裏切者


 夜の冷え込こみに身震いをする。

 俺はサウスランド牧場にマーキュリーとクレアを預けにきていた。


「また来たのか」

「クラッツィオ、預かってほしいのがいる」

「うちはホテルじゃないんだが」

「頼むよ」


 渋々といった感じで承諾してくれたクラッツィオ。

 俺は眠る彼女らを馬からおろして、彼の家に置いていく。


「で、いったいなんでこんなことを。こんどはどんなヤバい奴に喧嘩を売るつもりだ」

 

 クラッツィオは全部お見通しとでもいいたげだ。


「さっき俺の家に殺し屋がきた」

「人気者はつらいな」

「その殺し屋は手渡しでクレジットを受け取ってた」

「得意顧客をもってることは別にめずらしくないだろう」

「200だ」

「血まみれの通貨で、200か? それはまた大層な金額だ」


 クラッツィオは「まあ、お前の暗殺料としちゃ安すぎる気がするが」とつけ加える。

 

「それと武器だ。見たことのない武器をつかってた」


 俺は殺し屋のつかっていた金属の筒をみせる。


「こりゃ魔導銃だな」

「知ってるのか?」

「ああ。おそろしく貴重な武器だ。こいつだけで屋敷が建つ。俺も実物を見たのははじめてだ」

「俺も見たことがなかったくらいだ」

「この国じゃ特にお目に掛かれない。もっと西の魔法諸国なら遭遇率はあがると思うぜ。……で、これを使ってた殺し屋がいたわけか」


 あの殺し屋はほかとは違う。

 それだけ珍しい武器をつかっていたら、俺の耳に入ってない訳がない。

 俺が引退したあと、この2年で殺し屋になった可能性があるが、だとしたら2年目のルーキーに俺を襲わせるだろうか。


「俺の考えはこうだ。俺を殺しに来た殺し屋は、きっと”殺し屋専門の殺し屋”だ」

「アダム、それって……」

「ああ、ジェントルトンの隠し玉って言う……『火葬屋』」

「だから暗殺ギルドを使わずに取引をする。武器もジェントルトンが闇取引で入手した強力なものを使える。情報は完全に隠蔽され、殺し屋たちは、やつらに対して対抗策を建てられない」

 

 殺し屋が組織に飼われている由縁のひとつだ。

 どんなに優れた実力者でも、決して組織には敵わない。


「それに風の噂も聞いた。ジェントトンが俺を消したがってるってな」

「……アダム、もしかして、戦う気なのか?」


 沈黙をたもったまま、クラッツィオの目を見つめる。


「クラッツィオ、馬をもらっていくぞ」

「………………」


 彼は顔をふせたまま動かない。

 影の落ちた瞳がこちらへ向けられる。


「すまん、アダム」


 そう彼がつぶやいた瞬間。

 納屋の壁をつきやぶって、巨大な生物が襲い掛かってきた。

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