第3話 最強の龍は剣の心を知る

 剣の道に興味が湧いた。それだけで地上に降り立つ龍なんてどこにいるんだよ。あ、俺だったわ。


「世界中から恐れられている最強の龍がまさか人の技術に興味を持つなんてな。思っていたより気さくだし。」


「そりゃあ俺だって売られた喧嘩は買うさ。だが根本的に俺は平和主義者だぜ?パワーだけの存在に興味はないし、それよりも創意工夫を凝らしたもののほうがそそられる。実際人間がつくった建物なんかにも訪ねているしな。」


 あれから銀星龍ハイヴェリオンである俺と刀流院とうりゅういん真司しんじと名乗った侍男は意気投合した。なんというか感性が似ているのだ。片やどの生物よりも力を持って生まれた龍。片や特別誇れるだけの力を持って生まれたわけではない人間。それでも互いが惹かれたのは技術。一言では言い表せないほどの研鑽の結晶。そこにある儚げな価値に二人は魅入られていたのだ。


「別に俺は人間の編み出してきた技術だけが興味の対象ではないぞ。技術あるところに心は宿る。目的のない技術はないからこそ、技術の成り立ち、価値というものに興味を惹かれたのだ。」


 もちろん技術自体にも価値は見出しているが、知ってしまえば習得するだけで終わる。生かせる場面で利用して終わり。それじゃ意味がない。技術を生み出した心意気を知って初めて持っているだけで技術は輝くのだ。


「そんなわけで俺に剣の心ってやつを教えてくれ。」


 そういって姿する。ん?なんで人間になれるのかって?んなもんなろうと思ったらできたんだからしょうがない。人間だってどうやって呼吸を覚えたかわからないだろう?つまりそういうことだ。


 あと服は着てるからね。特にこだわりはないから真司の着ている着流しとかいうやつを参考に生み出して着た。


「この際人間の姿になれることや俺と同じ格好になれることにはあえてつっこまない。それより人間の姿になれるならなんで今までずっと龍の姿だったんだ?人間の姿なら余計な面倒事も避けれたんじゃないのか?」


「そりゃあ人間から何かされることは一気に減ったさ。その代わり大量の魔獣たちに襲われたけどな。」


 人間の姿の俺はどうやら格好の獲物に見えたらしい。どこへ行っても襲われることに嫌気がさして元の姿に戻ったのだった。


「そんなことはどうでもいいから早く教えてくれ。」


「そうだな、死ぬ前に最期の弟子をとるのも悪くない。」


「ん?死ぬ前に、だと?」


 何やら不穏な言葉が聞こえたため思わず問い詰める。いわく今までに体に無理を強いてきたツケがまわってきたらしく、自分の寿命を朧気にだが悟っているらしい。病気や怪我の類ならば俺も力になれたかもしれないが、寿命に関してはどうしようもない。なぜなら俺自身が寿命という概念がない存在だからである。寿命を延ばす術を持つ必要がないのだ。


「俺はこれでも満足している。自分なりに剣の道を究めることができたのだから。」


 そう告げる真司の顔は心なしか悔しさが滲み出ていた。


「まだ生きていたいか?」


 気づけばそう聞いていた。言っちゃ悪いが興味本位である。自分にはない感覚だからこそ聞いてみたいと思った。不躾かもしれない。でも知りたい。


「ぶっちゃけ自分の中で剣の道というやつを極められた気はしない。でも目の前に自分の意思を託せる可能性を持ったものが現れてくれたことは嬉しく思う。」


「じゃあ!」


「ああ。お前に俺なりの剣の道。先人たちが紡ぎあげてきた剣の術というのを教える。」


 ここから俺の、おそらく世界初の龍の剣術修行が始まるのだった。

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