第7話 みんなと推理

 俺は彼女の顔を見て、止まるはずの思考が回り出す。

 なぜ彼女が俺と一緒に飛び降りてる? なんでニコニコ笑ってるんだ? この状況で。このままじゃ、俺と鶩名さんの二人は頭をカチ割って地面に噴水みたいに血を撒き散らしながら死んでしまう。


「鶩名さん、なんでここに……!!」

「君が電話をくれたんだろう?」


 確かに、彼女に最後の電話をしたが……そんな、漫画のヒーローみたいな現れ方をするか、普通。

 よく見れば、彼女の背に黒い翼が映えている。

 ……彼女は、人間じゃなかったのか? それとも、そういう魔法、とか?

 いや、一番に抱くべきはじゃない。


「会いに来たのに、釣れない反応だね」

「なんで俺たち、落下してないんですか」

「秘密」

「隠そうとしないでください!」

「……そうだね、魔法と言うか権能という言い回しが正しいと思うけど、そんな感じな物かな。でも、後数分しか持たない。手短に話そう」


 からかいが含んだ彼女の笑みを無視して俺は質問した。

 ……魔法、いや権能? 俺の目の前で本当の非現実が起きている。

 時間が止まっているのは俺たちだけじゃない。教室の窓から見える生徒たちも、微動だにしていない。空の雲が風で流れて行かない。

 空に飛んでいる鳥も、静止画のように止まっている。

 草木の音も、何もかもが停止したと錯覚していると甚だしい妄想だと笑ってやりたいくらいなのに、世界の生命と言う動きが、完全に停止していることを俺は見せつけられている。


「君が望むのなら、僕は手を差し伸べられる。僕が君のその手を握ろう――――小鳥遊崚汰君、君は助かりたいかい?」

「――――――助けて、って言ったら俺のこの状況が変わるんですか」


 ぽつりと零した言葉に本音をぎゅっと詰め込む。


「心を安定化させるある希望って奴は打ち砕かれましたよ。俺の大切な家族に、嫌われたんですから」


 もう、きっと修復不可能なんだ。

 たった一人だけの家族のあの言葉をひっくり返せるようなことなんて、きっと無理なんだ。俺は、できることなんて、何もない。


「君は何もしてないんだろう? ならまだ抵抗できるはずだよ」

「不可能ですよ、もう、無理なんだ」

「じゃあもし、今回の出来事にセークレートゥムが関係してるとしたら?」

「――――――え?」


 彼女の言葉が放たれた瞬間、俺たちは落下していく。

 数分しか持たないと彼女が言った時間がやって来たのだろうか。


「ま、待ってください。鶩名さん、今のはどういう――――!!」

「落ちたくないなら、僕の仕事を手伝ってくれるかい?」

「は!?」

「嫌なら別にいいよ?」


 嫌味のない笑みが逆に厭味ったらしい。

 条件付きで手伝えとか、どんな嫌な大人だよこの人。

 いい条件だしてくれてありがとう! なんて言ってやる気にもなれなかったから俺はひねくれた返しを返す。


「…………っ、嘘ついたら、喉に裁縫道具一式詰めてやりますからね!!」

「うん、それは嫌な条件だね――――さぁ、行くよ」


 彼女は俺を抱きしめて、俺は強く目を瞑った。

 鶩名さんの翼で庇ってもらうという形で俺たちは校庭に下りた。

 スゥっと彼女の両翼は羽が散ったと思うと無くなった。

 落ちた俺たちを見ていた生徒たちの絶叫が聞こえる。

 

「……君、しばらくの間有名人になりそうだね」

「違う意味で既になってるんですが」


 鶩名さんは立ち上がると、にっこりと俺に手を差し伸べる。


「反撃開始だ、と言う奴だね。小鳥ちゃん」


 反撃ってなんですか、と言おうとすると誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。


「そこで何をしてるんだい?」

「あ……藪岡やぶおかさん」


 この学校の用務員でご高齢の清掃員でもある藪岡さんがこっちにやってきた。

 ゆっくりとトボトボとした足取りでこちらに向かってくる。


「そっちの人は知り合いかい?」

「え、っと……」


 言葉に詰まっていると鶩名さんは藪岡さんに近づいて行って名刺を渡した。


「私は祖月輪鶩名そがわむめいと申します、ミステリー研究会の外部指導員として来ました」

「ああ、そうなんですか。これはこれはご丁寧に」


 ……鶩名さん、普通に自分のこと私って使うんだな。

 いや、待て……外部指導員? ミステリー研究会の?

