第8話 文化祭に誘ってやるぜ
10月の終わり、タマさんと出会って大体1ヶ月くらいになるか。
俺と珠美は休日以外の毎日、帰りにタマさんと話すのが日課となっていた。
沙織と賢治は生徒会の仕事と部活で帰りが遅くなるから毎回一緒ではない。
だから、いつも3人セット。
駅のベンチに珠美、俺、タマさんの順番で座っているのが新しい観光名所と言えるだろう……住民以外こない無人駅だがな。
そんな仲良しのタマさんに恩返ししたいと思っている。
色々遊びに連れていってもらったからな。
だから、11月に開催する文化祭に誘う事にした。
後は、クラスの出し物で何をするかだな。
個人的には焼きそばパンが良いが、食べて終わりではタマさんに文化祭を満喫してもらえない。
だから文化祭での出し物を決める話し合いは俺の戦場となった。
もちろん、珠美、賢治、沙織の3人にも事前に協力を依頼している。
俺たちが狙っている出し物はカフェだ!
タマさんに他のクラスの出し物を楽しんでもらった後に、俺たちのカフェでゆったりくつろいでもらう計画だ。
厳しい戦いだが、我々の勝利はほぼ確定している。
委員長の沙織が味方だからだ!
早速アイデアを出し合う。
・定番の焼きそばとカレーの『食べ物系』
・脱出ゲーム、お化け屋敷かの『アトラクション系』
・ダンス、演劇の『パフォーマンス系』
こいつら3体が俺達の敵となる。
まずは賢治のターン!
「『食べ物系』は校門付近の野外でテント設営が必要になって体力がいるね。衛生管理も難しい。僕は文化の名に相応しいお洒落な感じにしたいね」
賢治の発言は、『食べ物系出し物』に70%のダメージを与えた!
ナイス、イケメン王子。
制服以外のお洒落な姿の賢治を見たい女子生徒全員と、テント設営を面倒と思う体力のない男子の反対で『食べ物系出し物』は却下された。
次は沙織の口撃だ!
「脱出ゲームとかアトラクション系は大がかりになるから、毎日帰りが遅くなるわね。部活出れなくなる問題があるわ。来年受験をひかえているから私はイヤね。安全管理も問題になるし」
沙織の口撃が『アトラクション系出し物』に100%のダメージを与える。
沙織は普段説教臭いが、周囲の心情には配慮している。
そんな沙織様にハッキリとイヤと言われると本気度が強く、恐怖を感じるのだろう。
しかも、成績優秀な沙織に安全管理が難しいと言われれば、勉強が苦手な俺みたいな人種には大丈夫とは言い返せない。
当然のように『アトラクション系の出し物』は却下された。
ナイスだ沙織!
最後は珠美の出番だ!
珠美が意見を言おうと立ち上がって机に引っかかる。
ガタン。
机がズレて、イスが倒れる。
「あっ、ちょーー」
仕方ねぇな。
立ち上がり倒れたイスを戻そうとしたところーー
「ぐへぇっ!」
珠美がつまずき俺の鳩尾に珠美のつむじが刺さる。
おいっ、珠美のつむじは俺の命を奪う気か?
流石にドジすぎるだろう?
初対面の時もで転けてたし、カートでいきなりコースアウトするし、いつもドジ過ぎて危ないんだよ。
「わっ、私とダンスしたい人いるかな?」
珠美の自虐攻撃にクラスが静まる。
珠美と一緒にダンスや演劇をすればぶっ壊れるのは明白だ!
皆、『パフォーマンス系の出し物』は忘れる事にした。
結果オーライ! 勝負に勝てばいのだ!
これでクラスで出されたアイデアの全てを殲滅した。
後は俺が仕上げる番だ!
「カフェはどうかな? 食べ物を出さなければ衛生管理は簡単だ。落ち着いた雰囲気で過ごせるようにしたいんだ」
これでよし。全ての選択肢を奪われた皆は俺の意見に従うだろう。
フハハハハッ!
クラス全員が俺の意見に同意しようとした最中ーー
「普通にやったらつまらんから、女装・男装カフェにしよ」
伊藤ーーーー!? 何を言ってるんだ?
確かに定番だよ。クラスでやるだけなら別に構わんさ。
だけど、タマさんを誘うんだよ!
俺の女装姿を見せるなんて出来るか!
「待て、伊藤。普通にやろう。風紀が乱れる。教育上よくないぞ」
何を言っているのだ俺は!?
それでも阻止しなければならない。
「えぇっ、みんな赤羽君の女装姿見たいよね?」
まさか賢治を利用されるとは。
クラス中が賢治の女装で盛り上がる。
頼りの沙織に視線を向けるが、黙って首を振っている。
くっ、沙織でも無理なのか……もはや誰にも止められない。
俺たちのクラスの出し物は女装・男装カフェに決定してしまったーー
*
沙織は生徒会、賢治は部活があるから、今日も俺は珠美と二人で下校した。
そして、いつも通り帰りの駅でタマさんと出会う。
早速、俺と珠美は文化祭へ誘った。
流石に内容までは説明出来なかったさ……
「この年齢でデートに誘われるとはねぇ」
なに困った顔してんだよタマさん!
デートじゃねぇし、健全な文化祭だ文化祭!
「この前のお礼だよ。やられっぱなしじゃ悔しいしな」
「今度は何で勝負するのかねぇ? 輪投げとか言わないよねぇ?」
くっ、輪投げどころか女装・男装カフェだよ!
「当日まで言えないな……ほらっ、事前に知ってたら楽しみが減るだろ?」
「タマさん絶対……喜んでくれる……と思うわよ」
俺と珠美は問題を先送りにした。
そして、いつも通り1時間程度雑談した後に帰宅する事にした。
俺がベンチから立ち上がると、同時に立ち上がった珠美がつまずく。
俺は倒れそうになった珠美を支えた。
ふっ、何度も失敗するかよ! 俺だって成長するのだ。
珠美が倒れそうなタイミングくらい予測出来るさ。
「ちょっと待ちな。珠美は残りなさい」
どうしたんだ? タマさんの真剣な表情に驚きが隠せない。
俺は何か気に触れる事をやらかしたか?
「女同士の話がしたくなっただけさ。ほらっ、男子は帰りな」
タマさんが戸惑う俺に、珠美を引き留めた理由を言う。
なんだよ、意味が分からねぇな。
まぁ、タマさんの表情が戻っているって事は、怒らせた訳ではないようだな。
考えたって女子の気持ちなんて分からないんだから、気にしてもしかたがねぇ。
俺は一人で改札に向かい、帰宅したのであったーー
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