第5話 最強の龍はある決意をする

 そんなこんなで現在俺は洞窟の中に引きこもり、挑戦者たちを待ち受けていた。自分でいろんな場所を回るくらいなら来てもらったほうが効率がいい。そこで適当な場所で咆え、それに危機感を持った人間たちが強者をよこす。強者の入れ食い状態である。


「いい案だと思ったんだがな。実際最初のほうは目を見張るような奴もいたし。そういうやつらは人間の姿で相手してもよかったが、最近の奴らは魅力がなさ過ぎていちいち人間の姿になるのも面倒だ。」


 何回か場所を移してみても挑戦者の質は下がるばかり。もしかして人間の戦いの技術が衰退してきているのではないか。


「いっそ人間の姿になって人里に下りてみるか。」


 人間の常識なんてまるでわからないが、このままでは何も得られない。ここらへんで大きなテコ入れが必要かもしれない。


「真司も少しくらい人間の常識を教えてくれてもよかっただろうに。」


 真司は己の寿命と戦いながら俺に稽古をつけてくれたため、剣のこと以外は何も話してくれなかった。仕方ないとわかりつつも悪態がつきたくなった。


「よし、決めた。常識なんていった先で学べばいい。直接行ってみよう。」


 その決意とともに人間の姿に化ける。ルックスは自分のイメージ次第でどうとでもできるのでイメージしやすい人の顔を思い浮かべる。そう、真司の姿である。ちなみに俺が修行中に化けていた人間の姿もその見た目に近い。格好も真司と同じ水色の着流しを着て、下駄も履いているため瓜二つである。違う点を挙げるなら髪色が銀色であることくらいである。


「こいつも持っていかないとな。」


 そういってそばに置いておいた刀に手をかける。師である刀流院真司の相棒であり、俺が受け継いだ刀である。鞘と持ち手ともに木でできていて、刃の部分は脈動するかのように赤黒く光っている。冥刀『死怨しえん』。一説によれば黄泉平坂よもつひらさかを興味本位で下った男が、黄泉沼よみぬまに手を突っ込んで見つけたとかなんとか。多分嘘だろ。仮に本当であっても俺には関係ないから問題ない。


 洞窟を出た俺は人里を探してとにかくまっすぐ進むことにした。名も知らぬ洞窟は山の頂上付近にあるため、ここから下山することになる。なぜ龍の姿で下山しないのかって?それは今のうちに改めて人間の姿に慣れるためである。


「人間の世界に飛び込むんだから銀星龍ハイヴェリオンとしての力も使わないようにしないと。それに名前も人間としての名前を名乗ろう。『リオン』でいいかな。刀流院リオン。今日から俺は刀流院リオンだ。」


 気持ち新たに山を駆け下りる。人間の姿になろうが身体能力も頑丈さも変わらないため、人外のスピードで直線的に進む。


「あ、これじゃいかん。俺はどんなものにも当たらないつもりで生きるんだった。」


 俺が真司に示してもらった剣士としての境地。『当たらないことが美学』。それは普段から気を付けておくべきことだろう。その結果生い茂る木々の枝一つ一つを最小限の動きで避けながら突き進む。


 修行を兼ねた移動をすること三十分。思ったより時間がかかったなというのが正直な感想である。でもそこはいい。それよりも三回。うち木の枝一回。木の葉に二回当たってしまった。やはりなまってしまっているな。そこは少しずつ詰めていこう。


 自分の中で反省をしつつ前方を見ると大きな壁があり、その前には行列ができている。おそらくあそこが人間が作った街なのだろう。とりあえずあの列に並べばいいのか。かつて俺と戦いに来た挑戦者たちのように。


 そう考えとりあえず空いている列に並ぶのだった。

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