過去の記憶

「久し振りだな、ノアよ。」

「お久し振りですね、アークスノウ・リィ・様?」

俺は目の前にいる、カルティリュット帝国の初代皇帝、アークスノウ・リィ・カルティリュットに言う。

「……楽な話し方で良い。」

「それはもっと前に言ってくれよ……アーク」

「お前が敬語で話しているところを見たかったのだ。…気持ち悪かったぞ。」

「あ゛? 決闘すっか?」

アークに向かって殺気を放ちつつ、ドス黒い笑みを浮かべる。


あれ、思ったより低い声が出たな……?


「スマン許して。」

「……… ところで、随分忙しいようだが…大丈夫か?」

アークは先程からずっと手を動かしていた。

ここは執務室である。アークの机には書類が大量に積まれている。――70cmくらいの山があと、7、8山ある。

「――かなりヤバイ」

アークはやたら真剣そうな顔をする。

「……期限は?」

「明日だ。」

即答された。今は午後11時37分。明日まで残り30分を切っている。

「―――手伝ってやろうか……? と言いたいところだが……」

「――無理なんだよな〜〜〜……」

こうなるのだったら、皇帝にならなければよかったとアークは肩を落とす。

だが、手は止まっていない。


……………

しばし沈黙が続く。

そして、奴は来た。

「やあ!」

どこからともなく、レイヅキの声が聞こえてきた。

やはりこいつは神出鬼没だ。

――…あっさりと魔力感知を掻い潜るの、やめてもらえませんかね。

「ゴメンネ、神出鬼没で。」

そしてしれっと心の声を聞くな。

「で? こんな忙しい時になんだ?」

アークはレイヅキに訊ねる。

もちろん、手を動かしながら。

「忙しい君にプレゼントだ。受け取れ。」

そう言ったレイヅキの手には、光の粒子が見える。

「――?」

アークは「何だそれ」と、周りにはてなを浮かべている。

俺から見た光の粒子は、何かの能力を持っているようだ。

それはわかるのだが、何の能力を持っているかはわからない。


「速くなるか、増えるか、どっちがいい?」

今の質問で、アークの周りははてなで埋まった。


「じゃあ、増える?で。」

アークははてなて埋もれながらも答える。

「了解。」

レイヅキの手にある光の粒子の構造が、ゆっくりと作り変わってゆく。

完成間近になった時に、光の粒子の事が分かった。

どうやら、光の粒子は能力スキル能力の素らしい。

レイヅキの手にある光の粒子に与えられた能力は【特化分身】。

【特化分身】は、ある物事に特化した分身を生み出すことができる能力スキルである。

今回、レイヅキが創ったこの【特化分身】は特殊らしく、仕事に特化するように最初から作られている。なので、仕事以外に特化した分身は作れない。

完成した、能力を持つ光の粒子は、アークに向かって飛んでいった。


「よし、これでオッケー。今創った能力スキル――【特化分身】をあげた。早速使ってみて。ちなみに、仕事に特化した分身を出せるようになっている。」

「ああ。―――こうか?」

アークが二人になる。

「「意外と便利だな。」」

「だろ? じゃ、俺はこれで。仕事頑張れよ!」

そう言い残して、レイヅキは転移し消えた。

「……アーク、手、止まってるぞ。」

時計を見ると、11時56分になっていた。

「「あああ―――――――――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」」

アークは分身を10体くらい出して、全力で実務に取り掛かった。

そして、12時になる頃には――…


――…寝落ちしていたのだった。



翌日、午前5時頃。


「―――はっ……」

アークが起きた。

「……俺は………執務を…して……って、ああ―――――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

執務室にアークの叫び声が響き渡る。

「仕事終わってねぇ―――‼︎‼︎‼︎」


俺はそれを見て、ひたすら腹を抱えて爆笑していた。

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