第15話 ゴブ先輩の人間形態
「……本当に、必要なのか? これ」
あの後崚汰はスーパーでマッチを購入していた。
ライターとかそういうのではなく、なぜかマッチだ。東京のスーパーは色々あるんだなと感じつつ、俺は一旦祖月輪探偵事務所へと戻った。
「ん? 戻って来たのか。坊主」
「は、はい。ゴブ……先輩?」
「なんで疑問形なんだよ」
鶩名さんの指定で合言葉は言わずに探偵事務所に戻ってきたが……ゴブ先輩は人間の姿になっている。
俺よりも身長高いが、三白眼と服装に関しては本来の姿と一緒だ。
緑色の肌だった肌は色白く、髪が緑色になっている。
俺が軽く眼鏡を外す。軽くなった視界で、ゴブ先輩の姿は人間のままだった。
「……本当に、今は人間なんですね」
「一般人様向けの扉の開け方したんだから当然だろ、マスターは手は抜かねーんだよ」
首の後ろに手を当てて言うゴブ先輩の言葉は納得せざるを得なかった。
扉に魔法を付与したのは鶩名さんだと知っている。彼女は神秘探偵を名乗っているが本当は魔法使いなのではないだろうか。
神秘探偵はセークレートゥムを守るための仕事だとはいえゴブ先輩を部下にして働かせている点は未だに衝撃的だし。
普通、魔法使いがゴブリンを使い魔にするイメージじゃないし。
うん。色々な漫画系で雑魚キャラ扱いだし、な……うん。
「……あ? なんだよ」
「あ、いえ、なんでもないです」
「今すげぇ失礼なこと考えてたろ」
「あはは、そんなことないですよ」
「けっ、面が良い奴はこれだから信用できねえんだよ」
……なんか、直接顔がいいって褒められるよりは、ゴブ先輩は信用できるな。
そういう自分の芯がしっかりしてそうな奴は俺としては気軽にいられる。
それよりも今、一番気になってるのはコダマたちが呼んでいた鶩名さんの名前が、ムメイではなかったのが気になる。
ゴブ先輩なら、知っているのだろうか?
「ゴブ先輩に聞きたいことがあるんですが、いいでしょうか」
「あ? なんだ? ……マスターの頼まれごとか?」
「え? あ、はい。そうですけど」
……また今度聞けばいいか。
俺はポケットからマッチの箱を取り出す。意外と小さいから、気を付けて持っていたけどどうして鶩名さんはマッチを買ってこいって言ったのか分かってない。
「……お前、本当に見えるだけなのか?」
トントン、とゴブ先輩は自分の目元を指で突く。
……そういえば、ゴブ先輩には話してなかったな。
「はい。魔法とか魔術とか、作品の中での知識程度くらいしかありません。だから、神秘探偵の存在すら知りませんでしたし」
「……まぁ、それもそうか」
ゴブ先輩は、めんどくさそうに頭に手を当てる。
「……あの、ゴブ先輩」
「それは人間の姿の時の名前じゃねえんだよアホ後輩」
「じゃあ、なんて呼べばいいでしょうか?」
「……
「がべ、まもる……ですか」
我部護……逆から読めば、ゴブ、とも呼べなくない気もする。
髪色がゴブリンっぽい緑なのと、名前の逆からの語感的に。
……鶩名さんも、違和感を与えない名前つけるな。
というか、わざとゴブリンのゴブと受け取れるような名前にするって、鶩名さん意外と意地悪か? ……あの人なら、違和感ないようにって意図の方が強い気がする。
ゴブは崚汰に向けて、鋭く睨む。
「おい、なんか不満あんのか」
「なんで身長高いんですか?」
「っせぇわ! このノンデリ後輩っ!! 俺の元の姿のこと考えてねえだろ!」
全力でゴブ先輩、いや、護先輩は俺の頭にチョップしてきた。
あ、彼にとってデリケートな話題だったか……失礼だな。
たまらず、俺は脳天を抑える。
「っ……チョップは無しでしょう?」
「人の理想を馬鹿にする奴が悪ぃだろうが」
「……すみません」
「……んで、マスターの頼みはそれだけか?」
「え? は、はい」
「……そうかよ、じゃあお前一旦帰れ」
「え!? もうですか?」
「お前学生なの忘れてるだろ、弟くんに心配かける気か」
「……そう、ですね」
ゴブ先輩の意見は最もだ。
お使いを頼むということで俺を家へ帰りやすくしてくれた、ってことなのかな。
……初めての仕事だとはいえ、俺がまだ学生なのは忘れてはいけないよな。
「じゃあ、俺は一旦帰ります」
「おー、とっとと帰れ」
「あ、あはは……はい」
鶩名さんのマッチの件は気になるが健太のためにも一度帰ることにした。
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