七人の冒険者 夜

 


 堀の外をぐるっとまわって土に魔法をかけていく。

 村人が指示通り夜間村の外へ出なければ、俺の拙い魔法でも多少は防衛に役に立つ。


 持ち場についてからしばらく経った。

 マーキュリーが遅れて持ち場へやってきた。


「なにしてた」

「言いたくないわ」

「言え。怪しいだろ」


 マーキュリーは澄ました顔で瞳をとじる。

 だんまり攻撃か。いいだろう、ここは引いてやる。

 その術は俺に有効だからな。

 

 

 ──しばらく後



 事態が起きたのは皆が寝静まったあとのことだった。

 義勇団はそれぞれの持ち場で、二人一組で見張りをしていた。

 俺の相棒はもっとも戦力が低いと思われているマーキュリーだ。


 いよいよ、夜も更けてきた頃。

 俺たちは交代で仮眠をとることにした。


「アーティくん」

「ん」

「変な気を起こさないように。私は寝ていても死ぬ気で反撃できるから」

「俺がお前の寝首を掻くと?」

「いえ……ほら、夜這い」

「するかよ」


 なんの心配してんだこいつ。


「安心しろ、その点に関して言えば、お前ほど安全なやつはいない」

「失礼なことをいってると殺すわよ」

「なにしても俺死ぬじゃん。殺し屋よりよっぽど血の気が多いな」


 毛布を抱き寄せる。

 小川のせせらぎに耳を傾けながら休むとしよう。


 ふと、変な音が聞こえた。

 視線を村のほうへむける。


「ん? あれは?」


 煙があがっていた。焼ける匂いがする。

 立ち上がると、赤々とした炎と、明かりも確認できた。

 どうやら、建物が燃えているらしかった。

 

「火事だと?」

「ここを見張っておくわ。あなたは行って」

 

 マーキュリーにうなづき、俺はすぐさま駆け出した。

 

 火元まで来ると、すでに村人が何人か集まっていた。


 皆、うろたえている。

 俺は人ごみをかき分けて杖をとりだし、水属性式魔術で小屋に放水して火の勢いを殺すことにした。


 その間に義勇団の者たちも集まってくる。


「俺さまが目を離したすきになにがあったってんだ!!?」


 巨漢ジャックが頭を抱えている。


「あんた魔法は?」

「俺さまが信じるのは筋肉のみだ!!」


 使えないということか。

 水属性は苦手なんだが……。苦手過ぎて風属性の同規模の魔力を使うより、20倍くらい魔力消費が激しい。


「僕が手伝いましょう」

 

 声が聞こえ、雨がふってくる。

 小規模だが天候操作の魔法をつかっているらしい。


 視線をむければ、青年ドリルが真剣な表情で、ステッキサイズの中杖を天へ掲げていた。


 数分で火は完全に消火された。


 やじ馬たちはホッと胸を撫でおろしている。

 

「しかし、たまらんな! 俺さまたちが野党団に備えているというのに、火事を起こすような不注意者がいるとは!」

 

 ジャックはダブルバイセップスをしながら怒りを表現する。感情表現に難がありすぎるが、あえて触れないでいくことにする。


 やじ馬のなかに村長を見つけた。


「この家の者はだれですか?」

「いえ、それが……」


 どうにも歯切れが悪い。

 

「だれですか?」

「……その水車小屋は、スクルージ様にお貸しした小屋でして」


 ……水車小屋?


 見ればたしかに小川に水車がかけられている。


 村長の言葉を受けて、俺とドリルとジャックは顔を見合わせた。


 皆、同じことを思っている。


「俺がさきに行く」


 先陣をきって、黒焦げになった扉を押し開き、煙くすぶる小屋のなかへ足を踏み入れた。


「う、うわ、ああああああ!」


 叫んだのはドリルだった。

 彼は腰をぬかしていた。


 俺たちが見つけたのは死体だった。

 黒焦げになった焼死体だ。


「まさか、それは……」


 ジャックが言葉を詰まらせる。

 焼死体が身に着けている胸あてと腰の剣──。


「スクルージと考えるべきだろう」

 

 俺は客観的な意見をのべた。


「なにがあったんですか?!」


 逡巡ののち、村人たちに中の様子を話した。

 隠せるものでもないからだ。


「祟りじゃ、祟りじゃあ……!」


 スクルージの死を知った途端、村人たちが騒がしくなりはじめた。


「ど、どうしてスクルージさんが……うっぷ、オェェエっ!」


 ドリルは焼けた死体の匂いにえづいている。


「ありえん、俺さまの筋量がありながら……まさか、野盗団の仕業なのか……?!」

「とにかく緊急事態だ。義勇団をあつめたほうがいい」


 もし野盗団の仕業なら、やつらは相当な手練れだ。

 誰にも気がつかれず、帝国騎士を殺しているのだから。

 暗殺能力に長けた殺し屋が金で雇われている可能性もある。

 

「孤立してたら危険だ。さっさと皆を呼べ。はやく」


 俺はジャックに言う。


「そ、そうだな! 俺さまはデュークを連れてくる!」

「シェフも頼む。やつはひとりだ」


 まあ大丈夫だと思うが。


 ジャックが小麦畑のほうへ向かうのを見送った。

 すぐのち、俺は村長にすべての村人をここへ呼ぶように指示をだし、マーキュリーを呼びにいくことにした。


 死体を発見してから、嫌な胸騒ぎがやまなかった。

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