このクラスの担任は学級活動を休憩時間だと勘違いしている

「演劇はいいけどさー、なにやんの」

「普通に童話とかでいいんじゃない?」

「でもそれだとありきたりでつまんなくね?」


 会話の流れに、ぼくは計画通りと言わんばかりにニヤリと笑った。


「ぼくは言った。このクラスは演劇をするために生まれたと言っても過言じゃないと」

「まあ、普通に学力が低い奴らを集めただけだけどねー」


 この担任、ぼくの話にやじを入れないでほしい。黙ってゲームやってろゲーム。いや教師が授業中にゲームやるのもダメだけど。


「あの、神楽坂先生、そいういうを本人たちの前で言うのはどうかと思います」


 さすがに我慢の限界だったのか、文化祭実行委員の林さんが注意をしてくれた。みんなもよくぞ言ってくれたと思っただろう。しきりにうんうんと頷いていた。


「あれ、知らなかった?昔から四組は成績や素行の悪いやつらをかき集めた掃き溜めなんだよ。ちょっとはバランス取るために優秀な生徒も生贄にちらほら放り込まれてるけど。ちなみに数字が一に近づくにつれてマシになってくシステムね」


 学生時代から自分が落ちこぼれだったことを知って、少し気分が沈むと同時に納得してしまった。ぼく、帰宅部で特に忙しくもなかったのに勉強とかまるでしなくてバカだったもんな……。


 ぼくだけでなく、クラス全体の雰囲気が沈んだ。


「そんで、それに合わせて担任も私みたいな落ちこぼれ教師ってわけよ」


 先生はなぜか自信げに笑った。ぼくらは誰も笑わなかった。


「やはり人間とは罪深い生き物なのだな……」


 閻魔ちゃんが担任を見ながらつぶやく。今回ばかりはぼくもその意見に、首がちぎれるくらい縦に振りたい。


「んん、ありきたりな話はやりたくない!どうせならオリジナルなやつやって目立ちたいって思う人~!」


 暗くなった雰囲気を払拭するべく、できる限りバカっぽい、明るい声でクラスに問いかける。結構な人数が手を挙げた。


「じゃあ、自分話を作れるよーって人」


 そう促すと、途端に一人も手を挙げなくなった。先ほどまで髪をいじったり、爪の手入れをしていた女子生徒も、手を挙げた判定されない為にお行儀よく手を膝の上に置いて微動だにしなくなった。


 いや、おまえだよおまえとぼくは大助を睨む。すると奴はすっと窓の外へと視線をそらした。バカめ。逃げられるとでも思っているのか。


「そう。話が作れるやつなんてそうそういない。でもこのクラスにはなんと!お話をつくるのが大好きな、小説家の卵、西宮大助くんもいる!」



「マジ、そうなの?」「神じゃん」「俺、このクラスで演劇をやるために生まれてきたんだなって」


 最後のやつは重すぎるが、いい感じの反応になってきた。



 その一方で、大助は「え!?」と驚愕の声をあげていた。


「でもさ、それでくっそつまんない話になったらどうするの?」


 最前列の女子が冷めた声でそう言うと、クラスが一瞬で静まった。大助の話だと、彼女は読モ?かなにかで雑誌とかにも写真が載っているらしい。名前はたしか、小川雪とか言ったか。こいつもぼくの記憶に残っていた。どう残ってたかというと、「なんか怖いなぁ……っ」て記憶が残ってた。過去をやり直しているというのに、当時の記憶が大助の情報より役に立たないのはどういうことなのか。


「うーん、じゃあこうしようぜ!まだ時間には余裕あるからさ、来週の学級活動までに台本的なやつ作って来てもらって、面白いかどうか多数決取る。で、みんながその話がつまんねーってなったら、普通に童話かなんかをやることにするってのはどうよ?」


 静寂を切り裂くように、金髪イケメンがそう提案した。小川さんが「……それならいいけど」と答えるとクラスの雰囲気が一気に弛緩した。イケメンすげーなーって思っていると、イケメンがぼくに向かってウィンクした。いや厄介オタクの勘違いとかじゃなくて、マジでぼくに向けてだ。


 書いた本人がいるのにつまらないと言えるやつはそうそういない。だから金髪イケメンの提案した方法なら、大助の話が採用される可能性が高い。だから正直言ってさっきの提案が助かったのは確かだ。


 ただ、まったく接点のない(クラスメイトなのに接点がないってのもどうかと思うけど)やつが、ぼくに手を貸すような真似をしたのがどうも釈然としない。なにか企んでいるのかと頭をひねってみるも、まるで検討がつかなかった。


 イケメンはやることもイケメンっていうだけなのかもしれない。


「ってことで、大助はそれで大丈夫そう?いや、俺はどのくらい話作んのに時間かかるかとかまったくわかんねーからさ」

「えっと、その……」


 断るのは簡単だ。ぼくにはムリですといえば、そこで終わる。しかし、大助は考え込んだように目をうろうろとさまよわせた。そして、


「やり……ます!」


 すこし震えた声で、拳を握りしめてそう答えた。


「そっか、じゃあそういうことで……」


 ちょうどよく、授業終了をつげるチャイムが鳴った。


「お、俺のタイムキープ完璧か? せんせー終わりでいいですよね?」

「え?もう休憩終わっちゃった?」


「まだスタミナ消費しきれてないんだけど」と担任は額に手を当てた。


 学級活動の時間は休憩時間じゃねえよ。


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