大雨
彼女と別れてから一日がたった。二日がたった。そうやって数えている自分がいる。あの日と同じような大粒の雨、貫くような寒い朝。時間が戻ってもわからないような重苦しい天気の日なのに、あの日から私は幾日分か年をとった。しかし、不思議なことに、体はいつも通り布団の誘惑に抗って顔を洗いに行く。頭もさえていて、「いつも通り」の朝だった。人が死んだのだ。ましてや大切だった友人が亡くなったのだ。もっとぐずぐずになってもいいのではないか。自分に問いかけて気づく。ああ、もう過去になったのか、と。
ご飯を食べて、電車に乗って、駅から五分歩いて学校に着く。同じ高校の人に彼女を知る人はいない。いつも通りに「おはよー」と気の抜けた挨拶を交わす。やっぱりいつも通りだ。それが少しうれしかった。誰かに振り回される人生なんて苦しいだけだろう。自分は自分、人は人、それが保てているようで、このままでいいなと思った。
一限は眠い。以前、保健の時間に「脳の酸素が足りなくなってあくびが出る」と聞いた。だから大きく深呼吸をしてみる。目が覚める気がするからである。口から重い何かが吐き出されたようだった。今日はお昼休みまでずっと眠かった。さすがに疲れが出ているのかもしれないが、保健室に行く気分じゃなかった。仲の良い友達三人と机をくっつけてご飯を食べる。食事中、会話が止まることはない。いつも話題を持て来てくれる祐奈が今日も数学の先生のネクタイのデザインを食事の肴に持ってきた。今日の弁当は、おにぎりとハンバーグ、ブロッコリー、ミニトマトだ。
あ、ミニトマト。
あの子はミニトマトが大嫌いだったな。
どっと波が押し寄せる。ああ、しまった。雨音がどんどん大きくなる。体を強く揺さぶられたような感覚。ひたり、ひたりと深く、暗い何かが侵食してくるようだった。
「加奈?」
名前を呼ばれてハッとする。ここは学校だ。大丈夫、あの日じゃない。何でもない、ふりをした。
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