 そんな部なんてあったか?


「小鳥遊君は私の使用で少し付き合ってもらっていまして……すぐに授業に戻らせますので」

「そうですか、ああ、そうだ。小鳥遊くん。ちょっといいかな?」

「あ、は、はい。なんでしょう?」


 藪岡さんは俺に小さな声で耳打ちする。


「……理由は聞かないから、なるべく学校に戻った方がいい。大変だろうけど、無理はしすぎないようにね」

「え? 藪岡さんは……信じてくれるんですか?」


 ニッコリと、藪岡さんは俺に微笑むと俺から離れた。


「それじゃあ、またねぇ。小鳥遊君。祖月輪さん」

「藪岡さん――――ありがとうございます」


 俺は、絞り出した声で藪岡さんに礼を言う。

 藪岡さんは軽く頭から帽子を上げると腰に両手を組んで去っていった。


「小鳥遊君、君を信じている人はいるよ。彼のように、そして僕のようにね」


 鶩名さんは俺の肩に手を置く。

 俺は振り返らず、彼女の手の重みをしっかりと感じながら、疑念を口にする。


「……俺、本当に反撃できるんでしょうか。健太も、動画見たって言ってたし」

「実際に見たのかい?」

「……いいえ、でも健太が俺の声や外見を間違えるはずないですし」

「大丈夫、秘策はある。僕にしかない秘策がね」

「秘策……?」


 振り返ると、鶩名さんの瞳に一切の迷いのない銀が透き通って見えた。


「言っただろう? この事件には、セークレートゥムが関係している」

「……!! じゃあ、梓川をレイプしたって写真とか、動画も」

「ああ、もちろん」

「…………俺、健太に挽回できますか。俺はまだ、アイツにとって誇れる兄でいられますか」


 俺は顔を伏せ、大粒の涙が溢れてくるの感じながら、彼女に問う。


「…………俺は、健太の信頼を、取り戻せますか……っ?」

「ああ、大丈夫。大丈夫だよ。君は弟にとって誇れる兄のままだ。君が諦めない限り、そう振舞い続ける限り、君の宝物はそう答えてくれるさ」

「うぅ、………ああ、…………っ、ああああああ!!」


 俺は彼女の前で恥なんて頭にもなく、彼女の腕の中で泣いた。

 あの後、授業に戻り放課後までなんとか無事で授業を終えた。

 今日は教室の掃除当番だったので、適当に済ませて俺は鶩名さんのいるミステリー研究会という部室に向かった。


「…………本当に、ここなのか?」


 鶩名さんのメールに指示された通りの場所に来ていた。

 目の前にある場所は、どこからどう見ても図書室だ。

 ……なんだろう、入るのがものすごく怖い。

 ミステリー研究会というのがどういう部活なのかは、あまり予想ができない。

 だが、俺は今この場に踏み出さなければ何もできないままだ。

 俺は、反撃の狼煙って奴をここで上げてやるんだ。


「…………よし」


 俺は頷き、扉を開ける。


「やぁ、小鳥ちゃん」

「あ、小鳥遊君! 来てくれたんだ!」


 鶩名さんが椅子に座りながら俺に振り返ると、星宮さんはぱぁっと花が開いたように笑った…………いったい、どういうことなんだ?


「よー! 崚汰ぁ、元気だったかぁ!?」

「星宮さん、山田も……なんで」

「部活員だからに決まってんだろー? ようやく話せたぜー!」


 山田は俺の首に手を回していつもみたいに馬鹿笑いしてる。

 掲示板に写真を張り出された時、山田は気まずそうにしていたのに。

 星宮さんも俺に話しかけてくれなかったのに、どうして。


「ようやくって、どういう意味だよ」

「ん? ああ、無名さんを田中から紹介してもらってさ、崚汰を助ける方法を色々案出し合ってたら、学校に通えたら一番いいなーってことで、気が付いたらこうなってた。その間、あんまり話しかけなかったのは、本当にごめん! 崚汰が自殺図ろうとするとは思ってなくってさ」


