第4話 最強の龍は剣術を学ぶ

「そうだ!自分の思い描いた軌道に沿うように刀を振るえ。イメージと体の動きを常に連動させろ。」


 刀を使った組み手をする銀星龍ハイヴェリオン(人間の姿)の俺と侍の風貌をした刀流院真司。木の棒を削って木刀に変えたうえで組み手は行われていた。修行はいわゆる実戦形式というやつである。本来ならば剣の型から俺に教えてくれるつもりだったらしいが、一目見ただけで次々と完璧に再現してしまったものだから途中でやめてしまった。


「刀を握ったことすらないだろうからと型を教えようとしたが全く必要ないみたいだな。剣術とは先人たちの努力によって最適化された型だ。あくまで一つの指針。示さずに刀を十全に振るえるのならわざわざ覚えなくてもいい。」


 そういってすぐに組み手に切り替わってしまった。それでも剣術には先人たちの意図が見え隠れしているのではないかと問いかけたが、


「先人たちの心も、剣の持つ心意気も、剣術に乗せず俺が直接教えてやるよ。」


 と言い切られたためその言葉を信じることにした。


「剣、まあ俺の場合は刀だが、なぜ心の話をするのか。考え方は人それぞれだが俺は心を鍛えなければ扱いこなすことができないからだと考えている。」


 例えばもし素人に武器を渡して戦わせる場合、特に技術がなくともある程度は形になりやすい槍のようないわゆる長物を渡す場合が多い。もちろんその点は大事だがそれ以上にある程度安全圏から攻撃できるというのは大きな利点だろう。


 しかし刀を扱う場合、自分の身は常に反撃が届く位置で振るう必要がある。その恐怖に打ち勝つことこそ刀を振るうのに必要であるし、前進する姿勢も必要になる。及び腰じゃ刀は振るえないのだ。


「刀は武器であり凶器。自身の持つ刀と相手の持つ武器、両方の刃を恐れる心を持ったうえでその恐怖心をどう御するか。これが刀を振るう者、侍に常に課せられる至上命題である。」


 これらはあくまで刀流院真司という一人の侍の持論である。中には何も考えず刀を振るう者もいるだろうし、刀を道具として見ている者もいる。しかしそんなものには価値を見出していないのだ。


「ろくに俺の鱗を傷つけられない刃を恐れたことなどないが、恐怖を御する心という考え方は面白い。」


「お前さんは刃を恐れること自体が難しいだろう。ならば刃にを美学にしろ。防ぐのではなく避けて反らせ。これを極めるはなかなかに難しいぞ。なんせ俺ができなかったんだからな。」


 そういった次の瞬間に動きが変わる。今まではどこか直線的ではっきりいって読みやすかった。だが今の剣筋は生き物のように動く。ただそれだけなら威力は半減してしまう。真に恐ろしいのはさっきよりも剣速、剣圧ともに増していることだ。


「やはり、真司にお願いしてよかった。」


「そっか。でもその言葉は俺の理想論を叩き込み終わってからだ。」


 こうして刀流院真司の人生は世界最強の龍に稽古をつける形で幕を下ろすのだった。

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