――3000年前

荒れ狂う街中。

戦場からかなり距離がある筈だが、赤黒い煙と鉄臭いにおい蔓延していた。

私は突然の魔物の襲撃の対処へと追われていた。

必死になりながら魔物と戦っている騎士。それを想像し、出来るだけ早く対処法を考えねばならないと思った。

皇帝である私は、真っ先に戦場へと飛び出そうとしたが、部下に止められた。私の後を追ってきたレーナにも止められてしまった。

……私は何処かで分かっていた。私が出た所で到底敵わない。魔物は500や600体は私だけでも対処出来るだろう。だが今回は違う。明らかに桁が違うのだ。1000など、そういう次元では無い。100000十万なのだ。

一体如何したら良いんだ……!?

せめて彼が居れば何とかなったものの……

生憎彼は助けに来る事は出来ない。彼は遂数日前に「転生するから探すな」という置手紙だけを残し去っていった。

彼の名前はノア。人類最強と言われているノアである。

本人は自分より強い奴はゴロゴロいると言っていたが、そんなにいて堪るかと苦笑を浮かべたのは言うまでもない。


こんな所で現実逃避はしてられない。


城壁を突破されると一般市民まで被害が出てしまう。民衆の避難は粗方終わっているが、途中で逸れた人が数人いると報告を受けている。

城壁が落ちるという事は国の総戦力の約半分がなくなった事を意味する。

そうなる前に何とか対処法を考えなければならない。


国が1代目で滅亡して堪るか……!

絶対に、国を…皆を、守らなければ………!!


再び自分へ喝を入れる。

私は魔法が得意だ。魔法を使って国を守る方法は………あるにはある。

だが…いや、今は迷っている暇は無い。

やってみるしか無いか……

私は立ち上がり、大広間へ急ぎ足で向かう。途中ですれ違った騎士に撤退の狼煙を上げるように言った。それと、城の者たちを大広間に集めるようにも言った。

そして、暫く速足で歩いたら大広間に着いた。其処には戦いに出ていた騎士たちが息を切らして集まっていた。中には片腕が無くなっていたり、足が無くなっている者もいた。私は思わず顔を顰めそうになってしまった。

相変わらず仕事がはやい様だ。

そう思いながら玉座に座る。


「此処に集まった者達の顔を見るのはこれで最後だ。」

私が最初に放った言葉に騎士やメイド、宰相、そしてレーナが目を見開いた。


「……ど、如何いうことですかっ!?」

数秒の沈黙を破ったのはレーナだ。

彼女の声が大広間に響き渡った。

予想通りの反応だった。

「あの魔法を使う。」

大広間に集まった人々は「あの魔法」の事が分からず揃い揃って首を傾げる。

今度はその言葉に反応したのは宰相だった。宰相は驚愕という字を切って貼り付けた様な顔をして口を開く。

「陛下!! その魔法を使うと陛下の魔力が1%を切ります……!」

宰相の言葉に人々は騒ぎ出す。

「もう決めたことだ。今更止めても聞かん。」

城の人達はアークスノウの魔力量を知っていた。その彼の魔力が1%を切るという事は自分達が生きている間に目覚める事は無いという事を示す。

幾ら魔力回復薬を飲んだとしても足りないのだ。アークスノウの魔力はそれ程多かったのだ。

「言う事はそれだけだ。」

それだけ言い残し玉座を立つ。

城の人達がいる方向へと歩いたら、アークスノウが通る道を開けた。

そしてその道を真っ直ぐ歩き大広間を出た。その足で城の中心に向かう。出来るだけ早く、門が破られる前に。

中心に着くと、直ぐに詠唱を始める。

「我が魔力を供物にし、より強固な壁を創造したまえ。水を根源とする冷氷よ、攻撃を防ぐ盾となれ。」

一息に止まらず詠唱を唱える。

「――氷護盾冷守結界アス・イラーシストル!!」

魔法名を叫ぶと魔力が急激に減った。そして残り100を切ると思った瞬間、視界が暗転した。



記憶は其処で途切れていた。

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