アビス大迷宮・7

〈すみませんでした―――――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎〉

最深淵近層にそんな声が響く。

にしても、情けない竜だな。一瞬で誇りを捨てるなんて。


『おい緋竜、そのでかい体は邪魔だから人化してね。……そういえば、ヒーちゃんは? 君、ヒーちゃんの配下だよね。』

〈ヒーちゃん……緋龍様の事ですか? 緋龍様は、何処かの誰かさんに溶かされてましたよ。〉

緋竜はそう言ってコウセイを見る。

そういえば、緋龍を倒したって言ってたな。

コウセイが一歩後ずさったのが見えた。

「どれくらい回復している?」

場合によっては治癒するかもしれない。

〈残念ながら、まだドロドロと溶けています。――誰かの所為で。〉

どんだけ根に持ってんだよ。

「治してやる。」

〈え、いいんですか⁉︎〉

「ああ。緋龍は何処にいる?」

〈こっちで溶けています。〉

そう言って、緋竜は歩きだした。


〈コレです。〉

――思ってたより酷くなかったな。

緋龍は、半分くらい溶けていた。

てっきり全部溶けているのかと思ってたんだけど……

まあ、よかった。


「【大治癒光セルテラ】 これで大丈夫な筈。」


《………礼を言う。》

緋龍が起き上がった。


『ヒーちゃん、久し振り。』

《おう、久し振り。あと、ヒーちゃん言うな。》

『…バレたか。』

《…バレたか。じゃねぇよエン!》

『首痛いから早よ人化して。』

《分かった分かった。今からするから…》

そう言って緋龍は、リュウ種特有の【人化】の能力スキルを使った。

今の緋龍の姿は緋色の長髪を持つ青年だ。

《で、我等に何の用だ》

「何の用だって言われても…… お前には一切用は無い。」


《………………え?》

緋龍が間抜けな顔をした。

《無いの?》

「ああ。」

《本当に?》

「ああ。」

《本当の本当に?》

「ああ。」

《全く無い?》

「ああ。」

《本当の本当に全く無い?》

「あ、ああ。」

《本当の本当の本当の本当に無い?》

――こいつ、うざいな。

「よし、帰るぞ。」

『じゃーねー、ヒーちゃん。』

こういう時はさっさと切り上げると楽だ。


《あーあー、ゴホン。あのー、ここにずっといて、暇で暇で仕方が無いので、あー、仲間に、して、下さい……》

『ごめんもうちょっと分かり易く言って』

これ絶対に確信犯だ。

《暇なので、仲間にして下さい……》

『素直でよろしい。』

エン、肩が震えているぞ。

隠すならしっかり隠せって。


そんなこんなで緋龍が話し合いで仲間になった。

俺としては強敵に出会いたかったかな。

こう、なんか、本気を出せる相手と。そして勿論俺が勝つ。

いつか現れるといいな。俺と本気でやり合える敵。



ノアは、アビス大迷宮の魔物の群れを殲滅しながら考えていたのだった。









この時、もう既に折ろうにも折れない回避不可能なフラグが立っていた。

ノアと本気でやり合える様な、強い敵が現れる。

その正体は――。


勿論この事は、この頃の俺には知る由も無く。

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