第10話 梓川晏奈レイプ事件 真犯人は……

 崚汰は学校について、玄関内まで来ると掲示板の当たりに人溜まりができているのが目に入る。


「……一体なんだ?」

「あ! 崚汰先輩!」

「崚汰ぁ! お前、大変だったなぁ!」


 なぜかみんなが俺の元へと集まって来た。

 なぜか俺を無視していたはずのみんなが、一斉に集まって声をかけられるなんて誰が想像できよう。


「やったなあ! 崚汰! お前はやっぱりいい奴だって信じてたぜ!」

「よかったよぉ、崚汰ママぁ!」

「……ど、どうしたんだ? みんな」


 同級生、いいや、先輩後輩関係なく、みんなが俺に賛辞を送ってくる。


「梓川強姦したの、翔兵だったんだって!」

「……え?」



 ◇ ◇ ◇



「……なんでこうなったんだ! ありえない、ありえない!!」


 一人の好青年は本来の素顔を晒し、頭を掻いている。

 計画は完璧だったはずだ。

 崚汰が梓川を襲ったかのように見せかけるために、伝手をたどって悪魔召喚して梓川を洗脳し、梓川本人を俺が犯した動画を自分で編集したのに。

 ……どうしてこうなった!?

 梓川が俺を裏切らないはずだ。写真だって、友人たちにも持たせている。

 もし崚汰の味方をすれば、一斉にSNSに崚汰が梓川を犯したとなっている映像を投稿する手はずになっているはずなのに……なんでだ!?

 なのに、どうして加工前の写真が流出して学校の掲示板に張られている!?

 

「なぜ、なぜだ? どこで計画が狂った!? 完璧な計画だったはずなんだ!!」

「……他のみんなを騙せても、僕は騙せないよ。刈草翔兵君」

「!?」


 バッと俺は、背後にいる長身の中性的な女がいた。

 優しい声色の彼女を見た瞬間、俺は急いで教室の扉を開けるために走った。


「っぐ!! 開かない!?」


 何度も扉を開けようと戸に手を触れても、まるでゲームの設定上に入れない部屋のように、何度も指に力を込めても開けられない。


「どうして逃げるのかな、僕は何も言っていないのに」

「……鍵を閉める理由も、ないはずですが?」

「なら君の罪状を、一つ一つ提示しようか。それまでその扉は開けないよ」

「な、なんで……!?」

「君に拒否権はないよ、そしてここで僕を殺すなら、君は禁忌を犯したことになる……その罪に溺れたくないのなら、僕の推理を聞くべきだ」


 ……禁忌? どういう意味だ?

 彼女の意図が深く読めないが、下手にここから出るよりは俺が死ぬという確率は下がる気がする。


「まず、君はとある悪魔の力を借りて、小鳥遊崚汰を退学まで追い込もうとしていたよね。こんな事件を起こす時点でそれは確定しているわけだけど」

「な、何を言っていらっしゃるんですか? 俺は、何も」

「そして、小鳥遊崚汰君に恋をしている女の子たちを、みんな理由付けして犯し続けてきたよね」

「お、俺は女のことは健全なお付き合いはしても、そんなことなんて一度も、」

「しらを切るんだね……愚かだよ、君は」

 

 鶩名は人差し指を立て、教団の上に座りながら少年のミスを上げていく。


「まず、梓川晏奈ちゃんに選んだのが落ち度だったね。顔がいいだけで、相手の気持ちを推し量れない君には、彼女を強姦対象に選んだのは失敗だったよ」

「お、俺はそんなことしてない!!」

「……証拠はあるよ、ね?」

「はぁーい、探偵様ぁ♡ 欲しい品はぁ……これかしらぁ」


 淫魔を彷彿とさせる女性が鶩名の横から現れる。

 高身長と同時に桃色のセミロングを揺れ、彼女はうっそりと少年へと微笑む。

 ほとんど、下着と評しても違和感のない極めて裸体にも近い肌の露出が激しい衣装は煽情的で、頬は自然と熱さを覚える。

 ……な、なんなんだ? これは、一体。

 ……美人、だな。とっても、綺麗な人だ。

 俺は頭を横に振って、理性を脳に留まらせる。


「お、俺に何をしようとしてるんだ!? まさか、サキュバス!?」

「なんのことかな、サキュバスは基本的に寝込みを襲うのがメインだろう? まさか、そんなに僕が美人だって見惚れてしまったのかな?」

「う、うるさい!!」


 悪魔らしい角と翼、尻尾も……コイツも、崚汰とつるんでいるグルなのか?

