そう、ぼくは恋のキューピット

「なんてことしてくれたんだきみは!」


 休憩時間が始まるやいなや、大助はすぐさまぼくのところまで駆けてきて、有無も言わせずにまた化学室前のトイレへと引っ張っていった。


「まるで同じ舞台に上がれたらワンチャンあるみたいな言い方してたから、同じ舞台にあげてやったんだぞ」


 感謝をされるならまだしも、怒るとは何事か。


「そんなこと頼んでないよ!」

「じゃあ、断ればよかっただろ」

「それは……断れる雰囲気じゃ……」

「断ればそのまま適当にやりやすそうな童話を選ぶことになっただけだよ。なんなら、今からでもやっぱりムリですって言えばいい」

「それは……そう、だよね」


 さっきまで怒っていたのに、途端に大助はしゅんと肩を下げた。


 取り消してもらいに行く気はないようだった。


「あのさ、聞いてほしいことがある」


 その代わり、深呼吸をした大助はキッと目に力を込めてぼくを見た。


「ぼく、春風さんのことが好きなんだ」


 いや知ってるし……。身構えていたのに、ぼくの全身からふにゃふにゃと力が抜けていく。


「真剣な顔でなにを言い出すかと思ったら、そんな今更わかりきったことを……」


「え!?なんでぼくため息つかれてるの!?」


 そりゃあため息をつきたくもなるだろう。


「と、とにかくだね!ぼくはさっき、絶対に関わることなんてないと思ってた春風さんに近づくチャンスだと思って、断れたのに、断らなかったんだ。なのに承諾したあとで急に怖くなって……全部きみのせいにしようとしたんだ。……ごめん」


 そう言って頭を下げた。ぼくはそんな大助の肩をポンと叩く。


「謝るな。最初からずっと言ってるじゃないか。ぼくはおまえらの恋のキューピットだって」

「ううん。その表現だけは変えない?確実に君に合ってないよそれ……」


 相変わらずひどいことを言うやつだ。


「あとさ、ぼくが断らなかった理由はそれだけじゃないんだ。ぼく、自分の書いた小説は一生誰にも見せることはないし、それでいいと思ってた」


 そうだ。こいつは酔っ払ってぶちまけるまで、親友であるぼくにすらずっと小説家の夢を内緒にしてきたのだった。思い返すと腹が立ってきた。


「でもさ、この間きみに読んでもらった時、すごく不安だったけど、それと同じくらいワクワクもしたんだ。それで、面白かったって言ってもらった時、今までで一番うれしかった。だから、挑戦していみたいって思ったんだ。今にして思えば、めちゃくちゃに後悔してるし、一時の気の迷いだったんだけどさ。でも、やれるだけやってみようかなって」


 大助が照れくさそうに頬をぽりぽりと人差し指で掻いた。


「そっか。ま、紹介したぼくのためにも頑張って良い台本を書いてくれよ。」

「努力はするよ」


 大助は「ははは」と自信なさげに笑った。


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