 山田は拝むにも似た形で両手を叩いて、俺に謝罪する。

 ……じゃあ、鶩名さんが学校にいたのは偶然じゃなかった、のか。

 いや、何変な期待をしようとしてる俺。


「でも、山田は元々空手部だろ、なんでここにいるんだよ」

「んー? 辞めた!」

「は!? 何言ってるんだお前、来年のインターハイ出るって言ってただろ!」


 山田は将来、警察官になる夢があると言っていたことがある。

 空手部に入ったのも、試験に受かりやすくするためと言っていたはずだ。

 それなのに、俺なんかのために夢を棒に振るなんて、絶対ダメだ。

 俺の言葉に、山田はムッとした顔で声を荒げる。


「だって、友達の一大事なんだぜ!? 助けねえの、ダチのすることじゃねえじゃん! 一発梓川ぶん殴って退学処分とかもなんかある意味でカッコ良さそうだなーって思ったけど、それだと最低なだけじゃん。だから、辞めるだけにした!」

「山田……」

「それによ、友達を助けるために部活辞めるのも、ロマンあるだろ?」

「……お前な」

「そ、そうだよ! 山田くんは間違ってないよ! 皆のほうが冷たいよ!! 小鳥遊君はそんなことするような人じゃないもん! そのためにこの部活を発足したんだから!!」

「星宮さんまで……」


 うちの学校は2人以上いないと部活とは認めてもらえないはず……だとしたら、後、もう一人は誰なんだ? 

