侍に魅入られた龍は剣豪の夢をみる
荒場荒荒(あらばこうこう)
第1話 最強の龍は憧れを知る
銀星龍ハイヴェリオン。一枚一枚が白銀のオーラを放つ鱗に全身が覆われた流線型のフォルムでありながら底知れぬ威厳を感じさせる迫力を持った巨大なドラゴン。
いつから存在するのか、何のために存在するのかもわからない最強の龍。信仰の対象とする国もあれば、災厄として畏怖する国もある。ただ共通認識としてあるのは域としけるすべての存在の中で最強であるということ。
そんな当の本人は現在、薄暗い洞窟の中で体を丸めて休息をとっていた。
「お前を倒せば、この世界は救われる。ならば勇者である俺が、平和のために銀星龍ハイヴェリオン、貴様を
「おう。」「ええ。」「はい。」
「御託はいいからさっさとかかってきてくれ。俺は早く寝たいんだ。」
どこかの国から勇者ご一行が俺を討伐するためにやってきたらしい。まあ、どうでもいいんだけど。正直こんな手合いの奴らを相手するのも飽きた。最初のほうは人間の工夫された戦い方に目新しさを感じていたが、最近の奴らは力ばかりを重要視して技術的な工夫が感じられない。
「餓狼激流拳」
ただ力を込めただけのパンチ。つまらん。デコピンでむさっ苦しい拳法男を弾き飛ばす。
「
大きいだけの火の玉。火の粉が鼻に入ってくしゃみ出そう。くしゅん。でかいハットをかぶった魔法少女はくしゃみとともにさようなら。
「オーロラヒール」
勝手に回復されたら無駄に時間かかるだろ。人差し指でポチっと。全身真っ白の女僧侶が俺の指と地面との間で板挟みに。ちょうど潰れないくらいの力加減が肝である。
「よくも俺の仲間を!許さない。いくぞ聖剣エクスカリバー、『ホーリーブレード』!!」
眩しいだけだ、出直せ。聖剣の刃の部分を綺麗に指でつまんで外に投げる。
「あ、あの。さーせんしたーーー!」
丸腰になった騎士の格好した勇者(笑)は両手をあげて逃げていった。
「はあ、なんでこうなったんだろうな。」
時は今から数百年前にまで
それはいつものように空を飛んでいた時のことだった。小腹がすいたので地上に降りて何か獲物を狩ろうとした時のこと。見下ろす先では一人の男が狼の群れに囲まれていた。自分にとっては何の腹の足しにもならず、こちらに気づいた瞬間に逃げ出すので特に気にしたこともなかった。
しかしそれはあくまで自分の場合であって一人の人間からすれば脅威でしかない。それは目の前の男も例外ではなかったようで、武器を振るいつつも行動範囲はどんどん狭まっていき、ついには木の幹に背がついてしまった。しかしそれはその男の作戦だったようだ。
いよいよ逃げ場がなくなったと思った瞬間大きく前へと出て次々に斬り伏せていく。自分への攻撃範囲を絞ることで突破ルートを自ら作り出したのだ。素直に感嘆した。自分には不必要な技術。でも不思議と興味が湧いた。なぜなら追い詰められていたはずの男が笑顔だったからかもしれない。
技術をもって命のやり取りを楽しむ男の姿を見て、銀星龍ハイヴェリオンは生まれて初めて憧れという感情を覚えたのだった。
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