 探偵様、と呼ばれた彼女に何か小型の機械を手渡した。


「は!? そ、それなんでアンタが持って!!」

「おや、潔白であるはずの翔兵君、どうしてこれがなんなのか知っているのかな? 神秘探偵である僕らしか知らない機材なんだけど」

「し、知り合いにそれに似た機械を持った奴を知っていただけですよ、おかしい話じゃないでしょう?」

「……そうなんだ、じゃあもう少し掘り下げようか」

「んもう、貸一つよぉ? 探偵様の頼みならしかたないわねぇ」


 淫魔は俺に近づいてくる。

 甘い、香がする。

 くらって眩暈を覚える鼻腔から脳神経まで伝って来る甘い香りだ。

 気が付けば、彼女の両手が俺の頬に伸びていた。


「さぁ、坊や? 私の目を見て?」

「あ、っ……」


 まずい、これは魅了――――!!

 ……だから、なんだ?

 この人の言うことを聞かなくては、俺の好きな人、なんだから。


「さぁ、貴方がしたことを教えて?」

「俺は、梓川をレイプしました。悪魔を召喚して彼女が犯したのは、崚汰だと思い込ませて、崚汰のことを退学させようとしたんです」

「どうして、そんなことをしたの?」

「……崚汰が、俺の初恋の人を、奪ったから、気が付けばみんなアイツの方に人が集まっていくから、崚汰の転落人生を味合わせたかったんです」

「どうして崚汰君を追い詰めたかったの?」

「それ、は……みんなから、裏表なく好かれているアイツが、憎くて憎くてたまらなかったから、だから自殺をするまで追い込ませようとしたんです。なのに実際、自殺を図ったって知ったのに、今日掲示板に俺と信用している友人にしか持たせていない写真が張り巡らされていたから、わけがわからなくて、」


 最初は、小さい頃はふざけていただけだった。

 なのに、アイツが大人ぶるから。

 同じ年なのに、お高く留まっていていつも腹が立った。

 俺からすれば、上から目線で、鬱陶しくて。

 まるで、自分が苦労してるみたいな態度で。

 俺が今まで人間関係という物がどれだけ醜いか知っているのに。

 アイツばかり、アイツばかりに人が寄って来る。

 ……腹立たしいと感じるのは、当然なんだ。


「特別に、君だから教えてあげるよ。悪魔って物は位があるんだ」

「……? どういう」

「学生が召喚する悪魔の位もたかが知れてる。位が高い悪魔であればあるほど、自分の命はないと認識するべきだったね」


 パチン、と彼女は指を鳴らすと俺は意識が遠のき淫魔腕の中に倒れた。



 ◇ ◇ ◇



 僕は手に握っていた録音音声を切った。

 同時に、彼女は今回のために呼んだサキュバスに声をかける。

 

「大変だったでしょ? サキュちゃん。悪魔を犯すのは」

「えー? でも、低能だったわよぉ? 新人みたいだったわねぇ。アタシの魅了であっさりぺーらぺら喋ってくれたものぉ」

「そっか」


 僕は教壇から降りると、彼女は胸に抱いた少年の頭を優しく撫でる。


「……情報が大事な探偵って仕事は、本当に面倒ねぇ」

「それが、探偵さ。それじゃ、サキュちゃんはその子が警察に連れて行かれた後なら、何をしてもいいよ。僕は関係がない所でならだけど」

「この子が今回の生贄ってわけね? りょーかい♡ 吸い取るだけ、吸い取ってもいいのよねぇ? だってぇ、すっごく魅力的な屑だものぉ、早く食べたいわぁ」

「好きにするといいさ」


 ……彼女にとって、男であればいくらでも獲物という認識なのだろう。爛々と目を輝かせながら、彼女の胸の中に沈んでいる彼の結末はさして興味はない。

……警察の管轄外の所で精気を好きなだけ吸われても、警察の彼らには神秘側の構造システムを詳しく知らないから、悪魔召喚の代償と理屈も成り立つ。

 ……後は学校の教育者側の人間たちがどうするかは、わからないけどね。


「……さぁ、どうなるかな」


 まぁ、警察にも事情は説明する義務は僕にもあるわけだから、書類整理も大変になるだろうけど。

 ……後は、あの子がどうするか、かな。

 神秘探偵は、体を伸ばし教室から立ち去った。

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