第13話 祭神は
マラーレーイと俺、メデス、シピャーニの四人で昼食を取り始めた。メニューはキノコと根菜のスープとハムとパンだ。あの帝国商人の息子のおかげでかなりのグレードアップだ。
「マラーレーイは普段あんな沼地で何を食っているんだ?」
「私は魚や虫を食べているよ……失敬。食事中に話す事じゃなかったな」
「聞いたのは俺だ。お前は悪くない」
「ユマロー様、流石はお寛大なお心です」
食事を作り終えたシピャーニはヴィジスの椅子に座り、メデスと横並びで食事を取っている。神との食事は失礼では無いかと言ったがマラーレーイも俺も気にせず座らせた。
「彼女は素晴らしい信徒だな」
「そちらこそ。あんな沼地になっても信仰してくれるとはな」
少し鼻が高くなる。確かにここまで敬虔な信徒を持てる神は少ない。けれどマラーレーイにも信徒は皆無だがそれを補うくらいの信徒が居る。それは羨ましいことだ。
「ふふっ。そうだな。けれど彼女には湖だと噓を吐き続けている気がしてな」
「話した事があるのか?」
「無い。私が出て行けば護衛の女性も驚き、ここを立ち去ってしまうだろう……それで良いのかもしれんが……」
「その姿で会っても信じてはもらえないだろうしな。俺のように権能を見せれば蜘蛛に戻ってしまうだろう?」
神の権能は便利だが不便だ。権能にもリソースというものがある。マラーレーイは人間に擬態するだけで精一杯だろう。
「そういえばここへは何しに? 本気で巫女の様子を聞きに来ただけか?」
「いや、祭神が誰か判明した。すでに帝国のある村で問題が起きたようだ」
「問題?」
「そこの村が災害で破壊されたようだ。災害の種類は……雷」
落雷による災害で村一つが破壊される。上位の雷神……まさか雷神ラーケージ? あんな奴が祭神だと? 冗談じゃない。あんな奴、祭は祭でも災じゃないか。
「その雷神……俺の予想ではラーケージだ。ラーケージを知っているか?」
「ああ、さすがに知っている。武神の中でも苛烈を極めた女神だろう」
「メデスも知ってる。悪い事するとおへそ取る神様」
「ふふっ。そうね。人間に罰をもたらす象徴に使われることが多いですね」
罰をもたらすのがあれでは今頃、この下界は更地だろう。そうなって居ないのは様々な神が天界下界に蔓延って利権や主張、主義を押し付けあっているおかげだ。
「確かに恐れられているな。融通は効かない。神以外を虫けらだと思ってる。さらに言えば自分より格下の神を奴隷くらいにしか思ってない冷血を絵に描いたような女神だ」
ケーラージの悪口を言おうと思えば何百、何万の言葉を用いても足りない。嫌な神だ。雷を自由自在に操る上にその雷は並大抵の神を一撃で滅ぼすことが出来る。さらに最高神ロムルジルもたまにぼやく程の頭の固さだ。こんなのが祭神に選ばれるとは。ロムルジルめ、人間を見捨てたか。
「とにかく、私では歯が立たない。ユマロー。巫女を頼んだ」
「ああ。任せておけ。ラーケージの好きにさせない」
祭神の任を帯びたラーケージが来る。天界での恨み、晴らさずにおけるか。巫女を守ったついでに奴の顔面に一撃叩きこんでやる。
「あの……ラーケージ様と言うのはどうして村を破壊したのでしょうか?」
「確かにシピャーニの疑問も最もだ。大体理由は分かるが……どうだ?」
マラーレーイはそれに応えるように大陸地図を懐から取り出した。皿などを退かし広がる大陸地図。そこにでかい赤丸が書かれた部分がある。
「この村か? 土着神が神を侮蔑したか、お供え物をケチったかだと俺は思うんだが」
「違う。この村にはある時期を境にユマロー、君のような神が逗留していたらしい」
堕天神か。あまりこの話はシピャーニたちの前ではしたくない。マラーレーイもそれを察しているのか、ぼやかした言い方をしてくれているのだろう。
「その逗留していた神を祀りだした村人の勢力が居たらしい。けれど土着神を蔑ろにしていたその神を雷神は許さなかった。土着神もその神に対しては許容していたのだが、再三の説得虚しくこの村は……」
「酷いですね……」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
「無理するな。シピャーニ。気分の良い話では無かったからな。部屋で休んで良いぞ」
「い、いえ。大丈夫です……」
明らかに顔色が悪くなったシピャーニだが、きっとこの村にも来るのを恐れているのだ。
「安心しろ。シピャーニ。俺が居る限りこの村に手出しはさせない」
「ユマロー様……頼りにしてます」
どちらが土着神を蔑ろにしているのか。正義は常に天界に有りってか? そんなの許されるのだろうか。やはりあのラーケージには苛立ちが募る。天界で俺の作成した人間を奴に殺された時からずっとだ。
「ああ。俺があの暴虐な神を止めて見せる」
その後、マラーレーイは沼地に帰った。帰り際に神界の結晶を渡された。一週間後、俺はあの女に意趣返しをしなければならない。あの人間の女の子とした約束だ。
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