 すっとカウンター越しから視線を感じて、手を上げている丸眼鏡の彼女はかちゃりと眼鏡を整えた。


「田中!?」

「自分、星宮さんと小鳥遊さんの会話は知っていたので」

「い、いや、だとしても田中とはあんまり話したことないだろ」

「自分も恩人に礼を欠く人間でいたくないので」


 まっすぐ見据える田中の黒い瞳が、なぜだか怒りを感じる。


「とにかく、ここにいる全員は君が大好きってことだよ。小鳥ちゃん」


 鶩名さんの言葉が俺の心に突き刺さる。

 俺のこの一年間、いや半年と数か月だけれど、誰かに優しくあろうとしたのは、そういう生き方をしていこうと思ったのは、間違いじゃなかったんだ。


「…………っ、みんな、ありがとう」


 俺は涙ぐみそうになるのを必死に堪えて、この場にいるみんなに頭を下げた。

 気にすんなよ、と笑い飛ばす山田も。

 頑張ろうね! とガッツポーズを取る星宮さんも。

 当然ですね、っと眼鏡の位置を整える田中も。

 俺は、素敵な人たちと知り合えたのだと、心から痛感した。




「それから、掲示板に張られていた写真だけど……」

「あ、ああ」


 その言葉だけを聞くと、頭を殴られる感覚がするが耐えよう。

 だって俺は梓川にそんな行為をしていないのは間違いないことなんだ。

 星宮さんが写真を一枚一枚、テーブルに置いていく。

 ……やっぱり、そういう行為をしているように見えるよな、どの写真も。

 山田は一枚の写真を手に取ると、眉を寄せていぶかし気に写真を見る。


「見た時から思ってたけど、やっぱりどの写真も結合部は映ってねえんだよな」

「は……?」


 ふと、山田の言葉に固まった崚汰。

 慌てて俺は他の写真をそれぞれ確認し始めると、田中が山田に質問した。


「それはどういう意味ですか、山田氏」

「ん? だから、その……オマーン湖に棒が刺さってねえなって話」

「山田、お前……」

「冷めた目で見るなよ崚汰ぁ! これでもマイルドに言っただろぉ!?」


 俺の視線に焦る山田は言葉を選んだつもりなのは重々承知だ。

 ひねり出そうとしたのは伝わるけど、ぼかし切れてないんだよ馬鹿。

 星宮さんは可愛らしく首を傾げる。


「オマーン湖……? 確か、架空の湖のはずだよね。でも、棒と何か関連性があったかな……田中さんはどう思う?」

「……マドンナ、特にその話に関してはお気になさる必要はないかと」

「そうなの?」

「はい、ただ単に山田氏が最低下劣な畜生なだけです、今後からは猿という愛称で呼ぶのがいいでしょう。ラッキーアイテムは無視の心です」

「おい! なんだよ猿って!! 猿じゃなかったら俺人間じゃねえじゃん!! 俺らのご先祖様はホモサピエンスなんだぞ!?」

「山田……たぶんそういう意味じゃないぞ」


 田中、まともなこと言ってるけどきっと田中が言いたいのはそういうことじゃない。


「…………例え話は置いておいて、どうして田中氏はそう感じたんですか?」

「えーっと、崚汰。ぼかした方がいいか?」

「ストレートに言ってくれ、じゃないと俺も推理できない」

「わかった」


 山田は頷くと女子二人にもわかるように話し始めた。


「俺、友達と一緒にエロ漫画見た時があってさ、晏奈と崚汰の写真、どれも服で隠れててエッチしてる部分? ……その、さっき言った結合部なんだけど、どの写真も写ってなかったんだよ」

「山田君、そういうの見たことあるんだ」

「友達のをちょっとなー!」

「……それは確かに言えてる。さっきもう一回全部の写真を確認したけど、どれも写ってなかった」

「そうなんですか?」

「あ、ああ」


 女性相手に言葉を選ぶのは大変だ。だがしかし、こういう状況で下手な嘘を使うわけにもいかない。


「崚汰もエロ漫画一緒に見たことあるぜー」

「え? そ、それって……?」

「ん? ああ、俺の親父が持ってたやつ! 崚汰ってそういうの持ってないからさー弟君のために買ってないんだもんなー」

「山田、別に今言う必要なくないか?」


 へへ、っと笑う山田に俺は苦笑する。

 確かに、健太には赤ちゃんはどう産まれるの? って聞かれた時、「コウノトリが運んでくるんだぞ」としか教えてないが……いつか、友達と一緒に知っちゃうかもしれない可能性があるよな。山田みたいなタイプがいたら。

 といっても、今の状態でそんなことが起きることはないはずだが。


「話を戻してもいいか?」

「あ、悪ぃ崚汰」

「それで健太から聞いたんだけど、梓川から俺と……してる映像を見たって言うんだ」

「「「え!?」」」

「……そういう反応になるよな」


 三人が声を揃えて俺を見る。

 みんなの顔が、驚きへと変わるのはよくわかる。

 ……そう、そうなのだ。俺は梓川に何もしていないなら、健太が動画を見て見間違うはずがない。間違えるわけがないんだ。

 そう、これを話してしまえばきっともう、俺の味方は誰もいなくなる。

 この図書室から、三人は退室するだろう。

 俺は顔を俯かせて、ゆっくと目を閉じる。


に関しては、僕が見ればすぐにわかるよ」


 よく通るその声に、俺はおもてを上げ彼女の方へと振り返る。

 ずっと椅子に座って足を組んでいた鶩名さんが立ち上がった。


「……鶩名むめいさん?」

「君が梓川晏奈あずさがわあんなに何もしてないとわかっていないのに、そこの彼らを協力者に選ぶわけないだろう?」

「……それ、は」

「そ、そうだぜ! 崚汰が何もしてないって言ってるのに、動画があったからって日酔ひよってたら、ぜってぇ誤解されたままじゃねえか! 俺らがそうはさせねえよ!」

「まだ諦めちゃダメだよ、小鳥遊君!」

「自分もそう思います」

「みんな……」


 山田は大声で宣言するとそれに続けて星宮さんは頷き、田中は眼鏡のブリッジを正した。潤んでくる視界に、鶩名さんは優しくこう告げた。


「泣く場合じゃないよ、小鳥ちゃん。君は真実を導き出さなくちゃいけないんだから」

「鶩名さん……」

「それに、僕は仕事でここに来ている。ミステリー研究会の顧問として、そして神秘探偵としても、ね」


 俺は目元を袖で無理やり拭って、目の前にいる四人に質問した。


「……みんな、協力してくれるか?」

「「「もちろん!」」」

「当たり前だね」


 団結し直したところで、俺たちは互いに状況整理を始めるのだった。


「じゃあ、まずどうして梓川晏奈あずさがわあんなが動画を用意できたのかを考えてみようか」


 鶩名さんはどこからかホワイトボードを持ってきて、黒いマーカーで議題を書き出した。うん、議論にすべきなのはまずそれだよな。

 梓川と一緒にいたことなんて、指折り数えらえる程度くらいだ。

 それなのに、どうして健太が誤解したのか……それを考えていこう。

 すっと綺麗な姿勢で田中は手を上げる。


「動画はおそらく、スマートフォンやカメラで撮った物だと思われます。きっと小鳥遊氏の弟氏に見せたのは加工されたものかと」

「加工?」


 田中は手を下ろすと、淡々と理由を説明し始めた。


「はい。録音した音声を動画に追加できる方法はいくらでもあります。大方、元々撮っておいた動画にスマートフォンのアプリか、パソコンで動画編集したものを見せたのかと思います」

