第6話 最強の龍はやっぱり恐れられている

 銀星龍ハイヴェリオンが人の姿になり、人間の街に着くまでの間、方々では突如起こった不測の事態への対応に追われていた。




 最近ハイヴェリオンに勇者パーティを送り込んできたばかりの国、アルカート王国では国のトップである国王を中心とした緊急会議が行われていた。


「観測班によると銀星龍の存在値が観測不可能な値まで減少したとのこと。勇者パーティーの討伐失敗はすでに確認されているため、現在原因と消息を確認中でございます。」


 観測班からあがった報告をまとめた内容を宰相が円卓を囲む貴族たちに伝える。ちなみに存在値とは、存在感の強さを数値化したもので、平たく言えば生命力の強さ、生物としての強さを示した値である。


「前回消息を絶ったのはいつだ?」


「古い文献によれば350年ほどのようです。そのときも原因がわからなかったようですが、それほど経たずして世界中に轟く咆哮とともに銀星龍ハイヴェリオンの存在値の増大が確認されたと記録に残っています。」


「ええい、いてもいなくても迷惑な存在だ。忌々しい。」


「かといって討伐がうまくいった試しがないだろう。」


「何より人間の姿となって入り込まれたときが一番困る。」


 結局何の解決策も見いだせない無意味な緊急会議は臨機応変という便利な言葉で無理やり解決(?)したのだった。




 一方とある里では。


「長老、真っ白い龍が小っちゃくなったね。」「長老、真っ白い龍がバブちゃんになったね。」


「小さくはなっておるだろうが、赤子にはなっとらんわい。まったく適当なことぬかしおってからに。」


 モンゴルのゲルのような建物の中で上半身裸、下半身はずた袋のようなズボンを履いて座禅を組む髭モジャおじいさんのところへ半袖短パンの快活そうな双子の兄弟が、まるでカブトムシでも捕まえたかのようなリアクションで銀星龍の存在値が減少したことを伝えてくる。いささか偏向報道が過ぎる気もするが。


「とにかくこれを冥刀『死怨しえん』を取り戻すチャンスととらえるべきか。それとも……」


 ここで仕掛けるべきか悩んでいると人の気配が近づいてくる。


「白トカゲの存在値が急低下したみたいだな。なら私は狩りに行くぞ。」


 黒髪ポニーテールで和装に身を包んだ女。腰元には刀と脇差の二本を差している。それは奇しくも刀流院真司のしていた格好に似ていた。


「冷静を装っても無駄じゃぞ、芽汲めぐみ。最低でもこれを素直にチャンスと捉えているうちはお前さんを行かせるわけにはいかんわい。」


「何?」


「あの存在は普通ではない。それは先祖代々伝わる確定事項じゃ。過去の文献や伝承において、奴と戦いになったものすら片手で数えるほどじゃ。どれほどの大きな国でもどれほど精強な軍隊でもできなかった。そのうえ基本的にはやつから喧嘩を売ってくることはない。本来こちらからけしかけるのも馬鹿らしい存在じゃ。」


 銀星龍ハイヴェリオンが刀流院真司に出会うよりも以前。銀星龍ハイヴェリオンは世界最強という肩書きゆえにあらゆる生物から戦いを挑まれていた。その中には当たり前のように人間たちもおり、数も多かった。


 でも戦いにすらならなかった。奴の目の前で意識を保つことができるか。これだけで第一の選別が行われ、次に攻撃が通じるかで第二の選別がなされる。


「奴はおそらく人間と龍、どちらの姿になることができる。それはこれまでの歴史が証明しておる。もしそうなら下手に刺激するのはよくない。泳がせて機会を伺うほうが賢明じゃよ。」


「……クッ。平和ボケしやがって。」


「淑女の言葉遣いとは思えんのう。」


「あんたらは常に自分の命に手がかかっているこの状況を何とも思わないのか!!」


 長老と話せば話すほど冷静さを欠く芽汲。その様子をみた長老は呆れてしまう。


「はあ。未熟じゃな。」


「なんとでも言え。考えることを放棄した老いぼれに用はない。」


 次の瞬間脇差を抜き放ち、次元を切り裂く。切り裂いた先には別の世界が。


「止める気力すらないか、老いぼれ。」


「わざわざ止める気はない。ただ、お前も父と同じ選択をするのじゃな。」


「あの負け犬は関係ない。私は奴を殺すために動く。そのために生きてきた。」


 そういって次元の裂け目を潜り抜ける芽汲の目には憎悪が宿っているのを長老は見逃さなかった。それを見た途端、懐かしい顔に重なって見える。


「やはり親子じゃな。もしかしたら本当にお前と同じ道を辿ることになるかもしれないぞ、真司。」

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