第9話 鶩名さんが作った朝食

 目が覚めた崚汰は、周囲を確認する。


「……俺、」


 生きてる、んだな。俺。自分の掌を見て息を吐く。

 この前自殺しようとしていてそのまま死んだら健太に、もう一度会うこともなかったんだよな……自然と、目じりに涙が零れそうになる。


「……いけないな」


 手で涙を拭う。今はまだ、俺が容疑がかかっているんだ。

 だというのに、

 近くの棚に置いてあった眼鏡を手に取り着替えてから一階へと降りることにした。

 トン、トン、トン。

 包丁が食材を刻む音が台所から心地のいい音色が聞こえてくる。


「……鶩名さん?」

「ああ、起きたかい? 朝食を作ろうと思ってね」


 背中を向けながら、俺の問いに答えてくれる彼女は普段通りに振舞っているように見える。時刻はまだ5時だ……朝、早いんだな。

 もしかしたら、彼女は俺よりも早く起きたに違いない。


「何時に起きたんですか?」

「そんなことより、今日のメニューは焼き鮭とほうれんそうのお浸しに味噌汁とご飯、飲み物はお茶だよ。定番のメニューにしてみたけどどうかな」

「……あ、ありがとうございます」


 和風の朝食メニューの定番、みたいな内容に驚きを隠せない。

 恰好的に、ここまでスマートにできる人とは思っていなかった。


「意外かい?」

「い、いえ……」


 彼女は小皿で味噌汁の確認をしてから、うん、いいねと呟く。

 お玉で鍋の中を回しながら、彼女は背後にいる俺へと視線を投げる。


「小鳥ちゃん、味見してくれるかな? このくらいでいいと思うんだけど」

「あ、はい。わかりました」


 鶩名さんは新しい小皿を用意してあったようで、味噌汁を入れた小皿を俺に手渡す。くい、っと俺は小皿の味噌汁を口に含んだ。

 うん、わかめと豆腐の味噌汁だ。

 味付けもちょうどいい塩梅で、美味しい。


「どう?」

「……美味しいです」

 

 ……なんだろう、このやりとり。

 夫婦感よりも、俺自身が小姑感を覚える。

 彼女はふふっとくしゃっとした笑顔で笑った。


「なら、よかった。今日はいいことがあるかもね」

「いいこと? ですか?」


 ……みんなと作戦会議をしたばかりのはずなのに。


「ああ、楽しみにしているといいよ……もう、あの子はいないからね」

「あの子?」


 ……どういう意味だ?

 鶩名さんが愉快気に笑っている意味を、学校に来た時に気づくことになった。

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