「ああ、そうか。だったら納得だな。俺の知り合いにも動画投稿サイトに自分が編集した動画をアップしている奴がいるから」

「崚汰も人脈広いよなー」

「お前と星宮さんほどじゃないよ、知ってるだろ?」


 確かに田中の言っていることは筋が通っている。

 しかし、だったとするなら疑問がある。


「けど、梓川と会話なんて数えるくらいしかしたことないぞ? ……俺の声を録音するなんて、そんな隙を学校内で見せた覚えはないし」

「いえ、梓川氏が録音した物かまではこれから調べていかなければ誰なのかはわかりません。別の人物の可能性も疑っておくべきです」

「そ、そうか……なんか田中イキイキしてないか?」


 今まで、図書室の本を借りる時にかあまり話したことはなかったが、明らかに流暢に話す田中に少し探偵のようにスラスラと出てくる推察に驚かされる。

 推理物で田中が主人公の小説があったら、少し読んでみたくなるほどには。


「推理小説はホームズなどの王道物から、一般小説の人気小説、ライトノベルのマイナー小説まで総なめにしていると自負しているので」


 カチャリと田中は眼鏡をヨロイを整える。

 さすが文学少女……って、俺がイメージする文学少女はどちらかと言ったら、純文学や一般小説ばかり読んでいるイメージなんだけどな。


「おそらく、梓川氏には協力者がいた可能性が高いかと」

「協力者かー……かっこいい響きだけど、何もしてない崚汰にそういうことすんのって腹立つわ」

「協力者、か」

「……小鳥遊君」


 俺は顎に手を当てて考える。

 だとすると、俺に恨みを持っている人物の可能性が高いな。

 星宮さんのあのやり取りを見て、だったら俺も勘違いの可能性もゼロじゃないと思っているからどうとも言えない。けど、恨みを持たれないように振舞っていても恨みを持たれることがあるとするなら俺にはお手上げだ。


「とりあえず、三人は梓川の身の回りの知り合いに話すことができたりしたか?」

「え、えっと……私の場合は、梓川さんに聞こうとしたんだけど他の女子の子たちから妨害されて聞き出せなかったよ」

「そうか……田中は?」


 星宮さんの場合、男子も女子の人気も勝ち得ているからこそ下手に特定の相手になると問題が生じるから、そこまでは期待していない。

 星宮の人海戦術はどこかで役立つはずなのはわかっているので、深く咎めなかった。俺は田中の方へと視線を投げかけると、無表情なのに目が悔しそうに揺れていた。


「……自分も、ああいう方々と関わるのは基本避けていたので。中々、取り合ってくれませんでした」

「そっか、ごめんな二人とも」

「ごめんね、小鳥遊君」

「……お役に立てず、申し訳ないです」

「気にしなくていいさ、今は自分たちが今用いる情報を交換し合っているんだ。翌日になったら聞ける話もあるかもしれないから大丈夫だよ」


 俺は三人に気を重くし過ぎないように笑いかける。

 もう、打つ手なし、なのだろうか。


「でも、なるべく早めに蹴りを付けた方がいい。こういう話はPTAもうるさいからね」

鶩名むめいさん……」


 ホワイトボードの前で立っている鶩名さんは冷静に言った。


「少なくとも、僕がここにいるのはそういう関連のことも含めてるというのは忘れないでほしいな。ここの三人は知らないことではあるけれど、ね」

「……あ、」


 そうだ、あの写真も映像も偽物だって、鶩名さんが言ってくれたことなんだ。

 セークレートゥムが、神秘が関係しているって。

 でも時間が足りない、俺が築き上げた人脈は今頼れるか自信が持てない。


「大丈夫、僕が付いてるよ小鳥ちゃん」


 彼女の言葉に期待で凍りかけた心に微量の熱が灯る。

 もしかしたら、覆せないと思った現実を変える時が来たのだと宣告された気分だった。

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