第2話 汚らしい世界の日常
五時間目の休み時間にクラスメイトの
「小鳥遊君ごめんね、また頼んじゃって」
「いや、困った時はお互い様だからいいよ。女の子の頼みを断るのは男が廃るって父さんが言ってたから」
「ふふ、そっか」
歌うようなソプラノボイスの彼女は、今日も可憐に微笑む。
秋の寒空に彼女の金髪が夕焼けの光に当たって海外のCMなどで見る麦畑のように光り輝いている。髪飾りで星が付いたヘアピンが彼女のチャームポイントと言えるだろう。
色白のその肌は赤らんで、彼女が少し肌寒そうに白い息を吐いた。
それに、星宮さんが俺を基本的に誘う意味は特別聞くつもりはない。
思春期ならありがちな恋愛感情だとか、そこまで自己中になどなるつもりなどないつもりの俺でも、察してしまうことぐらいはある。
「どうしたの、こっちじっと見て」
彼女は頬を少し赤らめながらも不思議そうにこちらの顔を覗いてくる。
あまりじろじろ見るのもいけないと思ったが、彼女にはバレバレだったようだ。
「いや、マドンナは横顔も美人だなと」
「……小鳥遊君?」
むっとした視線が俺の横から感じた。
苦笑しつつも、俺は言い訳をした。
「……嫌味じゃないぞ? みんなに愛されるマドンナを独り占めして痛い視線を向けられている俺としてはそんな嘘なんて絶対言えないさ」
「わかってるよ、大丈夫――――みんなじゃなくて、君がいいんだけどな」
俺はわざと、星宮が零した言葉をわざと聞き流した。
俺は、ははっと笑った。
「そっか、安心した」
「……うん」
「そろそろ教室だな」
「そうだね」
俺たちはクラスである1-Aまで向かった。
俺の通っている高校である
マドンナあるあるであるスリーワードを保持している二次元キャラ級の美少女だ。わかりやすくいうと眉目秀麗とスポーツ万能、成績優秀という奴である。学校では髪を染めるのは基本的にいけないが彼女の場合外国人とのハーフと言うことで許されているのだとか。
学校名の星と苗字の星を冠したマドンナなんて彼女くらいだろう。もちろん彼女のような人と一緒にいたら嫉妬心をむき出しにしてくる男子はいる。
どんな世界でも普通は美少女にデレデレしない男は滅多にいないしな。だからもし彼女の手伝いをする時は先生に頼まれたわけじゃなかったらなるべく彼女に好意を抱いている他の男子に頼だりすることもある……さぁ、今日はどうなるかな。
「おーい、崚汰ぁー!」
どこからか活発的なイメージの彼の声にしては情けない大声が聞こえてくる。
同じクラスの
「どうしたの山田君」
「あ、星宮さん! 実は崚汰に頼みごとがあってさー……ちょっといい?」
「なんだ? 今プリント運んでるから持つ系は無理だぞ」
「それがさぁ、俺の学ランのボタン取れちゃってさー……頼む! 崚汰!! 一生のお願い!!」
「お前の一生のお願いはいくつあるんだよ、普通は一人一つなんだぞ」
「頼むよぉ!! 後生だ!!」
俺は苦笑いしながら答えると山田に拝まれた。
まあ断る理由もないし、いいか。
「ったく。しかたないなぁ、じゃあプリント1-Aの教室に持ってくれるか?」
「え!? マジ!?」
「マドンナも一緒だから、丁重に扱えよ。俺たちのマドンナなんだからな」
「ラジャー!! サンキュー崚汰! 愛してるぜ」
「はいはい」
山田は余裕そうにしながら、星宮さんに笑いかける。
「それじゃあ星宮さん、一緒に持ってくなー! よろしくぅ!!」
「うん、お願いね」
山田のハイテンションっぷりにも苦笑せずに笑う彼女は、天使ではなかろうか……とでも山田は思ってるのだろうな。
ああ、でも高座さんにこれだけは渡さないと。
「ちょっと待ってくれ、星宮さん」
「え? 何?」
高座さんに片手を使って彼女の制服のポケットにカイロを入れた。
「後でそれで手を温めてくれ、俺たちのマドンナがひもじい思いをされたら困るからさ」
「あぁ! 崚汰、お前スマートじゃねえかよ! 実は高座さんに惚れてんだろぉ」
「そんな風にふざけるなら、ボタンは自分で付けられるよな?」
「ごめんなさい!! 崚汰様!! 俺は何も言いません! お口ミッ〇ィーします!」
「そうか、もし今日にまた同じこと言ったら次の一生のお願いは聞いてやらないところだったよ」
馬鹿な山田はニタニタと含み笑いを始めたので脅してやると少し顔を上げ直立不動になる。でも数秒すると、すぐにあれ? とか言い出して俺を指差した。
「でも、お前カイロとかあんまり女子に渡さねえじゃん」
「お前だってカイロがあったらマドンナに渡すだろ、常識だ常識」
「そっか。じゃ、行こうぜ星宮さん!」
「う、うん。また後でね。小鳥遊くん」
「ああ」
山田は星宮さんは互いにプリント持って一緒に1ーAの教室に歩き始めたのを確認すると俺は渡り廊下に留まったまま、外から聞こえてくるある声を耳にする。
『ガガガ、ガガ』
俺はソイツの声が響くので、かけていた眼鏡を外した。
もちろん、他の生徒には気づかれないように眼鏡拭きも懐から取り出して、眼鏡を拭きながら見ることにした。
おそらく声からして一匹、とでもいうべきか……雑草の中から視線を感じた。
木々が赤く生い茂り、紅葉の時期だというのも明白だ。イチョウも黄色くなったというのにソイツだけは、夏のホタルよりも緑色の光を放っている。
雪だるまを作ろうとした子供が泣き出しそうなくらい怖い顔をしている、ファンタジーで言うところの精霊のようなものが、そこにいる。
『ガガガ、ガガ』
……普通の子供が見たら、絶対大泣きするな。
まあ、俺はお前に話しかけることはないけどさ。
『ガガガ、ガ』
「うん、やっぱり秋だから少し寒いな」
俺は、眼鏡を拭き終わって眼鏡をかけ直す。
そう、俺は校庭の樹を見ていただけ、ちょっと眼鏡が曇った気がしたから眼鏡を拭いていた、ただそれだけだ。
――もう、関わらないようにすると決めたんだ、あの日から。
いつも通り俺は自分の日常を過ごすために教室へと戻る。
今日も、俺はこんな毎日を過ごすために歩き始めるのだった。
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