第16話 雷神の力


 さすがは雷神だ。周辺の地面が焦げて行く。マラーレーイも地面に叩きつけられたせいか動けなさそうだ。ここはこうだ!

 地面が盛り上がり、巨大な手首から手が出来上がる。握りこまれた拳がラーケージを襲う。けれどラーケージはその場から一歩も動かない。


「……神の血は流れているのか。人間でも神でも無い紛い物か」


 瞬間、土の拳は砕けた。落ちる粉塵や土クズでさえ彼女に当たらず消滅していく。半分神の力じゃ無理って事か……。


「待ってくれ。ラーケージ。俺が悪かった。そこの男は関係ない」

「マラーレーイ! 無事なのか!?」

「ああ。雷が身体に纏わりついて動けんがな」

「そうだ。元はと言えば貴様が奴隷の神の捧げものを隠していたのが悪い」

「はっ! お前、奴隷の神と仲が良かったか? あいつはてめえみたいな無情な奴とは絡まないと思ったがな!」


 奴隷の神、俺の知っている奴隷の神は自由奔放、天上に居た頃も天使にもなれない魂を奴隷にして家族同様に接していた男だ。


「奴を知っているのか。だが、貴様には関係ない事だ」

「そうかよ」

「ただ言える事は我が主神が望むことの一端を背負わせてやっているのだから感謝してほしいくらいだ」


 神に奴隷を集めさせて献上させている? それを主神が望む? こいつが言っている主神はロムルジルだろう。そんなのを潔癖な奴が望むとは到底思えない。


「ロムルジルがそんなの望むわけがないだろうが!」

「堕落した神如きがロムルジル様の名を簡単に語るな」


 そう言い捨てたラーケージはもう話は終わりだと言わんばかりに体全体から帯電を始める。一撃でこの沼地を焦土と化す気か。


「太古では癒しの湖と呼ばれ、美の女神でさえ入りに来ていた場所だが……すでに腐った場所だ。構わんだろう」

「や、やめろおおおおおおお!」


 這いつくばっていたはずのマラーレーイが動き出す。沼地を壊されるわけにはいかない。意地が死にかけの神をも突き動かした。


「邪魔だ! 死にぞこない!」

「ぐうううううぁああああああああああ!?」

「マラーレーイ!」


 最後の力を振り絞ったのか、大きな蜘蛛の身体でラーケージに体当たりしようとしたがラーケージは両腕で帯電した雷をマラーレーイに放出し、蜘蛛の身体を貫いた。蜘蛛の巨体は落下し、沼地に沈んでいってしまった。これ以上攻撃を受ければマラーレーイは持たないだろう。


「ふんっ。この穢れた場所と共に消えるが良い!」

「やばい……逃げないと……」


 幸いにも身体が動くようになってきた。後はマラーレーイを助けなければ。だが、マラーレーイの巨体をどう動かす。老人の姿に変えさせても今度は神格が弱まり、雷一撃で死んでしまうだろう。


「化け物め!」


 そこへ誰かの威勢のいい声と共に放たれたのは矢だった。鋼鉄の矢がラーケージに突き刺さろうとした。瞬間、灰になる。


「不敬な。名を名乗れ。人間」

「我が名はアンハイ! この湖を守護する家の従者だ!」


 弓を持ち矢を携えたアンハイが大きな声で怒鳴りつけている。まさか戻ってくるとは。


「なんで戻って来た!?」


 かっこよく名乗りを上げるのは良いが、人間がこいつに勝てるはずがない。止めさせなけば。


「貴様の名が刻まれた魂は永遠に常闇を彷徨うだろう……消えろ」

「くっ! はぁ! はぁ!」


 矢を何度も放つがラーケージに届かず、代わりのようにラーケージが雷を放つ。あんなのを食らえばアンハイは跡形も無くなってしまう。 

 

「クソッ! 間に合え!」

「ちっ! 邪魔をするな堕天神!」


 間一髪、神血を注いだ土のドームで彼女を覆う。ドーム外の地面や木々は破壊され粉微塵になってしまった。しかし、彼女は無事だ。


「おい! こ、これはなんだ!? おい!」


 アンハイが目の前に現れたドームに混乱しているが無視だ。立ち上がり、ラーケージを見る。雷を操る自分善がりな神にお仕置きしてやる。


「もういい。我慢できん。俺が相手だ。ラーケージ。無頼、無敵、無心の神の名は伊達じゃねえぞ」

「その名乗りをした馬鹿が昔居たな」

「その馬鹿を思い出せてやるってんだ!」

「消えろ」


 直線的な雷の槍。これは土の壁で防ぐ。防いだらすぐに全力疾走だ。身体が小さい分歩幅も狭いが、ちょこまかと動かれて土の壁で守られれば雷は直撃しない。


「ちょこざいな。ならば上空と真正面の両面攻撃はどうだ!」


 真上と真正面。雷がL字に挟んできやがった。だが、それさえも計算通りだ! 土は既に俺の身体の一部。地面と身体を一体化させられる!


「まるで曲芸師だな!」


 大きな轟音が響く中、俺は地面を潜り、ラーケージの真下へと移動し、土で作成した槍を真上へ放つ。

 

「そんなものが通じるか!」

「真下からでも駄目かよ!」


 ラーケージの帯電防壁は体全体に貼られており、土の槍は目前で崩れてしまう。しかもお返しと言わんばかりの雷が地面を抉り取っていく。俺が潜っている場所にまで届くとは。浮かび上がってしまった身体は空中で何も出来ない。


「さらばだ」


 もう何度も聞いた殺害メッセージ。けれどそれも時期尚早だと教えてやる。


「うおおおおおおおお!!」


 地面から有りっ丈の土を身体に纏わせる。こうなれば俺がゴーレムになるしかない! 

 土を頑丈に溶岩で固めたような強度にしていく。崩れない。壊れない。俺はゴーレムだ。

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