかしさで暑くなる顔を無心で冷却する。
そして、この時が来てしまった。
田崎さんがタマさんを連れて俺たちのカフェにやってきたのだ。
「ーーヒロはアメリカンなスクールに通っておったのか?」
タマさんが悩みながら言葉を選んで声をかけてくれた。
くっそーーーーっ!
タマさんに気を使わせたじゃねぇか!
俺は帰国子女じゃねぇよ。
アメリカンなスクールなんて通った事はない!
でも、俺の今の姿はそんな風に見えるのだろうな。
珠美の丈の短いブレザーのおかげで、俺は完全にヘソ出しルックだ。
極めて短く見えるスカートが恥ずかしい。
折角来てくれたのにタマさんに返す言葉が思いつかない。
「タマさん来てくれた!」
俺の制服を着た珠美が駆け寄ってくる。
おいっ、ズボンの裾を踏むな! あっ、転けた。
珠美が俺の胸に飛び込む。
いやん、ヘソ周りは剥き出しなんだから触れないでくれよ!
「珠美はお化け役かね? よく分からないコンセプトのカフェだね?」
よく分からなくて悪かったな。
ちっこい珠美に俺の制服を着せたから、袖が余って垂れ下がっている。
妖怪袖余り誕生だな。
「注文はどうするよ?」
こうなったら普段通り接するしかない。
俺はいつも通りの気軽さで、タマさんに注文を聞く。
「礼儀がなってない店員だねぇ。メニューはなにがあるんだい?」
タマさんがメニューを出せと言うかのように手を差し出す。
「見た目がブラックなコーヒーと中身がブラックなコーヒーだ」
「中身がブラックなコーヒーを頼むよ。田崎も同じでよいな」
俺はメニュー表を出さずに、その場のノリで答えたが、タマさんは
普通は変な物が入ってると思って避けるだろ?
別にヤバイ物が入ったコーヒーじゃなくて、普通にブラックコーヒーなんだけどな。
ブラックコーヒーの中身は
俺がタマさんの注文を伝えると、賢治がブラックコーヒーを運んでくる。
「どうぞ、タマさんにはお世話になってるから無料でサービスしますよ」
「私に男っぽい声の美女の知り合いはいないけどねぇ。アンタ誰かね?」
「け、賢治ですよ。タマさん!」
「はて? 記憶にないのぉ」
賢治がタマさんにからかわれている。
賢治が必死なのが面白くて、俺と珠美も話に加わる。
クラスメイトが気を使ってくれたお陰で、暫く俺と珠美と賢治の3人でタマさんと談笑する事が出来た。
大したおもてなしは出来なかったが、タマさんの表情を見れば満足してもらえた事が分かる。
30分程談笑した後、珠美がタマさんを連れて文化祭巡りをする事になった。
俺も逃……行きたかったけど、
*
文化祭が終わり後かたづけを始めた。
制服は直ぐに着替えたさ……いつまでも珠美の制服なんて着てられねぇ。
賢治は解放してもらえてないみたいだがな。
俺は生徒会の仕事がある沙織と、部活の仲間と打ち上げがある賢治を置いて、珠美と一緒に下校した。
流石に今日はタマさんは駅にいない。
いつものベンチを通り過ぎようとするが、珠美が突然ベンチに座る。
話したい事があるってか? 俺もいつもの座席に座った。
「ごめんね……私と一緒で……沙織の方が良いのに……」
珠美はいつもの元気がない。初めて聞く歯切れの悪い話し方に驚く。
この際だから聞いておこう、何で俺と沙織を付き合わせる事に拘るのか?
「どうして沙織にこだわるんだ? もう分かっているだろ? 沙織は賢治が好きなんだ」
「分かっている……だけど、賢治よりヒロの方が絶対に良いよ……」
「賢治は良い奴だよ。あれだけモテる男だけど、沙織一筋の真っ直ぐな男だ。俺の自慢の親友なんだぜ」
「知ってる……でも、私はヒロの方が……ヒロが良いから」
何だよ、それは?
まるで俺の方が賢治より良い男だって言ってるみたいじゃないか?
全く……今度は何を企んでいるんだ珠美さんや!
「そんな風に言われたら口説かれてるみたいじゃないか。どうしたんだい珠美さぁぁぁぁん?」
だが、俺の質問に珠美が答える事は無かった。
横に座る珠美の横顔を見ると、寂しそうな表情で海を眺めている。
今までにない状況に気まずさを感じる。
珠美は一体どうしたんだ?
静かに珠美の横顔を眺めていると、珠美が急に急に口を開く。
「ねぇ、ヒロはいなくなるかもしれない相手に好かれるの……どう思う?」
「あぁ、よくある質問ね。いなくなるまで好きでいてくれるなら良いに決まってるだろ? そんな質問で迷う事はないね」
「本当に? ヒロは絶対後悔しない?」
何を言ってるんだ? 彼女いない歴=年齢の俺だぜ?
一時でも付き合ってくれるなら大歓迎だ!
大学に進学して別れる事になっても、高校生活を一緒に過ごせるなら後悔はない。
男子高校生なら普通に考える事だろ?
いちいち念を押される意味が分からん。
「しない、しない。俺は自分の選択に後悔した事は一切ないんでね」
「分かった……ありがとうヒロ」
「お、おうっ」
よく分からねぇが珠美は俺の返事に満足したようだ。
結局、何で俺と沙織を付き合わせる事にこだわっていたのか分からなかった。
それでも、隣で嬉しそうに微笑む珠美を見ていたら、どうでも良くなったのだったーー
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