第7話 最強の龍は人間の町に入る

「ちょっとそこの男前、この町に来るのは初めてかい?」


 並んで待っていると唐突に目の前の男から話しかけられる。どうやらあたりをきょろきょろ見ていた様子から慣れない土地に来たことを察したらしい。この際ついでだからわからないことをいろいろと聞いてみることにした。


「ああ、初めて訪れた。ところでこの町に入るときの注意事項とかあるか?」


「注意事項、か。随分ざっくりとした質問だが、まず町に入るのに銅貨三枚がいる。」


 ん?銅貨?そんなものがいるのか。


「その様子だとそれすらも知らなかったみたいだな。町や国によっちゃとられないところもあるが、アルカート王国の玄関口とも呼ばれるこの町、ドルアでは人の往来が激しい。なんせこの辺は強力な魔物たちが多い分、貴重な素材が手に入りやすいからな。交易が活発で俺もよく来るし、冒険者たちも多く駐在している。だからこそ出入り口と場所ではお金をとられるのさ。」


 魔物とは野生の動物という枠組みから外れた存在で、ある一定以上の存在値を持つ存在を指す。雑談チャット級、ルーモア級、評判レピュテーション級、名声フェイム級、褒章メダル級、伝説レジェンド級、神話ミソロジー級の七段階で分類されており、この順番でだんだん強くなっていく。ちなみに魔物を狩る存在である冒険者も同じように段階分けされており、現在伝説レジェンド級は世界で三人、神話ミソロジー級は世界で二人しか存在しない。


 これは余談だが、銀星龍ハイヴェリオンは神話ミソロジー級に含まれる、と表向きには公表されているが、極秘裏に神話ミソロジー級より上の無双ノーワン級に分類されている。


「近かったからここに来てみたが、もしかして別の町に行ったほうがいいかもな。」


「誰か助けてくれ!インファイトグリズリーが襲ってきた!!」


 説明を聞いて別の場所に行くことを自分の中で検討していると、鬼気迫った声が聞こえる。その声のほうを向くと3メートル近い大きさのクマに四足歩行で追いかけられる人々が。よく見ると男女二人ずつの四人パーティーのようで、重装備を身に着けた男が囮となって他三人の負担を減らすように立ち回っている。


「インファイトグリズリーってたしか褒章メダル級の強さだったよな?」


「そんな強い魔物を倒せる奴なんてそんな都合よくいるのか?」


 周りではインファイトグリズリーという魔物の強さゆえになかなか加勢に出られないでいた。それもそのはず、並んでいたのは行商人たちばかり。護衛を雇ってはいても褒章メダル級に対処できるほどの冒険者が雇われてはいなかったのだ。


 もし仮に褒章メダル級の魔物に対処するには一個上の伝説レジェンド級冒険者が一人か、褒章メダル級冒険者が複数人必要である。世界で三人しかいない伝説レジェンド級冒険者は当然この場におらず、それに準じて少ない褒章メダル級冒険者もいなかった。


 誰も加勢に出てこない状況に緊迫した空気が流れ始めたが、そんな空気にも左右されない奴が一人いた。


「誰も助けてやらないのか。しょうがない、やるか。」


 口では乗り気でない感じを繕いながらも口角は上がっている。刀を振るいたい欲が態度に出てしまっているのだ。対象のほうを向き、刀を抜きながらも駆け出す。


「おい!何やってるんだ!やめとけ!!」


 先程親切にしてくれた男の忠告が聞こえるが知ったこっちゃない。俺は刀流院真司に示してもらった剣の道を極める。この戦いはその目的を達するため数あるうちの一戦でしかない。


「人間の町での初戦が魔物というのも味気ないがせっかくだ。俺の糧になってもらおう。」


 こうして銀星龍ハイヴェリオン、またの名を刀流院リオンの人間の町での初めての戦いが始まるのだった。

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