第5話 村
ノックベルク家がある村は農作物や牧畜で生計を立てていた。王国と帝国の狭間で揺れ動いた村であるためか屈強な人物が多い。ただし、帝国から移住してきた者たちによる差別が行われているそうだ。
「おい。そこの王国民……いや帝国民? どっちつかずの無民族か?」
ある日、シピャーニとノックベルクの末の弟であるメイラ・ノックベルクと共に村の小麦を刈っていた時だった。
ちなみにシピャーニからは何度も手伝わないでください! 神聖なお手が! と何度も止められたがあの家でシピャーニの妹であるメデスの相手だけをしているのは地獄にある永遠の牢獄に居るような気分になるから勘弁だ。
「お前たちの働きぶりを見たいのだ」
と言い包め、ここへ来たのは良いが、結果がこれだ。こじゃれた服を着た偉そうな七三分けの子どもが畑道から俺たちを呼んでいる。
「ど、どうかされましたか?」
「ふむ。貴様、私と来い。無属民には味わえない贅沢をさせてやる」
「へ?」
シピャーニに指を差し命令する男はまるで神の如き振る舞いだ。天界でも自分より下の神格相手にこんな態度の奴が居たのを思い出す。
「こ、困る。姉さんが居ないと仕事出来ない……」
姉一人居なくなるだけで情けない声を発するメイラにも困りものだが、シピャーニをあの男に渡すのも癪だ。
「はぁ? お前らガキ二人で十分だろうがこんな作業」
「ガキ……?」
こんな自身の生き方も定まっていないようなクソガキにガキ呼ばわりされた気がした。クソガキにだ。
「ほら、そこの目つきの悪いガキ。さっさと手を動かせ」
「それは俺の事か?」
「あ、ああ」
「俺の事だな!」
少し地獄を見てもらうか。あんまり神様舐めるなよ。ガキが。右手に持っていた稲に神血を注いで鞭のようにしてボコボコにしてやる。
「何様ですか! あなたは!」
畑から奴の間合いまで段差を上がろうとした矢先、俺より先に怒っている女が居た。シピャーニだ。腰に手を当て畑道へ上がり男を睨みつける。
「貴様、私を誰だと……!」
「知りません! 逆にあの方を誰だと思ってるんですか!」
「だ、誰なんだ」
「神様です!」
「頭がおかしいのか!?」
それは同感だ。神様を、しかも特に大人数に崇められているわけでもない神を盲目的に信じている者がどれだけ居るか。ユマローは幸せ者だ。仕方ない。ここは乗っておくか。
「俺がユマローだ。さぁ、消えろ。村人」
「誰が村人だ! 私は……」
「消えないなら退場させてやるよ!」
指を鳴らし合図を送ると麦を刈り終えた地面が隆起していく。出来上がっていくのはこの前作ったヴィジスでも倒せる程度のゴーレムだ。けれどこのクソガキには効果てきめんだろう。
「う、うわああああああ!! こ、ここは悪魔の村か!」
「どうだ。文句があるならあれが相手になるぞ」
「ひ、ひぃいいいいいい!! 覚えて置けよ! 俺はァ!」
なんという捨て台詞か。言い終わってもいないじゃないか。しかしそれだけを吐いてどこかへ逃げていってしまった。
「流石の御業です! ユマロー様!」
「ああ。それであれ誰なの?」
「さぁ……」
「あ、あの人。確か帝国の商人の息子さんだよ、ね。ほ、報復とかさ、されたらどうしよう……」
商人の息子か。帝国貴族じゃないかったのは面倒が減って良いな。どうやら帝国は貴族が一番階級が高いらしいのは勉強した。
「俺が居ればどうとでもなるだろ? ほら、シピャーニ、メイラ。作業を再開しよう」
「は、はい!」
そう、吞気にしていた次の日の朝。ノックベルク家の扉が叩かれた。俺は二階に用意された個室で吞気に寝ていたのだがあるその音はとても乱暴で目覚めるには充分だった。
「きゃあっ!? な、なんですか!?」
この声はノックベルク家のマエリ・ノックベルク。この家の奥さんだ。
「お、お前ら! やめろ! 何をする!?」
今度は家長でありシピャーニたちの父親、グルト・ノックベルク。不味いな。何か起きているのか。階段を降りる。
「母から手を離せ! 悪党ども!」
「なんだ!? で、でかい……!」
階段の途中で歩を止め様子を伺う。玄関に居たのは複数の軽い武装をした兵士たちだった。百八十メートルの巨体を持つヴィジスだが所詮は農民。それに怯える程度の度胸か。
「ぐああ!?」
マエリの腕を掴んでいた兵士たちを殴り飛ばすヴィジスに兵士たちは対応できない。立ち振る舞いは烏合の衆。傭兵か私兵だろうか。国兵では無いな。
「ありがとね、ヴィジス」
「シピャーニ、母さんと父さんを」
「うん! 任せて兄さん!」
奥ではヴィジスとグルト以外が退避している。奴ら、殴られた事で少し気が立ちだしたな。そろそろ降りるか。
「おはようございます」
「ユマロー君! 来ちゃダメだ!」
挨拶を掛けるとグルトは警告してくれた。けれど引き下がるわけにはいかない。こうなった原因は一応、俺だしな。
「ユマロー様! 下がってください!」
「こちらへ!」
シピャーニやヴィジスも心配してくれているが、逆に心配なのは彼らだ。武装兵が来た場合太刀打ちできまい。
「大丈夫。俺は大丈夫だから。それよりなんの騒ぎだ?」
「で、出たな! 化け物!」
兵たちの奥から騒ぎながら出て来たのは誰よりも分厚い鎧に身を包まれた男だった。これがリーダー格だろうか。それにしても動きが鈍い。ゴーレム以下だ。
「誰が化け物だ。お前誰?」
「私を忘れたのか!?」
分厚い鎧と兜を着て面さえ見えないのに忘れたどうと言うこいつは阿呆なのだろうか。
「顔を見せろ」
「ば、馬鹿言うな! 呪う気だろ!?」
一体誰だ……。イライラしてきたぞ。
「ユ、ユマロー様。この人昨日のひ、人です……」
「ああ! クソガキか!」
「な、き、貴様ぁ!」
家の奥からこっそり教えてくれたメデスの言葉にクソガキを思い出した。
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