目的地

盗賊の襲撃から2時間が経っていた。

あとどれくらいで着くのだろうか。座っているだけなのはすごく暇だった。


……ところで、盗賊の行方は何処なんだ?と、思うだろうから言っておく。


置いてきたよ。


大勢の移動手段は限られている。一番早いのは、【収納魔法ストレージ】に収納する事だ。一応出来るが、俺の場合、中に魔素が大量にしまわれている。魔力切れを起こした時用に保険で入れていたやつだ。飽和状態は人体にも悪影響を及ぼす上、少し刺激しただけでも爆発してしまうのだ。

……うん。まあ要するに死ぬって事だな。皆は危ないからやらないほうがいいと思う。絶対に。


それからしばらくして。


「——着いたぞ。」

ルークの声と共に馬車の動く速度が緩やかになる。


やっと着いたか。2時間くらいずっと座りっぱなしだったな……


そして馬車が完全に止まってからドアを開ける。

そこにはどこかで見たことがある様な懐かしい街並みが広がっていた。


ここは——…


「カルティリュット国になる前、カルティリュット国だった時の帝都だった場所だ。街の名は"スノウ"だ。」

"スノウ"……アークスノウのスノウ、か? すごく安直だな。

それを本人に言ったら、『なんだよ、悪いか。あと、お前俺がネーミングセンス皆無なの知ってるだろ』という言葉が返ってきそうだ。


「なるほど。で、お前は何をしにここに来たんだ?」

「ああ、それは——」

何だろう。多分、アークスノウに関連する事だろうが……



「——…墓だよ。カルティリュットの初代皇帝、アークスノウの墓に祈りに行くんだ。」

墓、ね……彼奴なら3000年以上は余裕で生きると思うのだがな………

と言うか、現在進行形で生きたんじゃないの?


先程は振れていなかったが、確かにアークスノウの魔力が微かに残っているのがわかる。

普通、魔力の残滓は3000年経つと消えるものだ。流石に俺の魔力でもここまで多く残らないだろう。水で例えてみると、せいぜい片手で掬って零れ落ちない程度の量しか残らないだろう。

が、アークスノウの魔力それより多く残っている。両手を使って掬い、少し溢れ落ちるくらいの量である。

まさか、生きているのか? いや、それならもっと魔力反応が大きい筈だ。一体、アークスノウの身に何が起こってるのだろうか。

ここからではあまり分からない。

墓に行ったら何か分かるかもしれない。


「なあ、その墓がある所に俺も行っていいか?」

駄目だったら隠れて行くしかないな。


そう考えていると、ルークから返事が返ったきた。

ルークの返答はYesだった。「一般公開されている所なら入れると思うよ。」だとさ。

なるほど。一般公開されている所があるという事は、されていない所もある。非公開ゾーンは忍び込むしかないだろうな……


「んじゃ、早速行ってくる。じゃな!」

そう言い残してルークの元を去った。

依頼書には馬車での移動中の護衛と書かれていたので、これはセーフだ。……多分。



「あ、まだ場所教えてない——…って、もう見えん……どんだけ足速いんだよ彼奴。」

遠くから声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る