第2話 最強の龍は侍に出会う
その場に立つのは一人の男。ボサボサの黒髪頭で返り血が付着した水色の着流しに身を包み、腰元には刀の鞘が差してある。さらには普段使いする人はなかなかいない下駄を履いている。そして右手には返り血が付着した刀が握られていた。いわゆる侍に分類される存在である。周りには狼たちの死体。その状況が彼の勝利を表していた。
「ふー、なんとか凌げたか。と思ったがそういうわけでもなさそうだ。そこに隠れている者、姿を見せたらどうだ。」
「やはりあれくらいでは死んでくれませんか。」
そんな侍男の前に全身黒装束の暗殺者のような風貌の女が現れた。先ほどまで侍男が戦っていた狼たちは彼女が発奮剤で無理やり興奮させられたことで歯止めが利かずに襲い掛かっていたのである。
「あなたがこちらの打診を引き受けてくださればこういった強硬手段に出る必要もなかったのですがね。」
「剣の道は心の道。敵は常に己自身である。目先の敵しか追うことのできぬ連中に教える技術など、持ち合わせてはおらん。」
そういって刀を正眼に構える。一方女性暗殺者のほうも懐から短剣を二本取り出し、交差して構える。そして両者が刃を交えようとした瞬間、すぐそばに白銀の龍が降り立ったのだった。
銀星龍ハイヴェリオンは侍の戦いぶり、そして話に興味津々だった。
「計算した戦いがこれほど興味深いものとは思わなかった。それに己自身を敵とするというのは面白い。なにより飽きることがなさそうだ。」
生まれながらに戦いには不自由しなかった存在。自分と競り合える者を探したこともあったが、結局見つけることはできなかった。
しかし自分自身を敵とするのならば話は別。自分でもその結論になったことがあったが、鍛え方がわからなかった。
「あの者に聞けば何かわかるかもしれない。」
そう思った瞬間にはその男の近くに降り立っていた。自分がどういった存在なのかもすっかり忘れて。
「む?なんだ?」
空全体に影が差し込み、剣を交えようとしていた侍男と暗殺者の女は、ともに上を見上げる。するとそこに映ったのは銀色に輝く龍の腹。
上を通り過ぎた影はそのまま近くに舞い降りる。すると全体像が見えた。全身白銀に輝く神秘的オーラを放つ龍。その姿を見た瞬間に二人の生存本能が刺激される。
((この生き物は格が違う。))
「い、いや。助けて。」
先に根を上げたのは女暗殺者のほうだった。一瞬にしてパニックを起こしその場で気絶。侍のほうも意識を保つので精一杯である。
「あれ?もしかして、やっちまったか。」
一方加害者サイドの銀星龍ハイヴェリオンは戸惑っていた。降り立っただけでここまで緊張感ある感じになるとは思っていなかったからだ。
しかしこの状況は当然のものである。いきなり目の前に世界最強の生物が現れれば情報処理が追い付かず、パニックになって当然。いまだに意識を保っている侍を褒めるべき場面だ。なによりハイヴェリオンは新しい発見を前に興奮してしまっている。興奮すればするだけ迫力は増す。活力がオーラとなり、存在値となっていく。つまりテンションが上がれば上がるだけ状況は悪化するのである。
「俺は
「えっと。剣の道ってやつに興味が湧いたから教えてもらおうと思って。」
その言葉を聞いて気が抜けてしまったことを誰も攻めることはできないだろう。だが同時にこのことがきっかけで二人の距離が一気に縮まったのだった。
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