第31話・リリー
叙爵を終えた俺は、冒険者ギルドに戻った。
「ただ今戻りました」
冒険者ギルドの門をくぐると、リリーが俺に駆け寄ってきた。
「帰ってきた、おかえり」
リリーの口調は平坦なものだが、身振り手振りはその限りではない。表情豊かで可愛らしい女の子だ。
リリーは俺のことを、救いだと言っていた。その意味は未だ分からずにいる。
「ただいま、リリー」
駆け寄ってきたリリーの頭を撫でた。
柔らかなリリーの亜麻色の髪がフードの中で波打つ。
「お帰りなさい、サイス冒険伯様。このリリーという子なのですが……ほら、見せてあげて」
受付嬢の言葉にリリーは相槌を打つと、俺の前にリリーはそれを出した。
「ステータス」
―――――――――――――――――
レベル1
HP85000/85000
MP17179869184/17179869184
筋力2500
魔力1717986918480
素早さ1256980
器用さ28450
スキル:神子の権能(祈り)
称号:救われしもの
―――――――――――――――――
それは俺を大いに驚かせた。
「見てくださいこのステータス、レベル1で既にSランク冒険者に匹敵しますよ!」
受付嬢はそういうが、俺が驚いたのはそんな数値的なものではなかった。
リリーのスキルには神子の権能がある。おそらくこれが、俺が神の子と呼ばれた理由になるのだろう。エヴァンス伯爵領を不死者の大群で襲撃したあの人物も、おそらく神子の権能を持っていたのだ。
「リリー、神子の権能について何か知ってるかい?」
「神子、神の子、世界の維持、世界の破壊、決める」
リリーは言った。そして、付け加える。
「五人……いる」
リリーの言葉を俺なりに噛み砕くとこうだ。神子の権能は、神の子に与えられるスキルである。それを持つ者は五人居て、彼らはこの世界を維持するか破壊するかを選択する。
ファフニールの話によるとその前回の選択が破壊だった。
「だけど、俺は神子の権能を持っていない」
それが謎だった。
「五人目、神の可能性」
その謎にリリーは答えを出した。
俺には、神が持つ力は一切与えられていない。よって、神子の権能は発現しなかった。膨大な魔力も、高いステータスも、何もかもが与えられていなかった。代わりに与えられたのは可能性。何者にでも到達できてしまうほどの成長力を手にして生まれていたのだ。
神の子は、皆迫害を受けるように生まれるのだろう。エヴァンス伯爵領を襲ったあの人物は、人間のコミュニティに所属することすら出来ていなかった。リリーは奇形とされる特徴を有し、奴隷として売られていた。ならば、神の子がいる場所は不遇な子供のいる場所である。
推測に推測を重ね、真実というには程遠い、ただの考察である。だが、可能性として考えるには十分な整合性を持っていた。
「リリー、俺は孤児院に行かなきゃならないみたいだ」
行きたくはなかった。だって、そこは無力だった過去の自分と嫌が応にも向き合わなきゃいけない場所だ。
「ついてく」
物事が、急激に真実へと収束していく中で、俺は冷静さを欠いていた。
そのことに気づくのは、帝都を離れてからだった。
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